VOL3.みんな平等
谷中茂は、それなりの大学を出て、それなりの会社に勤めていた。
入社五年も経つと、同期は出世競争に乗り遅れまいと、日々目を血走らせて頑張っている。
「おまえ、ちゃんと先のことを考えてるのか?」
「世の中は理不尽なものだぞ。どれだけ頑張ったて、用済になれば、ポイさ」
「そうそう、だからうならないように、高いポストに就かなくちゃいけないんだよ」
同僚らと呑みに行くと、必ずそんなふうなことを言われた。
だが、茂は、世の中が理不尽なんて、思ったことはない。
結局、自分のやったことが返ってくるだけだと思っている。
今日を楽しまなくてどうする。
老後を考えていたって、人間なんてものは、いつ死ぬかわからないんだ。
そんな考えの茂だから、出世争いからも、とうに脱落していた。
ある日、突然、戦争が起きた。
間違ってか、意図的にかはわからないが、どこかの国が、核爆弾を発射したのだ。
逃げる暇もなく、茂の会社の近辺にも、核弾頭が飛来した。
「こんなことってないよ」
「ああ、こんなことなら、もっと人生を楽しんでおけばよかった」
核の飛来を認めた瞬間、茂の心に、同僚の嘆きが飛び込んできた。
結局、どんなに人生を犠牲にして頑張ったところで、死は突然に訪れる。
死は、どんな人ににも平等だ。
茂の意識が途絶える瞬間、それを思い、茂は、初めて理不尽という言葉を解した。