VOL12.虹
「課長、どうしたんですか? 浮かない顔をしてますよ」
「今年入った上野がさ、用事を頼んだら、教えてもらってないからできませんって言うんだよ」
「仕方ないですよ。ゆとり世代なんですから」
「そうだな」
頷きながらも、田町はやりきれない気分だった。
田町が隣に目を遣ると、大学生と思しき三人連れが、楽しそうに飲んでいる。
それを見て、田町は、自分の大学時代のことを思い出した。と同時に、急に視界が開けた。
時代なんかじゃない。大学時代の俺も、あいつらと一緒だった。
俺たちは、自分の無責任さを、時代という便利な言葉にすり替えているだけだ。
自分だって、厳しいばかりの上司は好きじゃなかった。
俺の親は、いくら忙しくっても、子供と向き合ってくれた。勉強以外の、人としての大切なことを教えてくれた。
俺は、自分の子供達に、そんなことをしたことがあるか?
いつも、忙しいのを言い訳に、子供達のことは女房に押し付けてきた。
そのくせ、今の若い者はと嘆いている。上野だって、ひとつしか年が違わないのに、ゆとり世代を馬鹿にしている。
それは、馬鹿にしているのではなく、たんに責任を回避しているだけだ。
田町の頭の中の霧が晴れ、心に虹が差した。
これ一杯で帰って、子供達と向き合おう。明日から、上野とも真摯に向き合う。
再出発の門出となる杯を、田町はゆっくりと傾けた。




