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第9記

「このレベルのダンジョンでああいった兵隊が来るのは珍しいな。」


「そうなの?確かに結構強かったみたいだけど…。」


 ヴァイスが今回攻めてきた兵隊について話し出す。



「あれは恐らく大国レヨンランドの兵だろう。冒険者と違い、国として動くことが多い者たちだ。本来であれば大規模ダンジョンの攻略にあれらの兵を動かすのだが…何のために来たのだろうな。」


 大規模ダンジョンの攻略…。さすがにこのダンジョンは大規模とは言えないよね。


「し、心配です…。そんな人たちが本気で攻めてきたらどうしましょう…。」


 リュウちゃんがおろおろしてる。私も心配だよ。


「ヴァイス、大丈夫かな?」


「何とも言えないな。どこかで情報を集めたいところだが…。」


「マスター。次の侵入者が来たみたいだ。」


 エルちゃんがそう言って常時設置にしたモニタリング用のディスプレイを指差す。私は映し出された映像を見る。



「おじいさんと…少年?」


 そこには白髪で刺繍の多く入った服を着てローブのようなものを羽織ったおじいさんと、橙色のはねた髪をして宝石のようなもので豪華に装飾された服を着た少年が居た。少年もローブのようなものを羽織っている。


「…今度は大国ローヌランドの貴族か。」


「貴族?」


「ああ。とはいえ貴族というのは光水晶によって相当な力を手にしている。冒険者より厄介な相手だ。」



 そうなんだ。兵隊といい貴族といい、今日は厄日かなぁ…。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「…あそこに転がっているのはレヨンランドの駒か。」


「そのようですな。」


「殺されることがない、というのは本当のようだな。…だからといって負ける前提で挑むつもりはないがな。手は出すなよ、爺。」


「承知しております、アイオス様。」


 アイオスと呼ばれた少年がダンジョンに入り、その後ろに爺と呼ばれたおじいさんが付いて行く。



 何度か行き止まりに当たった後、霧のある部屋に入っていく。…分かれ道を適当に進んでいってるみたいだけど帰り道分かるのかな?


「ぶへっ!」


 アイオスが霧の中で壁にぶつかる。…ちょっとサキュちゃん笑っちゃかわいそうでしょ!


「いてて…氷か?ファイアボール!」


 アイオスがファイアボールの魔法で溶かそうとする…ってちっさ!そんなんじゃ溶けるわけないよ!


「ファイアボールでも溶けないか。相当分厚い氷のようだな。」


 サキュちゃん笑わないで…こっちまで笑っちゃ、あははは!あ、うん。いってらっしゃい、リュウちゃん…あははははは!




 霧の部屋にリュウちゃんが転移する。真紅に輝く細身のドラゴンの姿へと変わる。私の住んでいた家より大きいと思う。


「ーーーーー!」


 リュウちゃんがぎりぎり聞こえるかどうかといった超高音で鳴く。けど、アイオス君には聞こえていないみたい。君付けでいいよね、もう。


 リュウちゃんが軽く炎を吐く。


「うわっち!な、なんだ!?」


 ローブの背中の辺りが少しだけ焦げたアイオス君が慌てて振り返る。


「ど、どどどどら、ごん。」


 ドドドドドラゴンじゃないよ、ドラゴンだよ…ダメだ、笑いが止まらない!サキュちゃんのせいだからねっ!


「大丈夫、大丈夫だ。落ち着け…よし!ファイアボール!」


 アイオス君がファイアボールを放つも、少し離れたところに居るリュウちゃんに届く前に消えてしまった。何でよ!?弱すぎでしょ!?


 リュウちゃんが近付いて尻尾で軽く吹き飛ばす。


「ぐはああぅ!こ、こんなところで…!」


 いや、絶対そんなにダメージ受けてないよね?ね?


「あ、あれ?体が動くぞ?…ふふふ、はははっ!見た目より弱いようだな!これでも喰らえ!はあああああ!」


 ちょ、ちょっと笑わせ、ないで!アイオス君…アイオス君が腰から長めのナイフを取り出してリュウちゃんに斬りかかる。リュウちゃんはそのナイフを器用に爪で弾き飛ばす。


「う、あ…。」


 アイオス君がナイフを弾き飛ばされた直後、目を見開き口を開けて後ずさる。え、なに?どうしたの?


「これが、ドラゴン…。」


 そして尻もちをつく。あー霧でさっきまでよく見えてなかったんだ。…腰が抜けたみたいで起き上がろうとして起きれずにいる。


 そんなアイオス君をリュウちゃんが爪で掴み上げて部屋の入り口の方向へと投げ飛ばす。


「ぐあっ!…こんな…こんなはずじゃ…。…立て、立てよ俺!うおおおおおお!」


 アイオス君が涙目になりながらも必死に起き上がる。


「うあああああああ!」


 無謀にも素手で殴りかかろうとするアイオス君。それを爪で軽くあしらうリュウちゃん。



 何度もその光景が繰り返されて、ついにアイオス君が満身創痍で地面に横たわる。それでもアイオス君は必死に地面に手をつき起き上がろうとする。


 ふとリュウちゃんが人型になった。


「こ、これ以上戦わないでくださいっ!」


「だ、だれだ…。」


 アイオス君が地面に横たわったままで顔を上げる。


「もう傷だらけじゃないですか…お願いです、帰ってくださいっ!」


 アイオス君がリュウちゃんを見たまま口をぽかんと開けて固まっている。



 …長い沈黙。



 先に口を開いたのはリュウちゃんだった。


「あ、あの。どうかしたんですか?」


 リュウちゃんが話しかけるも反応がない。心配そうな表情でリュウちゃんが近寄ってアイオス君に触れる。その間アイオス君の視線はリュウちゃんをずっと追っていた。


「大丈夫、ですか?」


「…ぁ…ぅ、ぅん。」


 ようやくアイオス君が声を出す。とっても小さな声で。小さいのはファイアボールだけにして!


「えと、肩貸しましょうか?」


「だ、大丈夫だ…。」


 全然立てそうにないけど。


 リュウちゃんがたまらず肩を貸してアイオス君はようやく立てた。


「あ、ありがとう。」


「え?ど、どういたしまして?」


 リュウちゃんがお礼を言われてはてなマークを浮かべている。アイオス君をそんな風にしたのリュウちゃんだもんね…。でも気付いてないんじゃないかな、アイオス君…。


「このままダンジョンの外まで歩けますか?」


「あ、ああ。すまない。」


 リュウちゃんに肩を借りてアイオス君がダンジョンの出口に向かう。




「ありがとう、助かったよ。」


「いえ…。それではここで失礼します。」


 ダンジョンの外までたどり着き、リュウちゃんがダンジョンの中に戻ろうとする。アイオス君は何とか一人で立てているみたい。


「ま、まって!」


「なんでしょうか?」


「ダンジョンの中は危険だ。一緒に街へ戻ろう。あまり見かけない格好だけど君は冒険者だろう?このダンジョンは噂より危険なところだ。」


「え?えっと?」


 リュウちゃんは今、黄色のキャミソールに白いパーカーを羽織り、フリルの付いた黒のふわふわスカートを着ている。そう、私の故郷で一般的だった服だよ!


「街に戻れない理由でもあるのか?俺に手伝えることなら協力するよ。」


「アイオス様。それは無理ですぞ。」



 アイオス君の後ろにずっと付いてきていたおじいさんが突然口を挟む。



「その子はアイオス様が戦っておられたドラゴンなのですからな。」


「え?ドラゴン?」


「モンスターの中には人化の魔法が使えるものがおりますゆえ、この子もそうなのでしょうな。」


「そ、そんな!こんな優しい子が俺を痛めつけたドラゴンだっていうのか!?」


 アイオス君の叫びにリュウちゃんが俯いて悲しそうにしている。


「アイオス様。もっと落ち着いて戦わなければなりませんぞ。少なくとも私の目には、なるべく傷つけないように戦う心優しきドラゴンの姿が映っておりましたのじゃ。」


「そんな…。」


 アイオス君がショックを受けて呆然と立ち尽くしている…と思ったらすぐに頭を振ってリュウちゃんを睨む。睨まれたリュウちゃんがビクッとなる。



「俺は君が好きだ!」



 え?



「いつか、いやすぐに君より強くなってやる!そして君を奪ってみせる!だからそれまで絶対に死ぬなよ!」


 アイオス君が顔を真っ赤にして言い切ると、背を向けて走り…出せずにコケてしまった。それをおじいさんが腰に抱えて歩き去っていく。



 それを見送るリュウちゃんはと言うと、しばらくぽかんと口を開けた後に顔を真っ赤にさせて慌てていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「た、ただいま。」


「いや〜サキュバスであるあたしより先に男を落とすなんてやるねぇ。」


「私は認めませんから!」



 リュウちゃんは純粋な子なんだよ!だからそう、これは気の迷いなの!




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