第7記
「次はサキュちゃんの番ね。」
「はーい。」
ピンク色でストレートの短い髪の女性型モンスター、サキュバスことサキュちゃんにエクリプサーの守りに向かってもらう。
サキュちゃんが黒い悪魔の尻尾を揺らしながら、転送陣に向かう。
「それじゃ、マスターのことよろしくね。ヴァイス♪」
転送される直前、サキュちゃんがそう言ってヴァイスに投げキッスを送る。
「だ、だから投げキッスはダメって言って…行っちゃった。」
ヴァイスを魅了するなんて許さないんだから…!
「マスター。そんなに気にすることなのかい?投げキッスくらい挨拶みたいなものだろう?」
茶色の肌に黒い紋様を浮かび上がらせ、長い白髪の後ろを三つ編みに、前は真ん中から左右に分けている。こちらも女性型モンスター、ダークエルフことエルちゃんがそんな風に言う。
「でもっ!サキュちゃんはまかりなりにも誘惑の悪魔、サキュバスなんだよ!味方を魅了しちゃダメだよ!」
「…別にサキュバスだからといって魅了の魔法を使うわけではないと言っている。そういった心配は不要だ。」
「ヴァイスが魅了されてる…!」
「されていない。」
うー、じゃあ何でサキュちゃんの肩を持つの…?私の気持ち、分かってるくせに。
「あ、あの。過ぎたことは仕方がないですし、後でまた注意しましょう?」
「リュウちゃん…!」
真紅の髪に真紅の瞳。胸の辺りまで伸びた真っ直ぐな髪で、牙と爪が鋭い…角は隠してるんだし、牙と爪も隠したほうがいいんじゃないかな?ぶつかった時とかに刺さっちゃいそう…。私と同じくらいの背の女の子、ドラゴンドフレアことリュウちゃん。
リュウちゃんは竜の姿にもなることが出来て、というか竜の姿が本来の姿なのだけど大きすぎて主の部屋に入らないので人の姿になってもらってるの。
リュウちゃんは心優しい女の子で私の気持ちもちゃんと分かってくれるの…!
それに比べてサキュちゃんとエルちゃんはあっという間に私より大きくなっちゃって、大人の女性って感じになってしまった。まぁ最初からあんな感じだった気もするけど…。
「ワンワンッ!」
シバも私の気持ち、分かってくれるよね?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はい、残念でしたー。」
エクリプサーの設置された部屋で、5人組の冒険者を打ち負かしたサキュちゃん。武器や防具を奪って壊せるものは壊してしまう。冒険者たちは地面に這いつくばっていたり、尻もちを付いていたりして立っている者は居ない。
「た、たすけて…っ!」
「どうしようかな〜♪」
サキュちゃんが助けを求める男の冒険者の胸を人差し指でなぞる。
そして、蹴り飛ばした。
「ぐはあっ。」
「あはは!助けてあげるよ!だから死なない程度に痛めつけてあげる♪」
「やめっ、たすけ、みんなっ!」
冒険者が腕を体の前で交差させて身を守るが、サキュちゃんの蹴りで小石のように軽々と吹き飛んでしまう。他の冒険者たちはその隙に逃げ帰ってしまった。
「あらら〜。薄情なお仲間さんたちだねぇ。」
サキュちゃんはそう言いながらも蹴るのをやめない。ダメージを与えると言うよりかは、ただ単に吹き飛ばしているだけのようにみえる。
「さすがに飽きちゃったなあ。えいっ。」
そう言うと、サキュちゃんが通路の方に男の冒険者を蹴り飛ばして通路の奥にある水の中に落とす。
「まったねー!」
男の冒険者は溺れそうになりながらも、入り口に続く通路へと這い上がる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「…あんなに蹴っても無事なんだ。」
「あ、あんなに蹴り飛ばすなんて。かわいそうです、ますたー。」
心優しいリュウちゃんが心を痛めている。
「マスター、あんなに弱いなら手前のモンスターで何とかなったのでは?」
「エルちゃん、手前のモンスターは足止め役だから戦闘に向かないよ。何かあったら困るし…。」
途中の部屋では妖精さんと氷のゴーレムさんがそれぞれ足止めしてくれている。基本的に戦闘はないから24時間働き詰めだったりする。足止め役のモンスターも増やしたほうがいいかな…。
私は今のステータスを確認する。
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レベル:150
MP:5555 / 73322
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…MPがきついなぁ。モンスターが増えたから強化に使うMPが足りていない。もっと早く回復してくれたらいいんだけど。
ここずっと、周りの恐竜みたいな獣たちを倒しているのでサクサクとレベルが上がってる。まだヴァイスに弱らせてもらってからだけど…。
「そろそろエクリプサーを増やすなり強化するなりしてもいいのではないか?」
「そうかな?」
ヴァイスが言うならそうなのかも。
「エクリプサーに変更を加える時にダンジョンの構成を変えてみるのもいいかもしれんな。既にまったく役に立っていないトラップもあるだろう。」
落とし穴とかね…。
みんなだいぶ強くなったもんね。私としてはまだまだ心配だけど…みんながやりやすいように環境を整えてみよう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぅ。頭が痛いよ…。」
「ふぁ、ふぁいとです、ますたー!」
「ずいぶん頑張ってるんだね、マスター。」
「えらいえらい〜♪」
サキュちゃんが私の頭を胸に抱き寄せて撫でる。
サキュちゃん、胸がほとんどないから痛いよ…。
今、ダンジョンを更に分割して全部で4つにしている。1つはこの主の部屋がある密室空間。そして残り3つはエクリプサーを設置するためのダンジョン。
といってもエクリプサー1つを3つのダンジョンで共有する予定なんだ。エクリプサーを設置した部屋への接続点を変えることで3つのうちのどれか1つが必ずアクティブになるようにし、残りの2つをその間に構成変更するような感じで運用しようと思っている。エクリプサーが設置された状態だと、入り口からのルートを確保し続けないといけないとか中に人が居たらいけないとか制約が多すぎるから。
もちろんこれらはヴァイス案。さすが頭もいいね、ヴァイス!
「うーん、頭も痛いけどMPも足りないなぁ…。」
ダンジョン作りに頭を悩ませる私。続きはまた明日かなぁ。