第6記
新しいダンジョンの情報を仕入れてから再び数週間。
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レベル:35
MP:6068 / 6068
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なんだか物凄い勢いでMPが増えていってるのだけど…。
おかげでシバもようやく子犬じゃなくなった。柴犬の大人のような姿になるのかと思ったら、色はそのままで毛がもふもふの狼になった。でも大きさは大人の柴犬と変わらないくらい…まだまだ可愛い!
「だいぶ様になってきたな。」
「うん、そうだね。ヴァイス。」
シバのこともそうだけど、ダンジョンも進化した。といっても目に見えない部分だけど…。
ダンジョンって人族に壊せないものなのかと思っていたんだけど、実はそうじゃないみたい。ただ作成しただけじゃ普通の建築物と変わらないみたいで、叩いたり魔法を使ったりで簡単に壊せちゃうんだって。そうならないためにダンジョンの補強をする必要があって、今回はその補強をしたの。具体的には特殊なバリアで守ってあげてるんだとか。だからそのバリアが壊れるほどに衝撃を受けたらやっぱり壊れるみたい。これからはMPが増えたらその度にバリアも強化していくつもり。
…ちなみに、バリアはずっと張られるものだから徐々に私のMPが吸われるみたい。だからMPの回復するスピードも気にしてバリアを強化しなくちゃいけない。トラップ類も補給し続けないといけないものはMPが吸われるみたい。…シャワーのお湯とか。
「ずっと居座り続けている冒険者を追い払ってみるか。さすがに目障りだからな。」
「ようやくシバの出番だね!」
「ワンッ!」
シバが尻尾をぶんぶん振ってぐるぐる回っている。気合は十分だね。
今エクリプサーのある部屋には15人ほどの冒険者が居る。数日置きに出来上がる光水晶を奪い合い、ダンジョンから出て逃げ切ると勝ちみたい。たまに当たりどころが悪くて怪我する人がいるけど、あんまり酷い争いにはならないっぽい。なんだかラグビーみたい…。
私はそんな冒険者たちを追い払うためにシバをエクリプサーのある部屋に送り出す。今、エクリプサーのある部屋にはいくつかの転送陣が設置されている。モンスターを配置換えで運ぶよりも、転送陣で移動させたほうが速いみたい。危なくなったらすぐに撤退できるようにしておかないとね。
頑張って、シバ!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ワォーーーン!」
シバがエクリプサーのある部屋に現れる。
「なっ、モンスターだと!?」
「ちっ!さすがにいつまでも居ないままとはいかないか。」
「あれはリトルウルフか。1体だけか?」
「数は分からんぞ。もっと現れるかもしれない。」
「はっ。それくらいで逃げ出すかよ。さっさと倒しちまおうぜ!」
何人かの冒険者がエクリプサーの前から離れて武器を取り出し構える。
「ガルルル…!」
シバは武器に警戒しながらもじりじりと近付いていく。
冒険者の一人が弓を引いて矢を放つ。
シバはその矢を危なげなく躱し、次の瞬間、冒険者たちに肉薄する。
「「「ぐああああっ!!」」」
シバが至近距離で火炎を吐いた。火炎はすぐ目の前に居た冒険者だけでなく、数m離れたところに居た冒険者たちも巻き込んだ。
火だるまになった冒険者たちが慌てて火を消そうとする。ある人は魔法で水を作り出し、ある人は服を脱いでバサバサと叩いて消している。
シバはその隙にエクリプサーまで移動し、その周りに居た冒険者たちも火炎で包み込む。
シバの速さにまったく追い付けていない冒険者たちは火だるまになり、先程の冒険者たちの二の舞を演じる。
「このやろうっ!」
先に火だるまになっていた冒険者の一人が火を消し終えて、氷魔法でシバの周り一帯を氷漬けにする。だが、シバは氷魔法が届くよりも速く横へ飛んで避ける。
と、別の冒険者がそこへタイミングよく矢を飛ばしてきた。シバはその矢を避けきれずに体に受けてしまう。
「ガゥ!?」
そこへ更に他の冒険者が火の玉を飛ばしてくる。シバはすかさず避けるが、再び避けた先で矢を受ける。更に背後から近寄っていた冒険者が剣を振り下ろしシバを斬りつける。
シバは何度も冒険者たちの攻撃を受けながらも火炎で反撃することを繰り返すが、ついに氷魔法で足を氷漬けにされて地面に縛り付けられてしまう。
「はっ!これで終わりだぜ!」
冒険者の一人がシバに思いっきり剣を振り下ろす。
「ワンッ!」
「消えた!?」
シバが小さく吠えると一瞬にして遠く離れた転送陣まで走り抜ける。
「バカなっ!?氷漬けにされてただろ!?」
「なんて速さで走りやがるんだ…。」
冒険者が呆気に取られているうちに、シバは転送陣から主の部屋に帰っていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「シバ!大丈夫!?」
私は慌ててシバに近寄る。
「安心しろ。致命傷は受けていない。しばらくすれば治る。…自身の実力はしっかり把握できているみたいだな。」
ヴァイスはシバを難しそうな顔で見つめる。
「すぐに治してあげたりできないの?」
「回復魔法はあるが…目に見える傷すら残っていないのに心配しすぎだ。それよりもおまえの側でゆっくり休ませてやれ。」
確かにシバの体には傷跡がない。矢を受け、剣で斬りつけられ、火の玉を浴び、氷漬けにされたのに。
シバが私の足に顔をこすりつけてくる。
…一緒に休もうか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「んぅ…。」
…寝室のベッドの上でシバと一緒に寝てしまったみたい。
「もう元気になったかな?」
私はシバの頭を優しく撫でる。シバがゆっくりと目を開け、尻尾を動かす。起こしちゃったかな?
シバは体を起こしてベッドから飛び降りると、私に向かって元気よく吠える。
「ワンワンッ!」
…元気そうだね。
隣のダンジョンコアがある部屋に行くと、壁際に居たヴァイスがこちらに気付く。
「ゆっくり出来たか?」
「うん。シバも元気になったみたい。」
「ワンッ!」
私の後ろに付いてきたシバが元気よく吠える。
「…ダンジョンコアを通せば管理下にあるモンスターの状態が見れる。モンスターは体が魔力で出来ているからな。ダメージが体に現れないものも多い。」
「そうなんだ。」
私はさっそくダンジョンコアを通じてシバの状態を見る。
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シバ
レベル:20
HP:5400 / 5400
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完全に治ってるみたい。他にもいろんな項目が浮かんだけど…よくわからないからいいかな。
ふとダンジョン内の様子を映し出しているディスプレイに目が止まる。
「冒険者の人たち居なくなったね?」
「まぁな。致命傷は受けていなかったが、あの人数でシバを倒しきれなかったのは事実だ。身の危険を感じたのだろう。…燃やされた服を着替えに帰っただけかもしれないがな。」
シバを倒しきれなかった…か。一応、モンスターの情報保存機能でシバをバックアップしているから、もし倒されたとしても復活させられるんだけど…。
本当は特殊能力を付与したモンスターを毎回付与して作成する手間を省くためのものなんだとか。私はそれをシバの復活のために使う予定なんだ。
「これでしばらくは守りきれるかな?」
「無理だろうな。少なくとも交代で戦い続けられるだけのモンスターは作っておくべきだろう。」
むむ、確かに。シバだけじゃずっと戦い続けられないもんね。
「…そういえばヴァイスは戦ってくれないの?」
「今設置されているエクリプサーはかなり小さい方だ。だから俺が守れば絶対に奪われることはない。だがいずれはもっと大きなエクリプサーを、そして多くのエクリプサーを設置することになる。その時は俺だけで守りきることが出来ないだろう。まだ規模が小さい内に戦力の整え方を学んだ方がいい。…それに、俺がエクリプサーの守りにつくということはおまえの側に居られないということだ。何かあった時に守ってやることができなくなる。」
「私を、守る…。」
はぅぅ!そんな風に思っていてくれていたなんて…私、ヴァイスの側から離れないから!
シバが健闘しました。シバはHPと素早さを重点的に強化した守り特化のモンスターになっています。攻撃力は低いですが、タフさはこのLV帯のボスクラスです。