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第5記

「ごくり…。ここがダンジョン…。」


 目の前には高さが10階くらい、幅が50mくらいの円筒形で石造りの塔が開けた土地にぽつんと建っている。


 私の前を進むヴァイスが中を覗き、危険がないか確認する。


「…大丈夫そうだ。」


 私がそっと中を覗くと、ネバネバした液体状の何かがたくさん動いていた。


「ひぃっ!?」


「あれはスライムと呼ばれるモンスターだ。動きが遅いから余程のことがない限り襲われることはない。襲われても気持ち悪いだけだ。人族だと呼吸が出来ずに死んでしまうこともあるがな。」


 だ、大丈夫と言われても…。私はヴァイスの後ろに隠れ、後ろからヴァイスの服を掴む。


「おまえは呼吸の必要がないし、いざという時は俺が助けてやるからそんなに怯えるな。…だが、そうだな。上から落ちてくるスライムくらいは注意した方がいいだろう。」


 そう言って上を向いたヴァイスにつられて上を見ると、そこにもネバネバ動くものがあった。そしてちょうど私の左腕に落ちてきた。



 はふぅ〜…。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「えいっ!」


 スライムを炎で焼いたり、氷漬けにしたりして倒していく。倒すと動かないただのネバネバになるみたい。



 入っていきなりスライムに襲われた私は意識を失い、ヴァイスの手によってダンジョンの外で横に寝かされた。


 久々の膝枕、ごちそうさまでした!


 目が覚めた私は天井に張り付いているスライムにじゅ〜〜〜ぶんに気を付けながら、魔法で倒している。魔法を使えばそんなに近づかなくても倒せて意外と楽だなぁと思う。


「順調そうだな。」


「最初さえなければ…。」


 いまだにあの何ともいえない感覚が左腕に残っている。ううぅ!思い出しただけで体が震えちゃう…。



「…そういえば、他のダンジョンのモンスターは迷いなく殺すのだな。」


「え?」


 一瞬、何を言われているのか分からなかった。



 …そっか。このモンスターもシバと同じように作成されたんだ。



「まぁ、ゴキブリを殺すのと変わらんがな。」


「…うん、そうだね。」


 そうだよ。やっぱりこのモンスターに思い入れはまったく出来ない。だって、気持ち悪いもん!



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



 レベル上げのためのダンジョン巡りを始めて、数週間が経った。


 今日のレベル上げを終え、自分のダンジョンに戻る。


********


レベル:15

MP:1898 / 1898


********


 うん、だいぶレベルが上がった気がする。レベルが上がったからシバの強化も再開してる。

 攻撃に使う魔力って思ったより少ないんだよね。一日モンスターを倒し続けても回復する方が早いみたい。


「そろそろ街へ行って次のダンジョンの情報をもらってくるか。」


「うん!あ、そういえばお金ってどうするの?」


「光水晶を納品すればお金がもらえる。それでケーキ代くらいは余裕だろう。」


 ケーキのこと、ちゃんと覚えててくれたんだ。えへへ、今からドキドキしちゃうなぁ〜♪



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「こちらがショートケーキになりますっ♪」


 この前呼び込みをしていた三つ編みの女の子が注文したケーキと飲み物を運んできた。私はショートケーキといちごミルクを、ヴァイスはハーブティーを注文している。


 冒険者ギルドでは特に問題もなく、光水晶は普通に納品できたし、次のダンジョンの情報も得られた。…金貨って初めて見たよ。


 そんなわけで、さっそく手に入れたお金を持ってこのケーキ屋さんにやってきたのだ。


「んん〜〜♪ 美味しい!ヴァイスは食べなくていいの?」


「…そんなに食べられないからな。」


 確かに、ホールの4分の1サイズで大きいとは思うけど…小食なのかな?


「じゃあ、私のを一口食べる?」


「そうだな。一口もらおうか。」


 私はケーキを一口サイズに切り、フォークに乗せてヴァイスの口元へ運ぶ。テーブル越しだとちょっと遠いので、テーブルに手をついて身を乗り出す。


「はい、あ〜ん♪」


「…。」


 ヴァイスは無言で食べた。…ちょっとそこは乗ってよ!うぅ〜〜、いつも優しく合わせてくれるからやってくれるって信じてたのに…。恥ずかしい…。


 私は席について俯く。ちらりと上目でヴァイスを見ると、少し顔を赤くしてそっぽを向いていた。



 ごめん…恥ずかしかったよね…。



 私は心の中で謝り、ケーキを食べようとして。



 !!!



 こ、こ、こここれは間接キスっ!?


 あわわっ、そこまで考えてなかったよ!



 ドキドキ。



 …あ、あーん。はむっ。



 …。



「…お客さん、大丈夫ですか?」


「…冷たい水でも持ってきてやってくれ。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



 私がオーバーヒートしてテーブルにしばらく突っ伏していると、冷たい水が置かれていた。


 …ケーキ食べてただけなのに汗だくだよ。


 私がありがたく冷たい水を飲んでいると、三つ編みの女の子がいつの間には横の席に座っていて声を掛けてきた。



「おふたりは付き合ってるんですか?」


「ぶほっ!ごほっごほっ…。」



 い、いきなり何を…。思いっきりむせちゃったよ!



「訳あって一緒に冒険者をしている。今はまだ師弟関係のようなものだな。」


「今はまだ、ですか。へー。」


 三つ編みの女の子がにやにやと私を見る。



 今はまだ、ってことはそれなりに意識してくれてる…のかな?



 私がもじもじとヴァイスを見ていると、ヴァイスが話をそらそうとする。


「店員が客席に座っていていいのか?」


「親のお手伝いで接客してるだけですから。私が居なくても回ります。今は他にお客さんもいないですしね。でも、お邪魔でしたらさすがに悪いので席を外しますけど。」


 三つ編みの女の子がにやりと笑う。


「…アヤが構わないなら、俺も構わない。」


「名前…!」



 名前で呼んでくれた!



「…もうちょっと誘惑減らしてあげませんか?」


「別に誘惑してるつもりはないんだが…。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「そうそう、知っていますか?最近モンスターがまったく居ない超安全な悪魔の塔が見つかったみたいですよ。」


「ほう。」


「しかも、モンスターがいないにも関わらず悪魔の魂が置いてあるんですよ!それも、何度悪魔の魂を取っても新しく作られるんだそうです!つい最近話題になって下級冒険者が泊まり込みで奪い合いしてるらしいですよ。」


「冒険者同士で奪い合っていいものなのか?」


「原則禁止みたいですけどね。ただ、他国の冒険者も来てるみたいで一触即発のにらみ合いをしてるとか。なので、既に腕に自信がない冒険者は戻ってきだしてるそうです。」


「なるほど。冒険者でもないのに随分と詳しいんだな。」


「珍しかったので冒険者伝いで話が一気に広がったんですよ。私は近所のおばさんから聞きました。」


「ふむ。トラップや形状なんかの情報は出回ってないのか?」


「えーと、モンスターが居ないので危ないトラップはないって聞いてます。麻痺毒のガスが噴出するところだけ気を付けるくらいみたいです。まぁそれも数時間で痺れは治るみたいですけど。

 形は確か地下にあるとかで、中は迷路になっていて最初は迷うみたいです。床が水になっているところから悪魔の魂がある部屋に行けるんだとか。塔なのに地下にあるって不思議ですよね〜。」


「…思ったより詳細な情報が出回ってるんだな。」


「いやー、もういろんなところが話のネタになるんですよ。モンスターが居ないのに何であんなにたくさん部屋があるのかーとか、何もないのに霧が出てる部屋があるーとか。何でだろう?ってみんなで話しだしたら止まらないんですよ、これが!」


「…そういうものか。」


「水に潜らないと次の部屋にいけないなんて、その手があったか!って思いましたもん。みんな、自分だったらこうしてああしてって考えたりして、それもまた結構楽しくて!…そろそろこの子起こしてあげます?」


「…ああ、頼む。」


「おーい、アヤちゃんー、戻ってきてー。」



 はっ!


 め、目が回る〜〜…。



「や、やめてください〜…。」


 私がそう言うと三つ編みの女の子が私の肩から手を離す。あんなに思いっきり揺さぶられたら首の骨が折れそうだよ…。人じゃなくなったからか全然折れる感じがしなかったけど。



「おふたりはしばらくこの街に滞在されるんですか?」


「いや。腕を磨くためにいろいろな悪魔の塔を回っているところだ。街には滞在しない。」


「そうなんですか…。アヤちゃんとは仲良くできそうだなぁって思ったんですけど。」


 三つ編みの女の子が寂しそうに私を見つめる。そして何か決意したような表情になって私の手を掴む。


「私はカナリーって言うの。きっとこれからも会う機会があるよね!だからその時はまた一緒におしゃべりしよ?」


「え?う、うん。」


「私たち、これからは友達だよっ!」


 え?え?友達ってそうやってなるものだっけ?



 その後、私は始終カナリーの話を聞かされながらも美味しくケーキを食べた。


 う〜ん、やっぱり美味しい♪隠し味はヴァイスとの…ふふふ。




次回こそはダンジョンっぽい話になると思います…。




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