第17記
「惜しかったねー、マスター。」
「むぅ、誰のせいだと思ってるの!」
サキュちゃんをはじめ、みんなが覗いてたから拒否されちゃったんだからね!
「あ、あの、ますたー。左腕は大丈夫なんですか?」
「…痛いよ。」
「はぅぅ!?ご、ごめんなさい!」
ちょっと語気が強くなっちゃっただけなのに。そんなに怯えなくたっていいじゃない。
「マスター、機嫌が悪そうだね。やっぱりキス出来なかったからかい?」
「マスター!チューしたいの?コンとする!?」
「別にそういうわけじゃないから。…コンちゃんとはキスしません。」
ファーストキスはヴァイスに捧げるんだから!
ふぅ…。深呼吸、深呼吸。
「すーはー…。とりあえず。私のためにも、そしてみんなのためにも!エクリプサーの設置台数を増やしていくよ。」
「マスターのためなのは分かるけど、ボクたちのためでもあるの?」
「…私が居なくなれば次のダンジョンの主が来ることになるはずだから。きっとみんなはただの道具として使われることになると思うの。」
「エルも他のモンスターの餌にされたりとか嫌でしょ?」
「それは嫌だね。」
餌って…。さすがにそんな使い方はしないと思うけど。
「でもどうするの?マスター。あたしたちが守れるぎりぎりまで増やしたところで大した量にならないんでしょ?」
「それはそうなんだけど…。」
どうにかしなくちゃいけないわけで。
「…殺すの?」
サキュちゃんの言葉が私の頭の中で反芻する。
「…殺さない。」
「そっか。…マスターのためならなんだってやるからさ。だからきっと、何とかなるよ。」
「…ありがとう、サキュちゃん。」
「マスター。ヴァイスに出てもらうのはどうかな?ボクたちより圧倒的に強いんだろう?」
「俺が守ったところで限界があるだろう。…それに出来ればアヤの側に居たい。」
「ヒュー♪ お熱いねぇお二人さん!」
「…もしまたあいつが来てアヤを殺すというのなら俺も黙って手をこまねいているつもりはない。」
「え?あれ?ヴァイス、マスターが左腕を持っていかれる時って見逃してたの?」
「別にあいつを止めれる自信があるわけではない。それでも…守る必要があるなら何でもしてやるつもりだ。」
「ひえー!なんというかさ、ヴァイスって意外と直情的だね?」
ヴァイス…。私のためなら何でもしてくれるって…きゃーーーーー!どうしよう!何してもらおう!
「マスターが一人でいろんな顔してるの。にらめっこ?コンもやる!」
「ぷっ!ちょっと笑わせないでよ、コンちゃん…あはは!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ここが神の持ち物を奪おうとする人々にも慈悲をお与えになる、心優しき神がおわすところ…。」
ん?珍しい格好の人だなぁ。えっとシスターさん、だったかな?それに神って…。あの神さま、全然心優しくないよ。
「…神様!どうか、どうか私をお救いください!」
え、ダンジョンを入ってすぐのところで叫びだしたよ!?
「志を同じくしていた仲間は皆殺され、もう私しか残っていないのです。私はもうどうしたらいいのか…。」
…とりあえず話だけでも聞いてあげたいな。
「なんであたしが行くことになるのかなぁ…。はぁ。」
サキュちゃん何でもするって言ったばかりだよね!?
「あ、あなたは?」
「あたしはサキュ。そっちは?」
「私はラテリと申します。」
「ふぅん。ラテリちゃん、うちのマスターが詳しい話を聞きたいんだって。教えてくれる?」
「マスター…神様が私の話を聞いてくださるのですか!?」
「え?あ、うん。だから話してくれるかな?」
「はい!」
こうやって見るとラテリちゃん…だっけ?まだ背も低いみたいで少女?って感じなのかな。髪は銀色に見えるけど歳を取ってってわけではなさそうだね。
ラテリちゃんの話をまとめるとこうだった。
ラテリちゃんはとある宗教のシスターさんらしく、その宗教は少数ながらも長い歴史を持つものなんだって。その宗教では光水晶は神の持ち物とされていて、ダンジョンの主を神と呼んでいるみたい。
そこにある日、ラテリちゃんが活動していた教会に強盗たちが入ってきたんだとか。教会に居た信者は皆殺し、教会にあった金目の物はすべて持って行かれて最後には教会に火を付けて燃やし尽くしてしまったそう。
命からがら逃げ出したラテリちゃんが再び教会に戻るとそこに残るのは燃え尽きた灰だけ。途方に暮れていたラテリちゃんの元にふと借金取りがやってきてお金を要求してきたんだって。教会はつい最近年季が入ってボロボロになっていたのを建て直したばかりだったらしく借金をしていたそうで。
共に教会で奉仕をしていた仲間が殺され、さらに借金まで背負うことになったラテリちゃん。それでも自分一人なら命を絶って済んだ…ってそんな悲しいこと言わないでよ、ラテリちゃん。…で、ラテリちゃんには弟が居るんだって。親は幼い時に亡くしたらしく居ないみたい。
そんなわけで弟のためにも死ぬわけにはいかない。けれど借金を返す宛なんてない。神様、ヘルプミー!ってことみたい。
「…弟と一緒にどこか遠くへ引っ越したらいいんじゃないの?」
「そ、そういうわけにはいきません!貸して頂いた方に恩を仇で返すなんて。」
「いや返せないんでしょ?」
「うっ。それは、まぁ…。でも何か方法があるはずです!」
「その方法が神様に頼るってわけ?」
「えっ?いや、それはそのぅ〜…。」
「別にあたしたちだって同情して協力してあげることもあるかもしれないけどさ。やっぱりそこはギブアンドテイクなんじゃない?」
「私に出来ることでしたら何でもやります!」
「何が出来るの?」
「神聖魔法が使えます!」
「威力は?」
「…不殺生なので?」
「何も殺せない威力ってこと?」
「…はい。」
「…他には?」
「…身を、身を捧げます!」
「ほほぅ…!」
ほほぅじゃなくて!サキュちゃん!ダメだから!話し進めて!
「じゃあ美味しく頂こっかな〜♪」
「ひっ!?」
「そこまで。サキュ、ちゃんと仕事して。」
「あれ?どしたの、エル。何か伝言?」
「真面目に仕事しろって言ってたよ。」
「…さいですか。えーっと!どこまで話したんだっけ?ラテリちゃん。」
「え?神様が私をお救い頂ける、というところまででしたでしょうか?」
「ちっがーう!!そんな話どこにもなかったでしょ!?」
「ごめんなさいーーー!!」
なんか意外と困ってなさそうというかポジティブというか、だね?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふあぁ〜…。よく寝たぜ。」
「シュネスさん、よくそんなに寝れますね。」
一日のほとんどを寝て過ごしているような…。
「いや〜歳なのかねぇ。いつかあのまま永眠しちまいそうだ…ぜ?おい、この子は?」
「え?えっとさっきこのダンジョンにやってきたシスターさんみたいですけど…。」
「…そうか。しかしそっくりだなぁ。あいつの孫かなんかか?」
「あいつって?」
「ん?あぁ俺の初恋の相手よ。ちょうどあれくらいの歳だったなぁ…。ぐいぐい攻めたんだがダメだったぜ。」
「ぐいぐい攻めたからダメだったんじゃないですか?」
「厳しいなぁお嬢ちゃんは。って左腕どうしたんだ?お嬢ちゃんも姿変えれたりするのか?」
「…シュネスさんが寝てる間にいろいろあったんです。後でヴァイスにでも聞いてください。」
「あ、ああ。なんかすまねぇな。」
さてさて、ラテリちゃんのことはどうしようかな。何とかしてあげたい気もするけどサキュちゃんの言うように見返りが何もないのはね…。今こんな状況だもんね。
「なんだあの子、金がねぇのか?それだったら俺が払ってやるぜ。」
「え?」
「どうせ使い道のねぇ金だ。初恋の女の子に使ってあげるのも悪くはねぇだろ?」
「似てるだけですけど。」
「こまけえこたぁいいんだよ。いやぁあの子見てるだけでドキドキしてくるぜ!」
うわぁ…。ロリコンだよ、このおじいさん。
「…それなら俺たちも付いていこう、アヤ。」
「え?急にどうしたの?ヴァイス。」
「あの強盗とやらをしめてやるのはどうだ?レベル上げもかねて、な。」
「え、私が戦うの?」
「人族はこの周りの獣よりずっと魔素が多い。強盗は少なくとも教会の人族より強かったわけだ。いいレベル上げが出来そうだと思わないか?」
「でも殺すのは…。」
「神聖魔法を使えばいい。前に魔素を直接染め上げる魔法を教えただろう?人族の間では神聖魔法と呼ばれている魔法の一つだ。」
「そうだったんだ。ってことは私、あの子より強いのかな?」
「まぁそうだろうな。獣と違って人族の魔素は整列されていて染めやすい。おまえの魔法でも十分に倒せるだろう。」
「あれって染め上げると相手はもう二度と魔法を使えなくなるんだよね?」
「光水晶の加護などで再び魔素を得ることも稀にあるが基本はそうだな。罪の代償として悪くないだろう。」
「うん…そうだね。」
「おまえら随分と物騒な話をしてやがるな…。ま、付いてきてくれるんなら世界で一番頼りになる護衛だしな!おっしゃ!善は急げだ!さっそく行こうぜ!」
「あ、うん…ってロリコンも行くの!?」
「当たり前だろ!初恋の女の子とドキドキデートができるチャンスなんだぜ?…ってロリコンじゃねぇよ!?」
口が滑っちゃった、てへ♪
魔力=MP不足でダンジョン改装案が思い付かないのでレベルアップイベントです。
おじいさんよりヴァイスが………。