第16記
「うぎゃあああああ!!」
燃え盛る炎の中、さらに炎のブレスを吐くリュウちゃん。侵入者もその高温に耐えきれずに体を焼かれ次々と倒れていく。倒れた侵入者を炎の妖精さんが転送陣で外へ運ぶ。身ぐるみを剥がして。
「ひいいいいい!!」
まるで動物かのようにうねうねと動く木々に捕まった侵入者が為すすべもなくエルちゃんの重い一撃で沈んでいく。こちらは森の妖精さんが後始末をしている。
「ぁ…。」
目では見通せない霧の中。侵入者が探知魔法でモンスターの位置を探るも一瞬にして距離を縮められて凍らされる。新しく氷のブレスも覚えたシバが侵入者たちを次々と凍らせていく。こちらは氷の妖精さんが後始末をしている。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「だいぶ安定してきたかな?」
「いやー、そもそもの侵入者が以前より弱いからねぇ。でも侵入者を分散させられるのはいいかも、マスター。」
最近作ったダンジョンの一番の自慢は3つの部屋にあるキーを同時にONにしないと次へ進む扉が開かないこと。キーは丸い手のひらサイズの透き通った玉で、それを用意された台座に置くことでONになるの。でもその台座はちっちゃくて玉を置くには不安定。つまり3箇所同時にONにしようと思ったらモンスターを倒すか、ずっと玉を手で固定し続けなきゃいけないってこと。固定してなきゃ戦闘の振動だけでも台座から落ちちゃうからね。
一応これもトラップの部類に入るのだけど、モンスターが居なければそれほど難しい仕掛けではないんだよね。
「あの子たちも随分強くなったよね、サキュちゃん。」
「そりゃもうあたしが直々に教えたわけですから!えっへん!」
あの子供たちもあれからだいぶ強くなったの。みんながみんなってわけでもないのだけれど、サキュちゃん直伝の闇魔法を使える子もちらほら出てきてるみたい。人族で闇魔法は結構珍しいらしいんだよ。
加えてシュネスさんに極小サイズの光水晶から個人特化の加護を出力できる魔道具を作ってもらったんだ。子供たちはみんなその極小サイズの光水晶を体のどこかに魔道具のアクセサリーとして身につけていて守りもものすごく堅くなってるの。
「後はやっぱり妖精さんたちだよね。」
影の立役者と言っても過言ではないと思うんだ。後始末もそうだけど、体が小さくて自然現象にうまく溶け込むとこれがまた中々見つかりづらくて。炎の妖精さんは部屋を炎で包んでくれているし、森の妖精さんは植物を生み出して操ってくれている。そして氷の妖精さんは氷の障害物で探知魔法をうまく阻害してくれている。サポートに徹してくれているから比較的弱くてたくさん作り出せるんだ。それでもちゃんと死なないように強化しているけれどね。
肝心のエクリプサーだけど、今はレベル1のエクリプサーを3つ設置している。レベル1と呼んでるのは一番小さいサイズの光水晶ができるエクリプサーのこと。大きさで表現してると分かりにくいからね。この前守りきれなかったエクリプサーはレベル2。何とかまたレベル2のエクリプサーを設置できるようになりたいのだけど…。
********
レベル:275
MP:57315 / 230622
********
あれからだいぶ経つけどMPは正直微妙。レベルは上がったけど最近は上がりも悪くなってきている。それにも関わらず強化するモンスターは増える一方だし、強化に掛かるMPもものすごい量になってきているんだ。
うーん、長い時間を掛けて強化していくしかないのかなぁ…。
「マスター!遊んでーーー!!」
「すとおおおおっぷ!!」
私より小さな女の子のタックルから私をかばってくれたサキュちゃん。この小さな女の子はジップコングっていうモンスターでコンちゃんって言うの。ヴァイスと同じ黒髪黒瞳で長い髪をポニーテールにしている。コングだけど体はちっちゃくて猿の尻尾もないんだよね。ヴァイス曰く、猿じゃなくてゴリラなんだろうって。ゴリラって尻尾ないんだっけ?
「ぶーー!サキュ姉の胸硬いから痛い!」
「あぁん?あたしに喧嘩売ってるのかな〜?」
「わーーっ!逃げろ逃げろーーー!!」
逃げるも何もサキュちゃんにしっかり抱きしめられてるんだけど…。
「おりゃあ!」
「サキュちゃん!?」
「これしきぃ〜〜、大丈夫なのぉーー!!」
サキュちゃんがコンちゃんの首をへし折ろうとしてコンちゃんが首の力だけでそれを耐える。
うわぁ…。相変わらずすごいパワーだなぁコンちゃん。
「くそーーー!あたしより後に生まれたくせにぃ!!」
「へへん!コンの方が強いの!」
うん、仲良くやれてそうだね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お疲れ様。リュウちゃん、エルちゃん、シバ。」
「ただいまです、ますたー。」
「ただいま、マスター。」
「ワンッ!」
侵入者の相手が一段落ついたのでリュウちゃんたちが休憩に戻ってきたところ。エクリプサーを設置した直後はまた侵入者がたくさんやってきたのだけど、以前より難易度が上がっているのに光水晶が小さいから早々に諦める人が多かった。だから今ではたまーに集団で下級冒険者がやってくることがあるくらい。他は腕試しがてらなのか少人数で挑んでくる下級冒険者がちらほら。ダンジョンの構成上、一定の人数が必要なんだけどなぁ。
「シバ発進っーーー!!」
コンちゃんがシバの背中に乗ってそんなことを言っている。ごめんね、シバ。疲れているところ悪いけどちょっと遊んであげて?
シバが以前よりかは少し広くなった主の部屋を走り回る。喜ぶコンちゃん。それを見て和んでいるリュウちゃん。特に興味がなさそうなエルちゃん。そんなエルちゃんに絡んでいくサキュちゃん。そして私の側に立っているヴァイス。
いつもの光景だった。
『遊ぶのは構わないがちゃんと仕事をしてからにしてもらおうか。』
突然ダンジョンコアの横に現れたそれは、丸い灰色の金属球に白い目のようなものが2つあって細長く両端が尖ったいびつな金属をいくつも周りに浮かべていた。
あまりに突然の出現にみんなが驚いて固まっている。
『君が付いていながらいまだにほとんど世界の力を集められていないじゃないか。』
「…これでも善処しているつもりだ。」
ヴァイス、知り合いなの…?
『ふん。なぜモンスターごときに警戒しなければならないのか…。まぁいい。何でもいいから世界の力を集めろ。使えないやつはいらない。たとえ君がいようと捨てる時は捨てる。』
「…分かった。」
『さすがにお咎めなしではやる気も出ないだろう。こんな状況だからな。…そうだな。左腕を預かっておこう。』
「っ!?アヤ!」
「えっ?な、なに?…っ!?ああああああああああ!!!」
痛いっ!
痛い!痛い!痛い!痛い!痛いっ!
…意識が…ぁぁ左腕が…光になって…消えていく…?
『安心しろ。世界の力をそれなりに集めれば返してやる。左腕の一本程度なくても運営に問題ないだろう?』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ん…。」
「起きたか。」
ヴァイス…。
っ!?痛い!…ああ、そうだ。左腕を取られたんだった…。
「大丈夫…ではないな。すまない。まさかこうも早くあいつが動くとは思わなかった。」
「うんん。ヴァイスは悪くないよ。いつも私を助けてくれて側に居てくれたもん。…あれは神なの?」
「ああ、そうだ。」
こうしてヴァイスと話している間も左腕が付いてたところがじんじんと痛い。
「もう少し、横になっててもいい…?」
「ああ。」
横になってどれくらい経ったのかな。ヴァイスが残った右手を握ってくれている。でも痛みは消えない。ずっとじんじんと痛いまま。いつになったらおさまるのかな。このままずっと痛いままなのかな?
痛くて。
それがどうにもならなくて。
私はヴァイスの手をぎゅっときつく握りしめる。…ヴァイスは痛くないだろうけれど。
「ねぇ、ヴァイス。」
私は横になっていた体を起こして呼びかける。
「なんだ?」
「痛いのが消えないの。」
「…。」
だから…。
ヴァイスの顔はすぐそこにある。
もう少し近づけば…。
「…どうして。なんで止めるの?どうしてっ!!」
「見てるからだ。」
「え?」
あ。
ちょ、みんな何で覗いてるの!?み、みられた?みられちゃった!?うわーーーーー!!は、恥ずかしい、何やってるのわたし!?
続かせないシリアス。
ヴァイスが時々エクリプサーの設置を促していた設定の補足強化のためのお話です。