第14記
「後は人族を雇えれば一段落だね。」
「あのおじいさんに戦ってもらえばー?」
「いやいや!?それはないでしょ!サキュちゃん。」
おじいさんことシュネスさんはうちに引っ越してきて今は作業部屋の整理をしている。本当に来ちゃったんだよね…。ていうかダンジョン=悪魔の塔ってことも知らなかったし、ヴァイスがモンスターなのも知らなかったし、驚きまくってたからぽっくり逝くんじゃないかって心配で心配で…。
「それにしてもまったく減っていないよ。マスター。」
「そうなんだよね〜…。」
冒険者の数は相変わらず。
「とりあえずエクリプサーを撤去しておいたらどうだ?」
「このままじゃ奪われるだけだもんね、ヴァイス。みんな、部屋から追い出してもらえる?」
じゃないと撤去もできないっていう…ね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「どいたどいたー!」
「うじゃうじゃと目障りだ。」
「ーーーーー!!」
「ガルルルッ!!」
みんなで通路に吹き飛ばしていく。
うわぁ…。紙くずみたいにぽんぽん飛んでいくよ…。
「こらー!戻ってくるなー!」
「これで最後だ!」
サキュちゃんが通路から戻ろうとする侵入者を食い止め、そしてエルちゃんが最後の侵入者を通路へ吹き飛ばす。
よし!今だっ!
「「「えっ?」」」
エクリプサーがすぅっと光になって消えるのを目撃した侵入者たちが驚いた顔で立ち尽くしている。
「ふぅ〜〜!お疲れさんでしたっ!」
「絡まないでくれ、サキュ。」
サキュちゃんが侵入者たちにねぎらいの言葉を掛けた後、エルちゃんの首に抱き付いて転送陣に帰っていく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「へぇ、お嬢ちゃんたち強いじゃねぇか。」
「たまたま強い人族が居なかっただけだよ、おじいさん。」
「またまたエルってば謙遜しちゃってー。」
「え、エルさんの言うとおりだと思います…。サキュさん。」
そうだよね。たまーに強い侵入者が居るから厄介なんだよ。
「これでしばらくはゆっくりと対策を取れるだろう。」
「うん、そうだね。今度は大人数が来ても大丈夫なように配置とかを工夫したいな。」
「とりあえずモンスターは増やすべきだと思うよ、マスター。」
「あたしをもっと強化して欲しいな!マスター!」
「アイオス君、は、早く来るといいですね、ますたー。」
「そんなに早く会いたいんだ〜リュウちゃんは〜♪」
「え?え?」
「リュウちゃん、サキュちゃんはからかっているだけだから気にしなくていいよ。」
「つれないなー、リュウちゃんもマスターも。」
アイオス君が来てくれれば人族の当てがつきそうなんだけども…交渉はやっぱりリュウちゃんかなー。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ぶへしっ!」
アイオス君が一撃で倒れ込む。加減が分かったんだね、リュウちゃん。
「えと、アイオス君?そ、そのお願いがあるんですが…。」
リュウちゃんが人の姿になってもじもじしながら倒れているアイオス君に声を掛ける。なんだか不思議な光景だなぁ…。
アイオス君は痛みのせいなのかな、さっきからピクピクしてる。大丈夫かな…。
「出来ればで構わないんですけど、アイオス君の国の身寄りのない貧しい子供をたくさん連れてきて欲しいんです。」
リュウちゃんがアイオス君に肩を貸してダンジョンの出口に向かいながら説明する。
「身寄りのない子供を…?まさか子どもたちに救いの手を差し伸べようというのか?ああ、まるで聖女のようだな君は!」
さすが恋する男子。都合のいい解釈をしてくれるね。
「え?えっと、はい…たぶんそういうことになるのでしょうか?」
え?そう…なのかな?
連れてこられた子供たちにはここでダンジョンの守りをしてもらって、けれどちゃんと死なないように光水晶で守ってあげて、部屋も食事も他に必要なものがあればダンジョンコアで作れるものは作ってあげて…。
ほんとだ。身寄りがなくて貧しい子供たちにとってみたら3食住居付き快適な生活をちょっと荒っぽいけど安全なお仕事で手に入れられるわけだもんね。でも誘拐は誘拐で犯罪なような気もしなくはないような…。
「分かった。俺も微力ながら協力しよう!また1週間後くらいにここへ子供たちを連れてくるよ!」
アイオス君、ありがとう!
「ありがとうございます!」
リュウちゃんが笑顔でお礼を言うとアイオス君が顔を真っ赤にしてリュウちゃんを見つめている。うちのリュウちゃんは可愛いからね!
でもちょっと顔近くない?もうちょっと顔離そう!?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一週間ほど経過して、ダンジョンの入り口付近にアイオス君とおじいさん、そして20人くらいのボロボロな格好の子供たちがやってきた。
「お。アイオス君来たみたいだねぇ。」
「本当ですか!?サキュさん!」
リュウちゃん食いつきすぎだよ!
「って、あの子供たち…幼すぎない!?」
あれってまだ4歳、5歳くらいじゃないの?
「あれだと即戦力は無理かもしれないね、マスター。」
「はぅぅ…。もっと詳細に指定しといたほうが良かったかなぁ、エルちゃん。」
「ま、連れてきちゃったものはしょうがないっしょ。さあ、迎えに行ってあげようか。リュウちゃん!」
サキュちゃんがリュウちゃんの肩に腕を回して転送陣に連れていく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「アイオス君!」
「…、連れてきたよ!」
んん?アイオス君が手を上げて喜びの表情を浮かべたかと思うと一瞬戸惑って返事をした。
「…そういえば君の名前をまだ聞いてなかったな。」
「あ、えっとわたしはリュウって名前です。」
「リュウ…か。そのまんまだな。」
悪かったなっ!センスが悪くてっ!
「スラム街に居た子供たちを連れてきたんだがこういう子たちで良かっただろうか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます、アイオス君。」
「はっはっは、貴族である俺には造作のないことさ。」
「集めたのは我々使用人ですがな。リュウ様。」
「ふっ、使用人も含めて俺の力なんだよ、爺。」
えー…それはちょっとかっこ悪いかも…。リュウちゃんも苦笑いしてるよ。
リュウちゃんが近付いてアイオス君の手を取る。
「アイオス君。本当に感謝しています。わたしにはできなかったことですから。」
急に手を掴まれて再びお礼を言われたアイオス君が顔を赤くしている。リュウちゃんもちょっと赤くなっているような…。
「き、気にするな!この先は君の力でこの子たちが救われるのだろう?俺はそれにほんのちょっと協力しただけだ。だから、その…。」
アイオス君が照れて顔をそらす。って、
うわあああああああああ!?なにやってんのおおおおおおお!!
「え?」
「あの、その…。お礼です…!」
離してっ!サキュちゃん止めないでっ!行かなきゃ、行かなくちゃいけないのっ!
「そ、それじゃあ戻りますね。…みなさん、付いてきてくださいね?」
「あ、ああ。また会おう。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふぅ!ふぅ!」
「ほらマスター、深呼吸深呼吸!」
「頬に口を付けただけじゃないか、マスター。」
「それが大問題なの!」
「えっと、そのサキュさんがそうしろって…。」
「サキュちゃん!!」
「いやいや進展って大事だからさぁ。」
「今日という今日は許さないんだからーーーーー!!」
「ひゃあーーー♪」
「えーと…あの子たちの体を洗ってあげたいんですけど…。」
「…少し落ちつくまで待ってやれ。」
そろそろまたダンジョンのお話に戻らないと…。