オソロシ沼のおそろし様第八話
先ほど村へ覚束ない足取りで帰って行ったはずの優が…
また覚束ない足取りでオソロシ沼に登ってくる。
おそろし様は、嬉しくて優を迎えに山を駆け降りた。
優の側までやって来たおそろし様は、
『優…どうした…
また何かワシに頼み事でも言付かったのか?』
『違う…皆もオソロシ沼の裏に水の手があるのは知っておった。
じゃが…水を汲みに来て、おそろし様にバッタリ会おうものなら、忽ちの内に石になる。
じゃから汲みに行けんと村長の勤治郎は言う。
ならば…オレが汲みに行く…
そう言うと、勤治郎はオレが幼いから駄目だと言う。
ならば、おそろし様に相談してくると、此処にやって来た。』
『そうか…そうか…
困った時に優がワシに相談に来てくれたか?
嬉しい…ワシは本当に嬉しい。』
しばらく、腕組みしながらおそろし様は考えた。
そして…ポンと手を叩き…
『優…村長に樽を二つばかり用意するように伝えろ
そうさなぁ?四斗樽で良かろう。
それならば、容易く用意出来よう。』
『その四斗樽をどうすれば良い』
『夜中に村の入り口に置いて置けば良い。
ワシが取りに来て水を汲みまた村の入り口に置いて置こう。
夜中なら皆は出歩かん。
これなら、優の顔もたつし、村も喜ぶ
村も優も喜べばワシも嬉しい。
うん…これぞ…三方良しじゃ!』と笑った。
優もおそろし様につられて一緒に笑った。