オソロシ沼のおそろし様第二話
黒い海が押し寄せて来た。全ての物を飲み込む様に、牙を剥いて襲いかかる様に黒い海は入り江の側の村の集落を飲み込み…
オソロシ沼の直ぐ側に迄押し寄せて来る黒い海が、まだ夜中の闇にその咆哮がこだまする。
村人はオソロシ沼の畔に身を寄せ合い、震える体をいたわりあう様に抱き合い、さすり合った。
やがて…夜が白み始めた時村人の目に写る光景は、まさに、阿鼻叫喚…そのものだった。
全ての物が流され、また、オソロシ沼の近くに迄粉々に打ち上げられた残骸を見て、ある者は膝まづき、またある者はひれ伏し涙した。
東の水平線に朝日が昇り始めた頃…
誰からともなく…
『生きておれば、また漁は始められる。
これも全ておそろし様のお陰じゃ…
おそろし様に感謝じゃ…
嗚呼ありがたや…ありがたや…』
と感謝の言葉を口にした。
『じゃが?…
おそろし様の姿を一目でも見れば、我らは石になってしまう。
それを、おそろし様は十分にわかっておられる。
だから姿を現してはくれん。』
しかし…それは、どうにか出来る様なものではなく。考えても仕方がないので、各々オソロシ沼から村へと下り復興を始めた。
隣の村からも遠くの農家からも助けがやって来て着々と村は立ち直り始めた。
村を一望出来るオソロシ沼から村の立ち直る様を嬉しそうに眺めるおそろし様は小さな少女が、オソロシ沼へ上がって来るのを見つけた。
これはいかん!!
早く姿を隠さねば、あの少女を石に変えてしまうと、祠の裏に一目散に隠れた。