第49話 大和司と迷宮の始まり その2
普通の人のような時間に帰ってこれるとか、すばらしいですね。
「迷宮ですか?」
この世界では迷宮は決して珍しいものではないと聞いていた。しかし、あまりアステリアの街では話は聞いたことはなかったので、近くにはないと思っていたのだ。
「はい、その顔は、どこにあるんだという顔ですね。アステリアにもちゃんと迷宮はあるんですよ。とはいっても、馬車で2日かかるんですけどね」
「二日ですか……」
街より馬車で二日も離れていたら、簡単に行って帰ってという話にはならないだろう。食事とかの確保も考えないといけないか……そんなことを考えていると。
「大丈夫ですよ、迷宮の周りにはキャンプもあって、行商人が露天を定期的に開いていて、食事には困らないですし。冒険者ギルドが作った簡易な宿泊施設もありますので」
と、エミリーさんがおれの考えを読んだように補足してくれた。まあ、ここまで言われたら行く以外の選択肢はないだろう。
「エミリーさん、詳しく聞かせてもらえますか?」
……
…………
エミリーさんから、迷宮の概要をきいたおれは、今、迷宮行きの準備を進めている。ドランボスを切りつけた時に、それまで使っていたバスタードソードも折れてしまっていたこともあり、久しぶりに武器を買ったドワーフ兄弟の武器・防具屋『岩窟の金槌亭』へとやってきていたのだった。
ちなみに、剣が折れてしまった後の護衛クエストではTears of Dragonを形だけ背負ってごまかしておいた。ナーシャに言っておけば、モンスターが近寄ってくることもなかったしな……
「おー、坊ちゃんじゃないか、ひさしぶりだな」
「ごぶざたです」
「そういえば、二つ名をもらったとか聞かなかったか、兄者?」
「そんなことも言っておったな、なんだ幸運の……」
「いや、それは恥ずかしいから……」
「まあなんだ、武器のメンテナンスにもこんし、死んだかと思っておったわ、はーはっは」
どうやら数ヶ月顔をだしていなかったので死んだ認定をされていたらしい……
「で、今日はどうしたい、坊ちゃん?」
「いや、武器がこうでね」
そういって、根元からおれたバスタードソードをドノバンさん(ドワーフ兄)に見せる。
「これはまた、なんだ坊ちゃん、岩でも切ったのか?」
「さすがに岩は切らないが、そんなようなものだ」
岩よりも硬い肌のシルバードラゴンに斬りかかったので、大きくは間違っていないだろう。
折れた剣の先端と根元を両手にもって、折れた部分を見聞しながらドノバンさんがいう。
「坊ちゃん、こりゃーもう直せんぜ、新しいのを買うしかないな」
「はい、さすがに、そのつもりだ」
「どうするよ。またバスタードソードにするか?それとも曲刀でも試してみるか?」
「出来れば同じような使いごごちで、品質がいいものはありますか?お金はあります」
「おっ、強気だな。いくつかあるから、そこでまってろ」
そう言ってドノバンさんは奥のほうに剣を見繕いにいったので、ドルカンさん(ドワーフ弟)に声をかける。
「防具もいくつか新調したいんで見繕ってもらっていいですか?」
「よしきた」
結局、ドワーフ兄弟と相談をしつつ、霊銀製のバスタードソードを金貨3枚で、同じく霊銀製のすね当て、インナーを併せて金貨5枚で購入し、リエルにも地竜の皮を作った丈夫なプロテクターを金貨3枚で購入した。
金貨11枚の出費ではあったが、今のおれにはこれでもかなり節約できた印象だった。さらに高級な装備もおいてはあったのだが、丈夫な金属を使っているらしく重量も重くなってしまうため、おれとリエルには不向きだったのだ。
ちなみに、ナーシャには何も買ってはいなかったのだが、おれたち二人だけお金を使ったので、後で果物の蜂蜜漬けを買い与えるということを約束させられていた。ちなみに、蜂蜜漬けは非常に高級品で、一つで銀貨10枚はくだらないという代物であった。
装備を買い集めたあとは、果物などの新鮮な食料品を買い集め、ポーションなどの薬の他、現地に長い間滞在することになることは予想されたので、洋服や下着についても買いそろえておいた。荷物が多少増えても問題が無いし、新鮮な果物も腐らない、本当にアイテムボックス様々である。
洋服は、『ラ・ピエール』で買ったのだが、ピエールは、あいかわらずピエールだったので、もはや言及する必要も無いだろう。
そして、今、おれたちは、貸馬車屋から借りた馬車にのって、『主なしの迷宮』へと向かって進んでいた。
これまでの護衛クエスト(道中は非常に暇である)を繰り返す上で、馬に直接乗ることはまだ出来ないが、馬車の操作を商人達から習っており、一通り操作はできるようになっていたのだった。
仕事がヘルモードから天国モード(?)に変わったので、ものすごく久しぶりの連日更新。出来ればこの後も記事を稼ぐ!?(とか言いながら、ビールを開けました)
ジャンルについてのコメントありがとうございました、ハイファンタジーで間違ってはなさそうですね。
なんだかまだ新しい括りに慣れませんが……
2016/05/27ご指摘頂いた誤記を修正