第41話 大和司ととある主従
ふぁあ……
あいも変わらず馬車に揺られているわけだが、寝不足のせいか欠伸が止まらない。
「ヤマトツカサ、あなたは、仕事中なのにずいぶん眠そうですね」
そういって、マリアローズが嫌味を言ってくる。
「昨晩いろいろあって寝れなかったんだよ」
「いろいろってなんですの?」
「そら……(といってもシルバードラゴンの話はできないか……)、いろいろだよ」
「これだから、冒険者は」
「護衛の依頼といっても、これだけあたりに人がいるんだ、そもそもおれたちは必要だったのか?」
そう言って窓から外を指すと、時折、馬に乗っておれたちの馬車を通り過ぎていく騎士たちが目に入った。
そうなのである、特に昨晩のキャンプ地を過ぎて以来、調査団の調査エリアに入ったらしく、かなりの頻度で騎士や調査を行っている腕利きの冒険者とすれ違い、魔物にあうような気配がないのだ。
いくら幸運のパーティと言われているからといっても、さすがにこれは胡散臭いところを感じる。
「な、なにを言っているのかしら」
あらかさまにマリアローズが動揺している。こいつ嘘をつけないやつだ……
このまま気を利かして気付かないフリをしてもいいが、マリアローズは街の有力者である、はっきりさせたほうがいいだろう。
「お」
そう、おれがしゃべろうとしたときに、今まで黙っていたエマさんが口を開く。
「だますようで申し訳ありませんでした、ツカサ様。マリアローズ様がどうしてもツカサ様と一緒にいたいと「言ってないから!!」」
「まあ、それは冗談なのですが」
この人ニコリともせずに冗談を言うな……
間髪なくエマさんが続ける。
「実はマリアローズ様ですが、婚期を逃しておりまして」
「えっ?まだ若いだろ??」
「御年19歳ですね、来年には20歳になるというのに、婿もつかず。行き遅れということですね」
「エマ、人の年齢を!」
「あら、マリアローズ様、一丁前にご自身の年齢は気になさるのですね。早くいい方を見つけていただかないと、私が困るのですが?」
そういって、笑うエマさんの顔は、笑顔にもかかわらずなんだか怖かった。
「そういえば、エマはもう21……いひゃい」
エマさんが相変わらずの笑顔で、マリアローズのほっぺたをつねっているのが見える。
「まあ、二人とも、おれからすると若いですよ」
「「えっ??」」
珍しく、エマさんから驚いたような声が漏れたのが気になった。マリアローズが続ける。
「うそ、いったいいくつなのよ、ヤマトツカサ?」
「今年23になったとこだ」
「へー、絶対年下と思ってたわ」
「悪かったな童顔で」
「よかったですね、マリアローズさま」
「なんでよ!」
エマさんがいつもの調子に戻っている。
馬車の奥に座っているリエルがいつものすました顔なのに、どこか誇らしげな顔をしているのが見えた。きっと、私はツカサさまの年齢を知ってました、なんて思っているんだろう。年齢なんて、大したものじゃないだろうに、なぜ女性はいつも必要以上に気にするのやら……
女三人寄れば姦しいとはいうけど、この二人だけで十分姦しいな。だが、新鮮で少したのしかった。普段は、リエルとナーシャとの三人で行動しているが、リエルは自分からはあまりしゃべらないので、主にナーシャと二人でしゃべっていることが多い。そのナーシャであるが、今も横でパンツ丸出しで眠っているように、基本的に寝ていることが多い。そのため結構会話に飢えていたりするのだ。
マリアローズとエマさんは主従という関係を超えて非常に仲がよい。先ほどの話を契機に途切れることなく、何やらしゃべり続けている。二人をずーっと見ていると思わず欠伸がでた。
「やっぱ、まだ眠いな。コーヒーが欲しいな」
「コーヒー?それはなんです?」
マリアローズが耳ざとく聞きつけて聞いてくる。
「あー、こっちにはやっぱりないのか、おれの故郷でよく飲まれている飲み物だ。眠気を覚ます効能があってな」
「ツカサ様は、東方の出なんでしたっけ?」
「あー、そんなようなものです」
「東方といえばアステリアから遠いのでは?」
「そうですね」
「ツカサさまは、どうしてこちらに?」
「故郷でいろいろありまして……」
そういって話しにくそうな空気を演出する。いろいろあったことは事実であるし、実は異世界出身なんだ、たははーなんてことは言えるわけがない。
「あなたも苦労してるのね、ヤマトツカサ。何かあったら、ファルネーゼ家を頼りなさい。できる限りで協力をしてあげるわ」
「まあ、マリアローズ様」
「もうっ」
そんな感じで和やかな時間が過ぎていき、その日キャンプ予定の場所まで到着した。ここまでくると、隣国の街であるカンプスまであと1日とのことだった。
いつもどおりのキャンプのように、食事をすますと毛布にくるまって眠りについた。
……
「……カサ、ツカサ」
誰かに肩を揺すられて目を覚ます。
「ん、んん……ナーシャ?今度はどうした?」
今度はいったいどうしたのというのだろうか、また、眷属でも迫ってきたのだろうか、深刻な顔をしたナーシャの顔が間近まで迫っていた。
「ツカサよ、少々まずいことになった……」
深刻なナーシャの顔に思わず唾を飲み込む
「全く眠くないのじゃ!!」
おれは毛布を頭からかぶって、瞼を閉じた。
なかなか時間が(==)
とりあえず、アップします。