第38話 大和司とキャラバン
んんっ
マリアローズがのどの調子を整えて、話し出す。目はこちらをみておらず、黒焦げになって地面に横たわっているドアであった残骸を見つめている。
うん、あれまだ煙あげてるもんな……
「お休み中に失礼するわ」
「失礼、これが?」
そして、おれの目もマリアローズを見ておらず、ドアであったもののほうを向いている。
この部屋の中でドアを見ていないのはエマさんくらいだろう……とおもったら、ナーシャはこんな中でもわれ関せずと寝てやがる……
「ツカサさま、マリアローズ様がおしゃべりですよ」
「ハイっ」
なんだか背筋がピーンと伸びる。
ゴホン
「では、あらためて、今回は、ファルネーゼ家として、あなたに依頼したいクエストがあります」
マリアローズがいうにはこうである。例の事件以降、これまでアステリアの街と隣国を隔てていたアステリア山脈に大きな風穴があいたので、新しく交易の可能性がでてきたとのこと。
今までは、アステリア山脈それ自体が国境の役割をしていたが、そこに道ができてしまったので、両国の間では国境線を引き直す作業に追われているらしいが、新たな道の開通は大きな商機であって、アステリアの街から商人からなる非公式の使節団を派遣することになったらしい。
騎士団や有力な冒険者は今回の調査任務にみんな出払ってしまい、護衛任務ということでおれたちに白羽の矢が立ったらしい。
「どうでしょうか、道中の危険な魔物はすでに騎士団や調査団が排除しており、危険な目にあう可能性は低いとは思いますが」
まあ、一番危険なやつはいまそこで腹をだしたまま寝てるしな……風邪ひくぞ。そう思っていると、リエルがそっと布団をかけてやっていた。この子、おれの心を読んできてないか……
ガタン、ゴトン
そうしておれはいま、また馬車に乗って揺られていた。
今日はいつも乗っているような、商人の馬車ではなく、造りもしっかりしてサスペンションの効いた立派な馬車に乗っている。
横をみると、ナーシャがいつもと同じようにお腹をだして眠っている。反対側にはリエルがこちらを見ながら座っている。
いつもと同じ、だけど、唯一違うのは、目の前に腕を組んでこちらをにらむように見ているマリアローズだった。その横には、ピンと背筋を伸ばしたまま微動だにしないメイドさんが座っている。
じっと見ていると、エマさんがこちらを振り向いたので、慌てて顔を逸らす。
(で、なんでお前が乗ってるんだよ。今回の護衛はおれたちへの依頼じゃなかったのか)
なんとなく、エマさんに聞こえないように小声でマリアローズに話しかける。
(あなたたちはまだ、E級のパーティでしょ、前みたいにオオカミモドキクイーンみたいなモンスターがでたらどうするのよ)
マリアローズも小声で返してくる。
馬車は、山がくりぬかれたむき出しの地面の上をゆっくりと進んでいく。
なぜ、この山がなくなっているのかを知っているおれは、そんなことないだろと思うが、ここは黙っておく。
(なんでエマさんもついてきてるんだよ)
(エマは私の護衛も兼ねているのよ、それにこの前の件もあったし……)
「何を話しているかわかりませんが、お二人とも、すっかり仲良くなりましたね。マリアローズ様、お似合いですよ」
「「そんなことない(わよ)!!」」
そう声を合わせて返事をすると、エマさんの表情が少し崩れて笑ったような気がした。
今回の遠征団には、おれたちが乗っているフェルネーゼ家の馬車が1台、商会の代表が乗った馬車が1台、商人が別途雇った護衛が乗っている馬車が1台、商品のサンプルが満載された馬車が2台というちょっとしたキャラバンになっていた。
おれたちのキャラバンは予想どおり何事もなく穴のあく山脈の反対側へとたどり着いた。現在、調査が進んでいることもあって、ここに来るまでに騎士団を含む多くの人を見かけていた、ナーシャの威圧を使うまでもなく、モンスターの影はおれのセンサーにもかからなかった。
今日は少し早いけれど、ここでキャンプをすることになっていた。というのも、調査団のメインキャンプが作られているため、安全に夜を越せるというわけだ。
馬車が到着すると、馬に乗った騎士たちが、おれたちの乗った馬車を迎えるように左右に分かれて道を作る。なんというか、凱旋ということばが頭をよぎる。
マリアローズが車内から顔をだして、並んでいる騎士団に笑顔で挨拶をしている。その姿は、凛々しくも、、、うん、綺麗だった。
こうして見ると、ついタメ口でしゃべったり忘れそうになってしまうが、マリアローズが貴族なんだなとじっとマリアローズの横顔を眺めていた。
前の話と一話にしてちょうどいいくらいですね……
仕事の合間に書いてると、このあたりの分量で上げていかないとずっと上げられない恐れがあるんでよね。。。( - -)
継続は力なりということで(自分で言っていて耳が痛いですが)
2016/2/28 突っ込みいただいた誤記を修正、ありがとうございます!(><
自己チェック能力が死んでいる……
あと、タイトルに話数を忘れてたので追加しました!