第35話 大和司と昇格クエスト
「おはようございます、ツカサさん、リエルさん」
冒険者ギルドを訪れたおれ達に、エイミーさんが、いつも通りのきちんとしたかっこうで挨拶をしてきた。
「うむ、「「おはようございます」」じゃぞ」
よくみると、エイミーさんは、いつもどおりのかっこうではなかった。いつもは肩の辺りまでまっすぐに下ろされている髪の毛を後ろでくくり一つにしており(首筋が艶めかしくてすばらしい)、格好も白を基調とした革製の防具に身を包んで、腰の辺りに短めの杖を差している。
「あれ?」
「本日の、テスト官として、私がお供させていただくこととなりました。 こう見えても、D級相当の実力がありますので、いざという時も安心して任せていただいてよろしいですよ。」
「へぇ、D級ってすごいですね。 リエルもそう思わないか?」
「そうですね」
リエルの返事は少し素っ気なかったけど、この美貌で、受付の仕事も完璧で、ある程度の戦闘もできるって、まさに完璧じゃないか、エミリーさんは・・・・・・いや、うん、とくにこの胸が。
革製の装備に身を包んでも主張をやめることのない、その豊満な胸をみながらそんなことを考える。
「本日のクエストですが、先日もお伝えしていたとおり、アステリアからイシアまでの護衛任務となっております。街の周辺では危険な魔物が出ることはほとんどありませんが、途中いくらかモンスターの報告がされている場所がありますので、主にそのあたりで警戒および護衛などを行っていただくことになるかと思います」
「とはいえ、今回はEランクの昇格試験ということもあり、特に危険なモンスターの報告がなされてはいませんので、ツカサさんたちであれば、きっと問題なくクエストをこなせると思います」
「では、本日のクエストの依頼人を紹介したいと思いますが、その前に何か質問はおありでしょうか?」
そこで、おれは、これまで気になっていたことを質問した。
「昇格試験ですが、もし、モンスターに全く会わなかった場合でも、護衛は成功になるんですか?」
「そう、ですね、イシアまでの道中、正直に申し上げて、モンスターに会わないということは非常に考えにくいのですが……今回のクエストは護衛対象を無事にイシアまで送り届けることですので、規定上も問題がないことになりますね」
思っていたとおりの返事におれは思わず心の中でニヤリとする。
後ろにいる、ナーシャに視線を送る。
よし、手筈どおりに……
ふん、抜かりはないぞ
二人で怪しげな笑みを浮かべあう。
どうやら、今回のクエストは快適なものになりそうだ。
「ところでツカサさん、そちらのお嬢さんはどなたですか?」
「あれ、エミリーさん、ナーシャとは初めてでしたか? えーっと、おれ達の仲間で、実力は保証しますよ」
「そうですか、ずいぶんかわいい子ですね」
そういうエミリーさんの声がいつもの声と少し違った気がするが、きっと気のせいだろう。
「ナーシャと呼ぶがよいぞ」
「よろしくね、ナーシャちゃん」
そういって、ナーシャの小さな手とエミリーさんが握手をしている。美人と美幼女か、リエルとナーシャのコンビもいいけれど、こういう組み合わせもなかなかいいな。おれは、穏やかな表情で二人のことを眺めていた。
「それでは、依頼人の方を紹介いたしますね。 すでに到着されているみたいですので」
「あ、はい、よろしくおねがいします」
そうして、先導するエミリーさんについて、おれたちは、冒険者ギルドの奥へとやってきた。
そこには、二頭立ての大きな馬車と、その前に立つ、いかにも商人といった風体の小太りのおじさんが立っていた。
「どうもどうも、はじめまして。 私は、この街で商人をしているトーマスです。あなたがツカサさんですね、エミリーさんから聞いてますよ、期待の新人だそうですね。 今日は、うちの護衛をしてくれるそうで、よろしくお願いします」
「こちらこそ、まだまだ、冒険者になり立てなので、色々迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」
そう言って、握手を求めてくるトーマスさんとがっちり握手をする。ずいぶんいい人そうで、よかった。
トーマスさんの荷馬車は二頭引きであることもあって、御者を兼ねているトーマスさん、トーマスさんの積荷、今回の護衛役であるおれ達3人が乗っても十分なほど広かった。
その荷馬車のなかで、おれはいま、眠っていた。
頭の下の枕が、暖かくすべすべで、それでいて、弾力があって柔らかい、まさに完璧な枕だった。
すこし寝返りをうつと、枕が小さく声をあげる。
「ん」
おれはリエルの膝枕で、のんびりと馬車の旅を楽しんでいた。
アステリアを離れてしばらくたったけれど、モンスターのモの字も出ることなしに、旅は静かなものだった。
街道の上を、荷馬車がゆっくりと走っていく。
「そろそろ、昼食にしましょうか?」
トーマスさんがそう言って、馬車を木陰にとめた。
「ツカサ様」
「ん……おはよう、リエル」
「はい、おはようございます」
揺れる馬車の上だったが、リエルのおかげでしっかりと眠ることができた。リエルの膝の上で、リエルとしばらくの間、なんともなしに見つめあっていた。
「ツカサさん、よろしければ、昼食をご用意してきましたのでご一緒しませんか?」
「あ、ありがとうございます、ちょうどお腹が減っていて」
おれは慌てて起き上がった。
自分の馬の世話をしているトーマスさんを横目に、おれたちは、エミリーさんお手製のサンドイッチをご馳走になっていた。トーマスさんばかり働かせていて
さすが、竜の息吹亭のおっさんの血だろうか、小麦粉で包まれて揚げられた肉はとてもジューシーで挟まれた野菜はシャキシャキで、エミリーさんのサンドイッチはとてもおいしかった。
なんでもおいしそうに食べているナーシャはともかく、リエルも先ほどから無心でサンドイッチを食べているところからすると、きっと気に入ったのだろう。
その後も、ナーシャのおかげで全く何事もない静かな旅が続いていた。個人的には、何故か、リエルとエミリーさんが張り合うようにおれの世話を焼いてこようとするので、なんだか気がまったく休まることはなかった。いったい、二人ともなにをしたいのだろうか……おれには二人の考えていることがわからなかった。
「はあ、一人は落ち着くな……」
いま、おれは、ナーシャと二人でたき火の番をしていた。といっても、ナーシャはいまおれの膝の上に乗ったまま眠っているので、実質一人で火の番をしているわけだが……
こちらの世界にやってきてからしばらくたったが、急に周りの女子率が非常に上がっている。毎晩、2人の女の子と一緒に眠ることなんて、考えてもいなかった。
正直、おれは、何かが爆発寸前であった。膝の上に抱えているナーシャの小さく柔らかい身体も正直今のおれには刺激が強すぎた。
エミリーさんも何故か今回の旅では、身体的な接触が多く、その成熟した身体の誘惑に耐えるのは大変だった。
「はぁ」
ため息しかでない。
アステリアに帰ったらこのリビドーを至急何とかする必要がある、おれはそう決意をかためて、夜を明かした。
その後
「えっと、それでは、これで、本クエストは終了となります。 ほんとにモンスターに1匹もでないなんて……」
そうして、おれは、無事にEランク冒険者への昇格を果たしたのであった。
若干というか、ブランクの影響を大きく感じます^^;
が、まずは話を進めるということで!
次話はどこまで書いていいものか、ちょっと悩みそうな気がしていますが
のんびりとお待ちいただければっ
2015/4/20 誤記を訂正しました。