好き! 好き! 大好き! 愛してる!
私の彼氏の名前は、佑樹っていうの。ほんとにかっこよくて、私みたいに地味な女にとっては唯一の自慢だっていってもいいぐらい。
そんな素敵な彼が喜んでくれるように、今私がなにをしているでしょうか?
3、2、1……はい時間切れ!
なになに? 2と1の間、急にテンポ早くなったって?
もうっ、そのぐらいのご愛嬌ぐらい許してってば!
まあ、この話はまた今度ね! だってなんだか、あなた凄く怒ってるんだもん。もう、怖いなー。
えー、とね。じゃあ、話を戻しますよ。実は……なんとなんと、彼の制服のボタンがとれかかっていたので、糸の解れをなおしているところなのでーす!
ででーん✩
うーん、自分でもよくこんな些細なこと気づけたかって褒めてあげたいくらいっ!
少女漫画的で、ちょっぴりこんなことやってるのも恥ずかしいんだけどー。……それでも! うん! それでも佑樹のためなら、こんなのへっちゃらなのです。
でもー、不器用な私は何度も糸を通し直しちゃう。
制服が意外にぶ厚くてこれがまた難しいのよねー。やってみて初めてわかったんだけど、ミシン持っていないしー。
なにより、手作業ってやったほうが、その、あれでしょ?
ラ、ラ、ラ、ラブが感じられるでしょ。
って、もうっ! こんな変なこと言わせないでよー。
……うん、なに? そっちが勝手に言ってるだけ? もう……失礼しちゃうな! そんなこと言ってると、幸せが逃げちゃうぞ!
私?
私は今最高に幸せだよ。
好きな人がいて、そして結ばれて、それからその人のために何かできる。
ねえ、これ以上に素敵なことってある?
えへへ。
なんだかのろけみたいになっちゃったね。
ふふっ、なんっていうかさー。
幸せってものは、正しいことをしている人間に訪れるものだって思うの。
うん。私はそう思うんだ。
ほら、善人は天国にいってー、悪人は地獄にいってー、みたいなやつ。別に、そんな死後の世界なんて信じてないけどさー、なんだかそういうのって大切だって思うんだ。
だから。
私は、誰かの為になにかしたいって思うの。
ほら、そうすれば自分のためにもなるじゃない?
ねえ、だからさっきみたいに私を馬鹿にしちゃだめなんだぞー。せっかく掴みかけた幸せを零しちゃうかもしれないぞー。
……そうだよ。
きっと簡単な事なんだよ。
一人一人が誠実に生きれば、きっとこの世界の全ての人間が幸せになれる。
そんな単純なこと、誰だってわかっているはずなのに。
なんだかみんな小難しく考えすぎなんじゃないかって思うんだー。
しがらみとか、周りの空気とか、そういうのが邪魔してるのかも知れないけど、もっと素直に生きてもいいと思う。
こういう思いをただ撥ね除けるような人は……悲しいよ。寂しい人間だよ。
なんだか、こういう考えを除外しようとする人間ってたくさんいるんだ。
例えば、そんなのはただの個人の願望であって、そんな風に世界は綺麗なんかじゃない。……みたいなさ。
でも、それはやっぱり違うよ。
この世界はきっと、みんなが思っているほど悪意に満ちていない。こけちゃうことだってあるけど、前のめりにこけたい。
私は、後ろに転がりたくなんてないんだ。
だってそうしていれば、いつかはきっと自分の行きたいところにいける気がするんだ。
自分自身を見限ることさえしなければ、みんななんだってできるんだよ。
ああー、なんだろ。
やっぱり、私みたいな人間が何か言っても……説得力に欠けるよね。
でも。
幸せを願うって行為に、貴賤なんてない。
私はそう思う。っていうか、思いたいんだー。なんだか、ぜんぜん整合性ないような気がするんだけどねー。
でもさ。
どんなに正当な理屈を並びたところで、たった一つの感情論には及ばない。
それがきっと、人間の事実で真実の一つなんだよ。
そういうものなんだ……って、なんだか自分で言ってて恥ずかしくなってきちゃったよ。あー、熱い。なんだかこの部屋暖房効きすぎてるのかな?
……って、ああ! おかえりなさい、佑樹くん。ほら、この制服直しておいたよ! もう、ボタン外れかかったままで気づかないなんて、相変わらずだなー。
って、なにかしゃべってよー。そんなに驚いちゃった?
ごめんね。
驚かせようと思って、内緒で佑樹くんの部屋にあがりこんじゃって。でもね、大丈夫だよ。佑樹くんのお母さんにはちゃんとご挨拶もすましたから。
佑樹の彼女がこんなに綺麗だなんてー、って褒められちゃった!
なんだかお母さん、凄く嬉しがってたよ。
私のこと黙ってたんだって? うちの息子には彼女なんて一生縁がないかと思ってたのにー、って言ってたけど、そんなことないのにねー。
私みたいに運命の相手に、佑樹くんが今まで出会わなかっただけなのに。
それよりも、黙ってたなんて人が悪いよ、佑樹くん。
お蔭でいきなり突撃訪問した私のこと、最初はすっごくお母さんも不審がっちゃったんだから。でもまあ、私が佑樹くんのクラスの委員長を務めてますって言ったら警戒を解いてくれたんだけどね。
まあ、全部嘘なんだけどね。委員長なんて私みたいな引っ込み思案な子が勤められるわけないんだけど、そのぐらいの嘘は家に入るためにはしかたないよ。
なんだかなー。うちの親もだけど、勉強やってます! ってアピールすると結構大丈夫だよね!
あれ? どうして座らないの、佑樹くん?
……え?
私のこと――知らない?
なんでそんな冗談いうの、佑樹くん。そんな……笑えないよ。なんなのよ、なんでそんなこと。ストーカー? そんなものと一緒にしないでしょ。私は純粋に佑樹くんのことを好きなだけなんだよ。だからこうして、会いに来たんだよ。だって、ずっと遠くで見ているのなんて、もう耐えられないから。好きだからいいよね。私が幸せになるためなんだから、この行動ってきっと正しいものなんだよね。そうだよ、私は正しいんだよ。私が幸せになるために、そして、佑樹くんを幸せにするために私はこうして努力しているんだよ。だから、佑樹くんだって少しは褒めてくれもいいじゃない。褒めてよ。褒めて、ねえ褒めてよ。なんでそんな顔するのよ。いや、いや、いや、いや。なに、ねえ、なんで。そんなに逃げようとするの。だめだよ、そんなことしちゃ。そんなことしたら佑樹くんのこと嫌いになっちゃうよ。嘘、嘘だよ。そんなに怖がった顔しなくていいんだよ。私は永遠に佑樹くんのことを愛しているから。だって、ほら、授業中は今までに、78回も目があってるんだよ。これって、付き合っていることでいいんだよね。それから、佑樹くんの筆箱からシャーペンや消しごむなくなったりしてるでしょ。あれって、実は犯人私なんだよ。二人の思い出が欲しかったから。ごめんね。でも悲しんでる佑樹くんの表情、可愛くて好きだったよ。ああ、もちろん普段の佑樹くんも好きだから安心してね。好きなんだから佑樹くんからも聞かせてよ、好きだって。ほら、わかりきっていることって敢えて言わない。そういうことってあるよね。時間が経ちすぎるとどんどん言えなくなるから、いますぐ言ってよ、いって、いっててばあ! ああ、ごめんね取り乱しちゃって。すぐに、投げて壊れっちゃたものは片付けるから。大丈夫? 当たってないよね。ああ、よかった。素直してれば、お互い嫌な思いなんてしなくて済むからね。佑樹くんのお母さんだって、そんなこと望んでないよ。私たち二人の中を応援してくれているんだから。え、お母さんが騒ぐ? 大丈夫だよ。そんなことにはならないから。ちゃんと説明してあげたの、佑樹くんのお母さんには。わかってもらえたから、私のこと。だから、私達の邪魔なんてできないから安心して。うふふ、楽しいな、佑樹くんとこうして……え? お母さんは大丈夫だって。ほんとだよ。私、嘘なんてつきたくないし。あー、でも嘘も方便っていうし、善意の嘘って許されるよね。佑樹くんが幸福のためなら、私どんな嘘でもつくと思うけど、今はついていないから安心してよ! だから、逃げないでってば! ねえ、だから、待ってよ! ああ、もう危ないなー。もう少しで頭に当たりそうだったよ。だから逃げないでね。……そう、わかってくれればいいんだよ。やっぱり、努力が報われるって嬉しいね! ……そういえば、全然関係ない話していい? いいよね? うん、そうだよ。そうやってすぐに頷いてくれればいいの。……えっとね、言うことをきかない犬をしつけるためには、それなりの罰って必要だと思うの。それって、人間にも当てはまると思わない? 最近おかしいとおもわない。先生が生徒を少し注意しただけで体罰だとかいって、そんなんじゃ立派な大人になれないと思うの。でも、そのくせ犬や動物に対しては何をやっても許されるような、そんな感じ。ああ、差別だよ。それは。差別はいけないことなんだよね。だから、人間にも歩いていどのしつけは必要なんだ。うん、それってきっと正しい事なんだよ。だって、私は愛のためにやろうとしているだから。ほんとはそんなことしたくないんだけど、心を鬼にしてしつけようと思う。ああ、ごめん。ただの独り言だよ。ごめん、ごめん、ほんとごめん。謝るよ、謝るから許してよ。ねえ、許してくれるよね。たとえどんなことになっても、どれだけの愛情を私が注いでも、私のことが好きなら許してくれるよね。……きっと。