第1話 ごはんが欲しいだけなのに
お腹すいた……。
めいは、テーブルにジャンプしました。
テーブルの上には、何かが置いてあります。
ごはんではありません。
でも、そこにあります。
めいは前足を伸ばしました。
ぽとっ。
物が床に落ちました。
「め〜い! ダメよ〜」
人間がやってきました。
来ました。
めいは人間を見ました。
……うん。来るよね。
人間は床に落ちた物を拾っています。
ごはんは持っていません。
めいは、人間をじっと見つめました。
人間も、めいを見ました。
「もう、いたずらしないの」
いたずら?
ちがうちがう。
ごはんを出してって言ってるの。
めいは、もう一度人間を見ました。
人間は、拾った物を持って行ってしまいました。
……え?
ごはんは?
めいは、しばらく人間が消えた方向を見つめていました。
おかしいです。
人間は来ました。
物も拾いました。
なのに、ごはんが出てきません。
めいは考えました。
何かが足りなかったのでしょうか。
めいは、テーブルの上を見ました。
まだ、何かがあります。
……なるほど。
めいは、もう一度前足を伸ばしました。
ぽとっ。
「め〜い! やめて〜」
また人間がやってきました。
来ました。
めいは、人間を見上げました。
今度こそ、ごはんでしょうか。
人間は床の物を拾いました。
そして、めいを見ました。
「もう、ほんとにいたずらっ子なんだから」
人間は行ってしまいました。
……。
めいは、テーブルを見ました。
それから、人間が消えた方向を見ました。
もう一度、テーブルを見ました。
なるほど。
人間は、物を落とすと来るようです。
でも、ごはんは持ってきません。
なぜでしょう。
めいには、わかりません。
「めい」
声がしました。
振り向くと、ぽっけがいました。
「何してるの?」
めいは答えません。
「……また落としたの?」
「にゃ」
「それ、返事になってないからね」
ぽっけは、めいの隣に座りました。
そして、テーブルの上を見ました。
床を見ました。
もう一度、めいを見ました。
「ごはんが欲しいんでしょ?」
「にゃ」
「だったら、鳴けばいいと思うけど」
めいは、ぽっけを見ました。
ぽっけは、めいを見ました。
「……何?」
めいは、目をそらしました。
なんだか、気に食わないのです。
ぽっけは賢い猫です。
でも、たまに言うことが気に食わないのです。
「まあ、いいけど」
ぽっけは、少し離れたところへ移動しました。
めいは、テーブルを見ました。
ぽっけがこちらを見ました。
「めい」
「……にゃ?」
「次に何をするか、だいたいわかるよ」
めいは、前足を伸ばしました。
ぽとっ。
「……やっぱりね」
ぽっけは、ため息をついたように見えました。
人間がやってきました。
「め〜い! もう〜!」
人間は床の物を拾いました。
めいは、人間を見上げました。
人間は、めいを見ました。
「ごはん?」
めいは、じっと人間を見つめました。
そう!
それです!
ごはん!
人間は、少し考えてから、また行ってしまいました。
……。
めいは、ぽっけを見ました。
ぽっけも、めいを見ました。
「今のは、惜しかったね」
何が惜しかったのでしょう。
めいには、わかりません。
しばらくすると、台所から音がしました。
カサカサ。
カチャ。
めいの耳が動きました。
ぽっけの耳も動きました。
二匹は、同時に立ち上がりました。
ごはんです。
これは、間違いありません。
めいは食器のそばへ向かいました。
ぽっけも向かいました。
ようやく、ごはんです。
めいは夢中で食べました。
ぽっけも、静かに食べています。
食べながら、ぽっけは考えました。
めいは、物を落としました。
人間が来ました。
何度も来ました。
そして、最後にはごはんが出てきました。
……。
偶然でしょうか。
それとも。
ぽっけは、隣で夢中になっているめいをちらりと見ました。
「めい」
「……にゃ?」
「明日もやるつもり?」
めいは、ごはんを食べ続けました。
聞こえていないようです。
ぽっけは、もう何も言いませんでした。
この家には、賢い猫がいます。
そして。
自分が賢いことに、たぶん気づいていない猫もいます。
人間たちは、今日も猫たちの考えていることがわかりません。
猫たちだって、人間の考えていることは、よくわからないのです。




