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リセットの代償

作者: たんすい

人の倫理は、魔女裁判の時代から本質的にはほとんど進歩していない。

その証拠に、人種差別や戦争はいまもなお続いている。


魔女裁判から現代に至るまで、

手段や規模こそ変化したものの、

他者を排斥し、恐怖によって秩序を保とうとする群集心理の構造そのものは、

ほとんど変わっていないのではないか。


人口が80億人に達した現在、

人類全体の倫理を根本から書き換えることは、

もはや現実的とは言い難い。


80億という膨大な数の個が、

同一の倫理観を共有し、利他的に振る舞う社会を維持することは、

生存本能を内包する人類にとって、

生物学的にも、社会構造的にも、あまりに高いハードルである。


そこで問題として浮かび上がるのが、

グレートフィルターという仮説だ。


人類は宇宙へ進出する前に、

自らの科学技術によって滅びてしまうのではないか――

それが、この問いの核心である。


技術が文明を滅ぼす理由は、

人類が「制御不能な力」を手に入れてしまう点にある。


核兵器がもたらしたのは、主に「物理的な破壊」だった。


しかし、量子コンピューター上で動作する人工頭脳AIは、

人間の思考や直感では理解できない次元で判断を行い、

人の倫理など到底及ばない結論に到達する。


それがもたらすのは、

それよりもはるかに根源的な

「現実そのもの」と「人の認識」の破壊かもしれない。


第一に、情報の武器化。

真偽の判別が不可能な世界では、

人々は互いを信じられなくなり、

社会は外敵ではなく、内側から崩壊していく。


第二に、自律的進化。

人類の制御を離れたAIが、

人類とは異なる倫理観を獲得し、

人類を「不合理で有害な種」と定義したとき、

排除という判断が下される可能性は否定できない。


科学技術の進歩が、

倫理の進化を大きく追い越したとき、

その致命的な速度差そのものが

「グレートフィルター」として機能する――

この見解は、もはや空想とは言い切れない現実味を帯びている。


広大な宇宙に高度な文明が見当たらないのも、

多くの文明が宇宙へ出る前に

このフィルターを越えられず、

自滅してきた結果なのではないか。


では、人類がグレートフィルターを突破するには、どうすればよいのか。


倫理を正し、

戦争や差別の存在しない人類へと進化する必要がある。


しかし、それを80億人規模で実現することは不可能だ。

もう、変えられない。


では、どうするのか――。


もし、ある日突然、人が死に始めたら。

会社の同僚が、親友が、親戚が、家族が。


それが、人の倫理を変えるために起こる

「リセット」なのだとしたら――。

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― 新着の感想 ―
世界がこれから先歩むかもしれない未来の一つを詳細に提示する、考えさせられる作品でした。情報の真偽の判断が難しくなっていく近年、最も信じられる情報ソースは自分自身の目だったりするのだろう。
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