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9/10

九、

 遂に待ちに待った喜ばしい日がやって来た。この日が来るのを、ずっと待ち望んでいた。反面、父親からの横槍が再び行く手を阻むのではないか、外での初の対面となるが愛美に気に入って貰えないのではないか、そんな不安が美智瑠の心に幾つも小さな穴をあけた。

 今回、訪れる場所は既に決まっている。前日の夜までメールでやり取りを重ねた結果、日本一の電気街でありオタクの聖地でもある秋葉街へ行くことにした。

 美智瑠は待ち合わせ時間より二十分も早く駅の改札口に着いた。手持ち無沙汰にスマホを弄る。新着メールはない。当然、誰からも電話が掛かってきた形跡はない。

 その事が

 とにかく、

 虚しくて

 寂しい。

 そんな時は決まって、本当に仲の良い“親友”が欲しくなる。だが、誰でも良い訳ではない。決して妥協だけはしたくない。もし妥協するくらいならば一生涯、孤独で居続けても良い。それくらい美智瑠が親友と言う存在に、かける想いは強い。

 すると、待ち合わせ時間まであと残り僅かと言ったところで愛美からメールが届いた。美智瑠は即座に思考を止めてメールを開き本文を確認した。

『ごめん! 寝坊しました! 五分ほど遅れます』

 誰もいないのに、美智瑠は薄く作り笑いを口元に浮かべるとスマホを握る手に思い切り力を入れたのち緩めた。この時点で分かる、自分は大事にされていないのだと。

 結局、五分を過ぎても愛美は一向に現れず、待ち合わせ時間より十五分ほど遅れて、ようやく慣れた手付きで素早くパスモを出して改札を通り過ぎる彼女の姿を見つけた。手を大きく振りながら、こちらへ向かって駆けてくる。美智瑠は笑顔で手を振り返して愛美を迎えたが、内心穏やかではなかった。愛美から

「遅れてごめんね!」

 と謝罪を受け、美智瑠は表面上あっさりとそれを許した。

 今まで離れた位置から窓越しに見ていた愛美が至近距離にいることに、美智瑠は軽微の感動を覚えた。目線を下に遣ると、彼女の細長い二本の脚がしっかりと見える。逆に目線を上に遣ると、彼女の頭部が見えて、身長は美智瑠より少し低いことが分かる。愛美はまるで歩く人形のように美しかった。彼女が遅刻してこなければ、感動もひとしおであったろう。

「こうして会えて良かったです。今日は、よろしくお願いします」

 美智瑠がぺこりと頭を下げると、

「私もずっと会いたいと思ってたから会えて良かった! 大事な初日なのに遅刻しちゃってごめんなさい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 愛美も申し訳なさそうな顔をして上半身を軽く曲げお辞儀をした。

「それにしても、お腹空いたねー」

 美智瑠が砕けた感じで切り出す。

「ちょうど、お昼時だもんね。何か食べたいものある?」

「うーん、特にこれと言ってないかな」

「じゃあ、ぶらぶら歩いて良さげな食べ物屋さん探そっか?」

「うん! そうしよ」

 愛美の提案に美智瑠も乗った。

 日本が世界に誇る電気街は人でごった返していた。その人混みの中で揉まれていると、秋葉街も随分と国際的になったものだと感じる。飛び交っている言語は日本語だけではない。外国からの観光客がまた一段と増えた。これでは落ち着いて会話もできない、と美智瑠は愛美を道の隅へと誘導し、これからの予定を話し合った。

「どうしよう。想像以上に人多すぎるから前へ進めないね」

「ね。満員電車の中みたい」

「休日だからかなあ」

「あっ! あそこの店はどう?」

 愛美が指差した先に美智瑠も視線を遣る。良い具合に開けた空間にレストランがあった。

 二人は雑踏の中、前を歩く人の靴を踏まないように慎重に歩いた。人混みを掻き分けレストランの中へ入ると、そこは普通の飲食店ではなかった。今までの人生で一度も訪れたことのないメイドカフェと言う業態の店だった。

「お帰りなさいませ、お嬢様!」

 美智瑠は目の前にいるメイドをまじまじと見つめた。ピンク色の大きなリボンがカチューシャのように頭の上に乗っかっており、小柄で、美声で、笑顔は文句無しに可愛い。メイド服もきちんと着こなせている。

「メイドさんだー!」

「か、か、可愛いオーラがすごい……」

 店内は、ご主人様とお嬢様のお屋敷と言う設定の異空間が広がっていた。照明は灯りを少し絞っているのか、ほんのり暗い。壁紙や椅子の背もたれなどがピンク色のハートマークで可愛さ満点だ。

「わあ~!」

 お屋敷内を見回しながら美智瑠が、幼子のように無邪気に瞳を輝かせる。

「お客さん、結構入ってるね」

 愛美は一点の曇りもない微笑を顔に貼り付けているのに、恐ろしく淡々とした口調で言った。

「意外と女性客もちらほらいるんだね」

 美智瑠は同性もこう言ったメイドカフェを利用することを知って半ば驚き半ばホッとし、女性客達に少しばかりの熱視線を送った。

「お嬢様たちのお席はあちらになります。……こちら、段差がありますのでお気を付けください」

 メイドが、気遣いながら卓まで案内してくれる。

 指定された一番端の四人がけの卓に美智瑠と愛美は、対面する形で椅子に腰掛けた。クッション性が高く、可愛いだけではない、座り心地も抜群だ。これは何時間でも長居できてしまいそうだ。

「改めまして、お帰りなさいませ、お嬢様! お嬢様方のご帰宅、メイドである私“あんず”も大変心待ちにしておりました。久しぶりのご帰宅なので、今日はお嬢様方にお会いすることができて、と~っても嬉しいです!」

 お屋敷滞在時間は一時間まで、食事代の他にチャージ料が六百円必要など、ルールブックを開いて見せてくれながら様々な説明を受けた。

 美智瑠はあんずの接客に圧倒された。小動物のように細々と体を動かしながら“可愛い”アピールする彼女の様子を、口を半開きにしながらじっと見つめていた。

 あんずは、まるで人気女性アイドルのようだ。こんなにも全方位“可愛い”の塊のような人間が存在していたのかと言う発見が、美智瑠の脳裏に新規情報として刻まれてゆく。

 緊張が和らぎ、自然と両頬が緩んだ。

「……それでは、ごゆっくりお過ごしくださいませ。ご用の際は、そちらにあります、ベルを振って鳴らしてくださいませ。失礼致します、お嬢様」

 あんずは深々と一礼すると、この場を去った。

 美智瑠と愛美は、感無量と言うように息を吐き出し顔を見合わせた。

「あんずちゃん、超絶可愛かったね」

「だよね! アイドルみたいだった!」

「私、メイドさんになりたい時期あったけど、あんなすごい接客目の当たりにしたら、そんな風に少しでも思った自分が恥ずかしくなったよ……」

「美智瑠ちゃん、メイドさんになりたかったの?」

「……うん。おかしいよね?」

「良いんじゃない? 今からでも充分間に合うって! メイド服似合いそう!」

「あ、あ、ありがとう。全然可愛くないから似合わないのは分かってるんだけど、何故か昔から可愛いものに惹かれてしまうんだ……悲しい性質に泣ける」

「そんなことないよー」

「あ! 愛美ちゃんはどう? 美人さんだからメイドさんに絶対向いてると思う!」

「えー、私は何かヤだなー。仕事の割には、お給料が低そうで」

「……そうなんだ! 何か、意外」

「そう?」

「あっ、気を悪くさせたらごめんね! 何となく、愛美ちゃんはお金より、やりがいや可愛さに重きを置くタイプに思えたから」

「えっ、ふふふ。私、結構、守銭奴だよ。この世は金を多く持ってる者が人生を謳歌できる勝者だって、そう言う考えがあるの」

「そ、そ、そうなんだ」

「ごめんね。もしかして、イメージ崩壊しちゃった?」

「あ、いや、その、全然そんなことはないんだけど、ちょっとビックリしちゃっただけで……」

「ところで、どれにする?」

 愛美が話題を断ち切るようにメニュー表を卓上に広げて言う。

「何かコースが色々あるね」

「迷う~」

「じゃあ、私はコレ!」

「良いね! 私もそれにしよっと」

 美智瑠は卓上にあるベルを宙で振って鳴らすと、あんずが急ぎ足で駆けつけて来てくれた。

「お待たせ致しました、お嬢様。お決まりですか?」

「はい! ……えっと、お絵描き付きのオムライスと萌え萌えハピネスパフェとメイドさんチェキコースを二人分お願いします」

「かしこまりました、お嬢様! これからシェフが心を込めてお料理をお作り致しますので、少々お待ちくださいね」

 あんずは笑顔で可愛くお辞儀をすると、オーダーを告げに奥の厨房へと入って行った。

 美智瑠は彼女の後ろ姿を優しい眼差しで見送りながら

「あんずちゃんみたいなメイドさん、家に欲しいなあ」

 と、ポロリと口から本音を零した。

 だが、すぐその考えを打ち消す。自宅に父親と言う鬼畜が居るのでは、あんずに地獄を見せることになってしまう。美智瑠は自虐的に微笑んだ。

     ◇

     ◇

 二人はメイドカフェできっかり一時間“萌え”を堪能し尽くしてから、近くのリーズナブルな価格が売りの焼き鳥屋へ吸い寄せられるように入店した。店内は繁盛していた。若い客が多く賑わっている。こうなると、腹から声を出さなければ会話もままならないかもしれない。

 茶髪の女性店員が二人に気が付いて、二人掛けのテーブル席に案内してくれた。座布団が敷いてあるだけの固い木の椅子に美智瑠は腰掛けた。愛美も真向かいにある同じような椅子に座る。先程行ったメイドカフェの座り心地の良い椅子とは大違いだが、庶民的な雰囲気漂う店内は美智瑠の気持ちを大いに落ち着かせた。

 ケチャップでウサギの絵が描かれたオムライスのスマホ保存写真とあんずとのツーショットチェキ写真を交互に見比べながら、美智瑠は串に刺さったままの鶏皮(塩)にかぶりつく。それとは対照的に愛美の食べ方は上品で、串からねぎま(タレ)を丁寧に箸で外して一個ずつ口の中へと入れている。

「たまたま入った店がメイドカフェでちょっとビックリしたけど、良い経験になったね」

 愛美がタッチパネルで、月見つくね(タレ)とハツ(タレ)とカルピスサワーを注文しながら言った。

「うん! あんずちゃんにも会えたし、メイドさんたち全員可愛くって本当に行って良かった」

 美智瑠は、あんずと一緒に写っているチェキ写真を目をキラキラさせながら眺めている。友達がほぼいない美智瑠にとって、同年代くらいの可愛い女の子とのツーショット写真は実に新鮮で恐悦至極だった。

「美智瑠ちゃんは、あんずちゃんにすっかり惚れちゃったみたいだね。……はい、まだ注文するでしょ?」

 愛美がタッチパネルを差し出す。

「ありがとう」

 美智瑠は快く受け取ると、素早い手付きで手羽先(塩)と軟骨(塩)を注文カゴへ入れて確定ボタンを押した。

「“可愛い”って、顔が可愛いとか、雰囲気が可愛いとか、仕草が可愛いとか、性格が可愛いとか色々あるけど、九割が天からの授かり物だよね。残り一割は本人の努力によるもの。あんずちゃんは本当にパーフェクトな可愛さだったよね」

「“可愛い”は天性の才能だよね。それだけで武器になるし。周りの人間の態度を面白いくらい変える力がある。だから、可愛さの欠片もない私はそれが羨ましいんだあ」

 美智瑠はそう言って自棄を引き起こし、レモンサワーをがぶ飲みした。

「またまた、そんなこと言って~! 美智瑠ちゃんは充分可愛いんだから、堂々と胸張って生きて行けば良いのよ」

 愛美は生ビールを一口飲み込んでから励ましの言葉を送った。その間も、美智瑠はレモンサワーを一気飲みするかの如くひたすら飲み続けている。

「ぷはーっ、お世辞とアドバイスをありがとう。愛美ちゃんは本当に美人だよね。……また明日から連続でバイトだ。バイトのこと考えると、目から塩水出てきそう。憂鬱過ぎる」

「美智瑠ちゃん、明日バイトなの? それなら、あんまり飲み過ぎないようにしないと仕事出来なくなっちゃうよ?」

 愛美は保護者のように心配げだ。

「分かってるんだけど、飲まないとやってらんないんだよねえ」

 美智瑠は連日のバイト生活に疲れてきたのか、すっかりやさぐれている。

「もう! まだ二十歳なんだし、新橋にいる中間管理職のサラリーマンみたいなこと言わないでよ」

 愛美が、すかさず突っ込みを入れた。

「私、普段は一滴もお酒飲まないんだ。お父さんがアル中で、家の中は酒と汗の臭いが強烈で吐きそうになるから。あの人、あんまりお風呂に入らないから不潔で体臭がスゴいんだよね……暴力的だし、本当に嫌い」

「……大変だね。美智瑠ちゃんの家庭環境は深刻そうだから、こちらまで辛くなるよ」

「……ごめんね。変な話、し始めて。話を聞いてくれてありがとう。酔うと愚痴っぽくなってべらべら喋っちゃうんだ。本当にごめん!」

「大丈夫! 私は酔うと顔が真っ赤になっちゃうの。美智瑠ちゃんは顔に出ないから良いね」

 愛美が自分の頬を包み込むように両手で触った。

「でも、愛美ちゃんの顔、言うほど真っ赤じゃないよ。頬がほんのり赤らんでるけど、チーク塗ってるみたいでスゴく可愛いよ」

 美智瑠は、まじまじと愛美の顔を熟視しながら正直な感想を述べる。

「ありがとう。……あ、そろそろ、お店出ない? 私、お酒飲み過ぎちゃったかもしれない」

     ◇

     ◇

 軽快なBGMと色付きの光が、店内を明るくチープで怠惰な雰囲気にさせる。客は若年層が多く、様々なゲームをプレイすることに夢中になっている。美智瑠は、この空間に僅かばかりの不健全さを感じて居心地が悪くなった。

 カーレースをしている一人の青年を背後で応援する二人の女子。たまたま目に入った三人が、どのような関係なのか愛美は野次馬的な興味を覚えた。

「ゲーセンなんて久しぶり~」

 愛美はそう言って、周囲を大きく見回した。

「私も。だからなのか、いつもより脈拍が速いような気がする」

 美智瑠が手首に人差し指と中指を置いて脈をとる仕草をする。

「ここのゲーセンってさ、夜になると不良少年、不良少女がたむろするから危険な香りがするよね。その輪に交じることは絶対にないんだけど、見かけると結構、刺激的でドキドキしちゃう」

「悪がカッコ良く見えてしまう人っているけど、愛美ちゃんはそのタイプ?」

「いや、私の場合は、ただ不良の生き様に興味があるだけなの。人間にすごく興味があって……ちょっと違うけど、犯罪心理学とか学んでみたかった」

「おー! 犯罪心理学は私も気になる」

「どうして、人は人を殺したりするんだろうね。本当に不思議」

 愛美が二人では決して正確な答えにたどり着けないであろう疑問を口にした。

 すると、美智瑠が俯いた。激情がぶわっと込み上げてくる。抑制しようとしても、しきれない。美智瑠は握り締めた二つの拳をぶるぶると震わせ始めた。

「私はアル中の父親を殺したい。毎晩、お母さんを泣かせるから……」

 声に悲痛の色が滲む。

「……あの、良かったらコレ使って」

 愛美が白いレースのハンカチを差し出す。

「ありがとう。でも、大丈夫……ハンカチ持ってきてるから」

 美智瑠は震える手をパンツの右ポケットに突っ込んで、無地で橙色のハンカチを取り出した。それで涙を拭うと、泣き出したことを愛美に謝罪した。愛美は、

「謝る必要はないから、落ち着いたらプリクラ撮ろう」

 と、美智瑠の肩を優しく抱いた。その時に漂う愛美のいつもの柔軟剤の芳香が、またしても美智瑠の心を優しくすくい上げた。

 涙は予想より大分すぐにおさまった。

 数分後、UFOキャッチャーや太鼓の達人の前を素通りして二人が向かった先は、お目当ての進化し続けるプリクラ機だった。既に撮り終えたであろう制服姿の女子高生二人が、分厚いカーテンを右手で片方に押し退け出てきた。出来上がったプリクラを手に持って見て、

「わー! 可愛く盛れてる~!」

「二人とも、めっちゃ小顔じゃん! 目がエイリアンみたいにデカくなって、うるうるしてるの笑う」

「また、撮りに来よっ♪」

「だね! その日が楽しみ過ぎるわ」

 年相応にはしゃぐ。

 砕けた二人の会話から仲の良さが窺える。恐らく二日や三日の短期間で築き上げた即席の友情ではない。愛美と美智瑠の関係にはない、何倍も強い絆が女子高生の二人の間にはありそうで、美智瑠は自分達が今この場に居ること自体がひどく場違いな気がした。

「楽しみ~! 可愛く撮れると良いね」

 けれど、愛美の笑顔を見ているうちに、そんな不安は何処かへ吹き飛んでいった。

「うん!」

 美智瑠は微笑み返して大きく頷いた。

 分厚いカーテンを手で掴んで右へやり、意を決してプリクラ機の中へと入った。硬貨入口の真上に『一回八百円』と記入されたシールが貼ってある。

「何か値上げした?」

「ね。こんなに高かったっけ」

「物価高騰のあおりをこんなところでも受けるなんてね」

「ここも割り勘で良い?」

「もちろんだよ。ずっと割り勘にしよっ! その方が良いと思う」

 愛美と美智瑠は、それぞれ百円を四回、硬貨入口の中に押し込んだ。

 すると、プリクラ機から女声が聞こえだし二人の胸は高鳴った。愛美はスタートボタンを人差し指で強めに押した。

 それからは、嵐が直撃でもしたかのように二人はてんてこ舞いになって、しかし懸命に指示に従った。

「三、二、一、カシャッ!」

 愛美と美智瑠は、やたらと急かされながらもプリクラ機の女声に導かれながら何度もポーズを決めた。

 かと思いきや、すぐにデコレーションタイムに突入する。撮り終えた写真に、絵や文字を描いたり、フレームや背景を選んだり、まるで焦燥感を解く暇さえ与えてくれない。

「十秒で背景選べって言われても無理でしょ。全然、時間無いって!」

「急いては事を仕損じるって言うけど、無理やり急かされてるんですけど」

 二人はプリクラ機に対して散々、不平不満を口にしたが、その表情は明るい。むしろ急かされること自体を楽しいハプニングとして捉え、愉悦さえ感じているかのようだ。

 こんな気持ちは初めてだ。

 時が止まってしまえばいい。それか永遠に続けばいい。

 美智瑠はこの僅かで限られた時間に深く感じ入って、ささやかな幸福感を覚えていた。

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