十七、
昨日の逸脱した発狂の記憶を、翌朝になった今でも鮮明に覚えている。身を震わす程の後悔に襲われ、後悔してもしきれない。けれど、たとえいくら後悔しようとしなかろうと過去は変えられない。
美智瑠は自分の選んだ選択肢を間違えた。自分は一体どうしてしまったのだろう。理性も常識も全部、何もかもが吹き飛んで、狂気に取り憑かれていたとしか思えない。
ベッドの上で寝返りを打つ。
「何であんなことを言ったんだろ……言いたくなんかなかったのに……」
腕を額にのせて消え入りそうな声でそっと呟く。
最近、自分と言うものが益々よく分からなくなってきて、小さな暴走を繰り返すようになった気がする。過去好意を抱いていたことのあるアルバイト先の先輩・青山に、昼下がりに突然掛かってきた電話相手の消費者金融・薮木に、美智瑠は我を忘れて噛みついた。いずれにしても懸命に自分自身を保とうと堪えていたはずなのに全く歯が立たなかった。堪えて堪えて堪えていたのに、自分を抑制することができず発狂してしまった。こんなことが習慣化してしまったら困る。人間関係に深刻な亀裂が生じて、より一層生き辛くなるだろう。肩身の狭い思いをすることになる。
「百万円の借金か……」
美智瑠は両腕を掛け布団の上に真っ直ぐ下ろすと、ぼそりと呟いた。
父親の顔が思い浮かぶ。南国の住人に居るような褐色の肌に、目鼻立ちの整った野性的な容姿。力士のようにたっぷり脂肪のついた腹とガリガリの手足。そして、鼻をつまみたくなるような酒の匂いと独特の体臭。我が家の獅子身中の虫であり、唾棄すべき存在だ。
消費者金融の薮木からの電話で思わず父を庇うような真似をしてしまったが、今では父の命と引き換えに借金を帳消しにしてくれたらと切に願うばかりだ。
それにしても、あまりにも愚かで恐ろしいことをしたものだ。闇社会とズブズブの関係でありそうな消費者金融相手に電話越しに暴言を吐いてしまった。これでは、金を借りた父親よりも美智瑠自身の命の方が危ういだろう。
怖い。
怖すぎる。
息が止まりそうだ。
何もする気になれない。恐怖のあまり全身に震えが走って、少しの力も入らない。いつまでも、ベッドの上で寝転がっていたい。叶うならば今ここで安眠の末、死にたい。美智瑠は仰向けになったまま、ゆっくりと目蓋を落とした。
この日、初めてアニメショップのアルバイトを無断欠勤した。




