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十五、

 まるで天からの祝福でも受けたかのような快晴で、見上げた青空には雲一つない。清々しい朝だ。窓を開け放ち、新鮮な空気を吸い込んでから大きく伸びをした。

 隣家の部屋は遮光カーテンが引かれているようで、室内の様子を窺い知ることは出来ない。数少ない友人である愛美の顔を見て安心したかったけれど、すぐに気持ちを切り替えた。この後、会える予定なのだから、あくせくせずとも良いだろう。

 秋とは言え、シミ・そばかす予防のために美智瑠は露出している全ての肌に念入りに日焼け止めクリームを塗った。花柄のシュシュでポニーテールの根元を結わき、顔には優しげに見えるよう目元にピンク色のチークを入れて、しっかりめに化粧を施している。服装にも凝っており、おろしたての桃色のロングワンピースに、シルバー色のラメが煌めく小洒落た靴を身に付けた。

 待ち合わせ場所であるテーマパーク出入口前にたどり着いたのは、美智瑠が一番乗りだった。待ち合わせ時間よりも十五分ほど早い。友人とテーマパークへ行くこと自体初めてのことで、興奮し過ぎて気持ちが急いていたのかもしれない。

 二人が来るまでテーマパークのマスコットキャラクターであるファントムウサギが描かれたベンチに座り、スマホを見て時間を潰すことにした。急上昇ワードを検索してネットサーフィンをしながら時折、視力低下防止のためにテーマパーク出入口前に伸びている人の行列を眺めた。家族連れや友達同士、若いカップルの姿が大半を占めている。これから自分もこの行列の中に交じるのだと思うと、美智瑠は疲労を感じるのと同時に期待に胸を膨らませた。今か今かと、友人二人の到着を心待ちにする。

 約束している時間まであと残り僅かといったところで、最寄り駅の方角から愛美とタケルが息遣いを荒くしながら走ってくるのが見えた。美智瑠はベンチから立ち上がると、目を糸のように細めて微笑みながら二人を迎えた。

「美智瑠ちゃん、ごめーん! 待ったよね?」

「待たせてごめんね。偶然、同じ電車の車両に愛美も乗ってるのが分かったから、ここまで一緒に来たんだ」 

 愛美はセーラー服風の胸元にリボンのついたブラウスと紺色のスカートを、タケルはTシャツにジーパンと言ったいつでも着脱が簡単そうなラフな格好をしている。

 美智瑠は愛美のショルダーバッグに取り付けられているキーホルダーに注目した。

 二人の乱れた息遣いが整うのを待ってから、

「鞄についてるティアラ姫が可愛い~」

 と、人差し指の先を、ドーナツのように穴のあいたプラスチック製の円型キーホルダーへ向けた。夜を想わせるような落ち着きのあるネイビーカラーをしており、振動を加える度、真ん中でティアラ姫の上半身がゆらゆらと揺れる。

「そう。三人の共通の推しキャラだから忘れずにつけて来たよ」

 愛美はそう言って笑んで、涙袋をぷっくりと膨らませた。目の下の膨らみに魅惑的な色気と母性を感じて、思わず美智瑠の瞳孔が開いた。愛美の笑顔がティアラ姫の美貌と重なって見える。

「偶然にも推しキャラが同じだって言うことが、私はすごく嬉しいな」

 美智瑠は一人ではしゃいでいる。

「もう、美智瑠ちゃんは本当に純粋だなあ。私も二人と推しキャラが同じで本当に嬉しいよ」

 愛美が浮かべている笑みを強めた。

「美智瑠ほど純朴な子も珍しいよね。天然記念物並みだ」

 タケルも愛美に同意して頷く。

「……えっとー、純粋とか純朴とか、それって良い意味なの?」

 美智瑠が恐る恐る二人に問うと、「良い意味だ」と言う答えが返ってくる。

 何か、あやしい……。そう思いながらも、特別悪い気はしなかったのでさらりと受け流す。

「もう少し休んでから行く? それとも、このままあの列に並ぶ?」

 美智瑠はそう言って体を長蛇の列へ向ける。

 美智瑠の体の向きと同じ方向へ二人も視線を遣ると、愛美は眉間に皺を寄せタケルは苦笑した。

「うわあ……、すごい行列。見てるだけでもう疲れた。でも、並んで待たないことには中に入れないもんね……よし! 私は行けるよ! タケルはどう?」

「俺も大丈夫。行こう」

 三人は意を決して長蛇の列の最後尾に並びながら順番を待った。

 秋色の太陽の光が燦々と降り注ぐ。陽射しが強い。日焼け止めクリームを今朝、入念に塗ってきて本当に良かった、と美智瑠は思う。

 それから、およそ二十分が経過した。

 ついこの間友人になったばかりの三人では、しばしば長い沈黙が落ちて、漂う空気はまるで息をしていない。

 時折、愛美がじれったそうに身動きして栗色の美髪を豊かに揺らす。その隣で美智瑠は涼しげな顔をして文庫本を開き、近代ヨーロッパの世界へ没入している。タケルはそんな女子二人の正面で、片手にペットボトルを持って空を仰いでいた。

「この前、美智瑠ちゃんとメイドカフェへ行ったんだけど、タケルはメイドさんに興味あるの?」

 愛美がタケルに話題を振って一時的に場は盛り上がったが、すぐに消沈し何故かそれから一向に会話が続かない。

「あのかの有名な切り裂きジャックの性別が、男性ではなく女性だったって言う説があるけど、みんなはどう思う?」

 今度は美智瑠が、手に持っている小説の内容から話題を提供する。この話題で、漂っている空気の起死回生を図ろうと言う魂胆だった。しかし、美智瑠の思惑は外れ、二人は一様に首を傾げただけだった。

「最近ライブハウス巡りにハマってるんだけど一緒にどう? バンドも、それぞれカラーがあって特長的だから退屈しないと思うよ」

 タケルが突如として趣味ネタを放り込む。今後の提案に愛美は賛同したが、美智瑠はかつて誘われて行ったライブハウス内の音楽が、大音量で刺激が強過ぎた為、一人だけ難色を示した。

 世間話のネタもそろそろ底をつき始めた頃になって、

「大変お待たせしましたー! お次でお待ちのお客様どうぞー!」

 チケットカウンター内にいる女性スタッフが満開の笑顔を咲かせ、明るく大きな声でこちらへ向かって呼び掛ける。

「やっとだ、長かった~」

「ようやく中に入れるね」

「思いっきり楽しもう♪」

 長蛇の行列を並びきった達成感を、それぞれ顔に滲ませつつ互いに喜び合う。

 三人の先頭にいたタケルがチケットカウンターへ歩き出すと、その後に愛美と美智瑠も続いた。

 チケットを買い、念願のファントムダイスのテーマパークへと足を踏み入れる。

 まず始めに、広く開けた空間の真ん中に鎮座するファントムダイス城が目に飛び込んできた。鮮やかな黒とピンクと紫の三色のボーダーラインが幾重にも走り、ゴシック調のデザインが退廃的で可愛い。感動もひとしおだが、突然、甲高い叫び声と共に猛スピードで何かが背後で駆け抜けてゆくのを感じ、美智瑠は素早く後ろを振り返った。物体は人を乗せた状態で回転したり、垂直に落下したり、高速で前進したのち曲がったりしている。これこそ、ここのテーマパークの一大名物である絶叫マシン・ファンタジックエクスタシーライドだ。

「おおー! すごい迫力!」

「これ、CMで見てから、ずっと気になってたやつ!」

 はしゃぐ二人を尻目に、美智瑠はすっかり気落ちして顔の表情が石のように固く強張ってゆく。

「美智瑠、どうした? テンション低いけど」

 観察眼の鋭いタケルが、美智瑠の肩に手をのせて顔を覗き込む。

 ドキッとした。

 こんなに間近に端正な異性の顔があるだなんて、と美智瑠の心臓が大きく跳び跳ねて呼吸が一瞬止まる。恐怖よりもときめきが勝った。だが、この動揺を決して誰にも悟られてはならないような気がして、さっと目を伏せると、

「ごめん。私、こういう激しい絶叫マシンが苦手で……」

 と早口で呟いた。

「絶叫マシン苦手なの?」

 タケルは確認するように訊ねる。

「……うん」

 美智瑠は、まだファンタジックエクスタシーライドに乗ってもいないのに、すっかり顔面が蒼白になっていた。

「そっかあ。どうしよっか?」

 愛美がタケルへ困惑げに視線を送る。

「あ、でも、私はここで待ってるから二人で乗ってきて。ずっと、楽しみにしてたんだもんね?」

 美智瑠は自分が二人の楽しみを奪ってしまってはいけないと、慌ててそう発案した。

「そうだけど……」

 愛美とタケルは互いに悩ましげに顔を見合わせた。

「私のことは気にしないで乗ってきて。乗り終えたら、ぜひ感想を聞かせてね」

 美智瑠は無理やり口角を持ち上げて懸命にくしゃくしゃの笑顔を作ると、戸惑いの表情を浮かべながら二人を見送った。

 待っている間、美智瑠は再び手持ち無沙汰となる。周囲を見回して運良くピンク色のペンキで塗られた二人掛けのベンチを発見すると、そこにゆっくり腰をかけた。絶叫マシンが苦手であると行く前に申告しなかったことを、もしかしたら二人は今頃、意味不明であると陰口を叩いているかもしれない。打ち明けた時の愛美とタケルの迷惑そうな表情が脳裏に貼りついている。この過ちが、これからも大切にしてゆきたいと思っている友人二人を失うことに繋がってしまったら、と押し寄せる不安の波は尽きない。

 すると、頭にウサギ耳のカチューシャをつけ、丈の短いスカートを履いた制服姿の女子高生三人が、美智瑠の目の前を通過しようとしていた。美智瑠は思わず目を見開いた。羨望の眼差しで、通り過ぎてゆく彼女達を視界に捉える。ところが、よく見てみると、三人の内一人だけが一歩遅れをとる形で横一列から外れている。一歩先にいる二人の会話には入れず、ただ一人暗い面持ちで後を歩く女子高生に、美智瑠は同情した。三人というのは、魔の数字だ。大体が仲の良い二人で固まって、一人あぶれてしまうことが多い。美智瑠にも、こういった状況は身に覚えがあった。

     ◆

 美智瑠は教室内の壁に背を度々預けながら作り物の笑顔を浮かべて、この小さな苦境を乗り越えようとしていた。

 高校に入学して早一ヶ月。友達作りに失敗した美智瑠は、周りが群れる中、その輪に入ることができず往々にして一人でいることが多かった。今はちょうど、半月後に迫る新入生だけで行く国立水族館への遠足の班決めをしている真っ只中だ。既に大体の班は固まっている。残るは、あぶれ者の居場所を探すだけだ。

「矢部さん一人でいるから、こっちおいでって誘ってあげなよ」

「えー、やだあ」

 高校の入学初日の休み時間に、真っ先に話し掛けてくれたクラスメイトの女子・優子とはあまり相性が良くない。容姿は群を抜いて優れているのにわがままで我が強く、気難しくて扱いづらい。近くにいるクラスメイトの女子に対する悪口を本人にも聞こえるような大声で喋ったり、目の前にいるのに直接話し掛けてこないでスマホでメッセージを送信してきたりなど、美智瑠にとっては理解に苦しむ言動が多々見られた。

 隣にいる女友達の提案を両頬を膨らませ断る優子は、どうしても美智瑠を同じ班には加えたくないようだ。冷たい眼差しで美智瑠の目を穴が開くほど鋭く見つめている。

 未だ孤立している者は、女子一人と男子二人だ。どの顔触れも不器量だったり暗い雰囲気を漂わせていたり、と陽キャとは程遠い。

 女子の中でたった一人取り残されている美智瑠は、唇を引き結び口角を上げて体を上下に揺らし、壊れそうな精神の安定を図っている。周囲の好奇の視線が痛い。誰からも声が掛からない売れ残りの自分が、ひどく惨めだった。だが、苦しみは駆け足で上り坂を登ってゆく。あぶれ者の男子二人が、冴えないオタク系男子の班に貰われてゆくと、最後に残されたのは美智瑠ただ一人となった。

 悪い注目の的だ。羞恥に晒されている。様々に感情のこもったクラスメイト達の視線を一斉に浴びる中で、美智瑠の心は容赦なく踏みつけられズタズタに引き裂かれていた。誰も貰い手がいないと言うことは、誰からも愛されていないと言うことと同義だろう。美智瑠には自分から積極的に動いて班に加えて欲しいと懇願する勇気はなかった。ただ、ひたすら声掛けされるのを待つのみだった。その為に、苦し紛れな微笑を口元にたたえて俯いていた。

「ねえ、もし良かったらこっち来なよ。……良いよね?」

「うん」

 美智瑠の現状を見かねて救いの手を差し伸べてくれたのは、艶のある明るい茶髪をしたクラスメイトのギャル系女子二人だった。一度も染髪したことがないのに傷んだ黒髪を後ろで結わいている美智瑠とは、見た目からしても釣り合わない。

「えっ、ありがとう!」

 予想外の人物からの声掛けに、美智瑠は微笑むことも忘れて思わず目を丸くしつつ礼を述べた。

 全ての班が決まった。

 それから数日間、美智瑠は弁当を一人で食べることがなくなった。ギャル中心の大所帯の輪の中に入れてもらって一緒に食べるようになった。ギャル系女子のコミュニケーションのとり方は、地味系女子とは一味違う。地味系は相手の気持ちに過剰に配慮するのに対して、ギャル系は遠慮なく踏み込んだことをさらりと口にする。美智瑠はギャル系が気紛れに投げ掛けてくる問いに、簡単な相槌を打つだけで精一杯だった。

 そんな中で迎えた新入生の国立水族館への遠足当日。女性ガイド付きのバスに揺られながら美智瑠は必死で自らを律していた。まさかの乗り物酔い止め薬を服用してくるのを忘れると言うあってはならないミスを犯し、焦燥から額にじんわりと汗が滲んだ。一応ビニール袋は何枚か用意してはいるが、それでも不安で胸が押し潰されそうだった。

 結局、体調不良を感じたものの大事には至らず、無事、国立水族館の敷地内へ降り立った。美智瑠は最初こそ雪江と志津香の間に挟まるような形で歩いていたが、徐々に一人だけ後ろへ下がって行った。気が付いた時には、二人の真ん中に入る隙間は完全になくなっており、横二列目として俯き加減で歩いた。前列にいる二人の会話のキャッチボールがテンポ良く続いている。真ん中に戻ることも会話に入ることも出来ず、その時、感じた疎外を美智瑠は今でも覚えている。

     ◆

「……一人でいる子、頑張れ。めげちゃダメ」

 美智瑠は自分自身にも言い聞かせるように、小声でエールを送った。

 喉の乾燥対策のために、持参した緑茶の入った水筒をバッグから取り出すと、一口二口と口に含ませるようにして飲む。緑茶は少し薄めに作ってある。渋味がなくスッキリしたまろやかな味わいが、女子高生に感情移入して暗くなった心を優しく解きほぐしてゆく。

 一息ついてから、美智瑠は文庫本を開いて文字の横を指でなぞりながら唇をもぐもぐ動かして黙読した。こうして読まなければ、文字が頭に入ってゆかない。そのことに気が付いたのは、中学生の頃だった。他のクラスメイト達は国語の授業中も朝の読書タイムの際にも、文字の横をペンでなぞりながら読む者はいても誰一人唇をもぐもぐ動かして読む者は見られなかった。その時から、美智瑠は他の同級生達がしないようなことを自分はしてしまうのではないか、という危機感と共に劣等感さえも抱き始めた。そんな劣等感を増幅させるかのように、楽しげな男女の笑い声が近付いてくる。カップルだろうか。一夜限りはあっても恋人のいたことのない美智瑠は、思わず項垂れて下唇を噛み締めた。

「楽しかったあ♪」

「まじサイコーだった」

 どこかで聞いたことのある声だ。

 もしかして、と美智瑠はハッとして顔を上げた。男女の声の主を確かめようと上半身を動かす。角を曲がった、およそ五十メートル先に二人の友人の姿が花壇越しに見えた。一気に安心感が芽生える。けれど、肝心の二人は美智瑠の姿に気が付いていないようだ。

「あ。タケルの前髪、逆立ってる」

 愛美はそう言ってタケルの前髪を手の平で撫で付けている。

「ありがとう」

 タケルが愛美の頬をつまんで、からかいながら礼を言った。

「もう! せっかく髪の毛直してあげたのに。化粧がとれるでしょ」

「悪い、悪い」

 戻ってきた二人は美智瑠の想像を遥かに超えて、距離がぐっと縮まっているかのように見えた。

 その事実に胸がズキリと痛む。タケルも愛美も私がいない方が楽しそう、私だけが遠くにいる、私がここにいる意味ってあるのかな、美智瑠は次から次へ思考を巡らせ自ら産み出した精神的苦痛に喘いだ。

 過去に感じたことのある疎外を、ここでも感じなければならないのか。体は成長しているのに、心は依然として子どものままでいる。こんなこと考えたくないのに考えてしまう自分自身に腹が立った。

「あっ、美智瑠ちゃん、そこにいたんだね」

「待たせてごめん。乗ってる時間はあっという間なのに、待ち時間がかなり長くてさ。早く戻って来れなかった」

 愛美とタケルが、ようやく美智瑠の存在に気が付いて駆け寄ってくる。

 邪念を振り払い、美智瑠は急いで微笑みを作ってベンチから立ち上がった。

 そして、外側の腕と腕が密着し合う二人に対して

「感想を聞きたいから近くのカフェへ行かない?」

 と提案した。

 二人はあっさり承諾して、可愛い巨大なハートが屋根の上に座っているゴシック調のカフェへ入った。

 店内は不思議と、この前愛美と行ったばかりのメイドカフェの店内に似ていた。

 三人は適当に空いている席に着いて、注文を取りに来たウエイトレスにクリームメロンソーダとアイスティーとホットコーヒーを頼んだ。

「それで、ファンタジックエクスタシーライドの乗り心地はどうだったの?」

 さっそく美智瑠がテーブルに身を乗り出して切り出す。

「本当にすごいよ。回ったり曲がったり進んだり回ったりの繰り返しで、自分が何者なのかも忘れるくらい振り回されてさ」

 美智瑠の目の前の席に座るタケルが、ファンタジックエクスタシーライドについて身振り手振りを交えて話し始めると、

「そうそう。自我が崩壊するよね。私なんて途中で意識飛びそうになったもん!」

 タケルの左隣に座る愛美も、興奮が抑えきれないとでも言うかのように熱く語りだす。

「そ、そうなんだ。……なんかよく分からないけど、とてつもなくヤバい絶叫マシンなんだってことは分かったよ……」

 美智瑠は二人の話にしっかりと耳を傾けつつ一瞬言葉を詰まらせた。

「一生に一度は乗る価値があると思うから、美智瑠ちゃんも乗れば良かったのに。ねえねえ、今から私と一緒に挑戦してみない?」

「ううん! 絶対やだ! だって、自分自身が壊れておかしくなっちゃうんでしょ? そんな絶叫マシンになんて絶対乗りたくないよ~!」

「乗らなきゃ絶対損だよ! 乗る前は怖くてたまらないかもしれないけど、いざ乗ってみるとエクスタシー感じて天国まで行けるから」

「な、なにそれ……? そんなの怖すぎるよ! 絶対にヤだ! 私、まだ死にたくない!」

「超快感なんだって! すごい楽しかったから、後で乗らなかったことを後悔して泣きベソかいても知らないよ~」

「乗って後悔することはあっても、乗らないで後悔することはない気がするからいいっ!」

 愛美と美智瑠の言葉の応酬を、タケルはにやにやしながら聞いている。

「ちょっと、そこのお兄さん。何笑ってるのかな?」

 タケルの微笑に気が付いた愛美が突っ掛かりにゆく。

「いや、別に」

 タケルは満面の笑みを浮かべて首を捻った。

「でも、何かあるから笑ったんでしょ?」

 愛美はさらに突っ込んで尋ねた。

「いやいや、お二人が仲良しで微笑ましい限りだなぁと思って」

 タケルは飄々とした態度を貫き通す。

「微笑ましい……?」

 美智瑠が不思議そうな顔をして口を挟んだ。

「うん」

「……確かに。いつも従順で良い子な美智瑠ちゃんが、あんなに感情的に嫌がるなんて初めてのことだよね? 私はようやく腹を割って話せたような気がして楽しかったよ」

 愛美が溌剌として勝ち気そうな眼差しを美智瑠へ向けて言う。

「……そ、そうかな? 私も楽しかったよ。ありがとう」

 美智瑠は紅潮した両頬と上下する両肩を宥めながら、友達と言うのはこう言った人のことを言うのだと感じた。

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