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『死んだら輪廻庁ストーリー課でした ~テンプレ転生をボツにして、消されたヒロインを救います~』  作者: 慧翔秋明


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第3話 作戦会議という名の説教

 302回目。

 それが、現在俺たちが繰り返しているループの回数だ。

 109回目に俺がこの世界に来てから、実に200回近く。

 俺たちは「学園祭の前日」という24時間を、飽きもせず繰り返していた。

 原因は明白だ。

 この世界の創造主気取りである「観察者」が、あまりにも潔癖症で、完璧主義で、そのくせエンタメの何たるかを全く理解していないド素人だからだ。

 ちょっと噛めばリセット。

 照明がズレればリセット。

 アドリブを入れれば即リセット。

 スライムを出して服を溶かせば、芸術点ゼロの判定と共に強制終了。

「……いい加減、頭がおかしくなりそうだ」

 俺――執事セバスチャンこと三城晶也は、誰もいない教室の教卓に手をつき、重苦しい溜息を吐いた。

 窓の外は、302回目の晴天。

 相変わらず生徒たちは楽しげに準備をしているが、俺の目にはもう、彼らが精巧なラジコン人形にしか見えない。

「三城さん、元気出してください! まだ300回じゃないですか。エンドレスエイトに比べれば準備運動ですよ!」

 頭上の空間から、妖精姿のルナが能天気な声をかけてくる。

 こいつはデータ存在だから疲労がないのが羨ましい。

「あのなルナ。俺は人間だ。同じセリフを300回聞かされ、同じ失敗を300回見せられれば、精神も摩耗する」

「でもでも、今回はついに『あの手』を使うんですよね?」

「ああ。もう個別の対処療法じゃ限界だ。外科手術オペを行う」

 俺は眼鏡の位置を正し、燕尾服の襟を整えた。

 そして、懐中時計を確認する。時刻は13時00分。

 運命のチャイムが鳴る。

 ガラララッ!

 教室のドアが勢いよく開かれた。

 入ってきたのは、この終わらないループの元凶――もとい、愛すべき「主要キャスト(容疑者)」たちだ。

「なんだ執事! 我が筋肉のゴールデンタイムを妨害するとは!」

 開口一番、暑苦しい怒号を上げたのは、主役のアレン王子だ。今日も今日とて制服の袖を引きちぎり、無駄に上腕二頭筋を見せつけている。

「ククク……我を呼び出すとはいい度胸だ。闇のリハーサルの準備で忙しいというのに」

 眼帯を押さえながら入ってきたのは、演出担当のカイドウ。その背後には、怪しげな魔法陣が描かれた模造紙が見える。燃やしたい。

「お嬢様の貴重なお時間を奪うなんて、万死に値しますわ」

 殺気を放ちながらモップ(先端が槍状に改造されている)を構えるのは、メイドのマリア。

 その横で、ヒロインのアイリスが「ご、ごめんなさいマリア、落ち着いて……」とオロオロしている。

 さらに、寸胴鍋から紫色の煙を上げさせている料理部のコレット。

 「気合だー!」と叫びながら机を破壊して入場した大道具のガストン。

 ドライバー片手に照明器具を分解し始めている科学部のハカセ。

 総勢、10名(+ルナ)。

 この学園祭をカオスに陥れている「暴走族」が、一堂に会していた。

「皆様、お忙しい中お集まりいただき感謝いたします」

 俺は教卓をコンコンと指で叩き、あくまで「有能な執事」としてのトーンで切り出した。

「本日は、明日の本番に向けた『最終調整会議』を行いたいと思います」

「調整? そんなもの必要ない! 俺の筋肉は常に仕上がっている!」

「我の魔術も臨界点だ。あとは解放するのみ」

「私のスープも煮込まれていますぅ〜。隠し味の『トカゲの尻尾』も馴染みましたしぃ」

 口々に勝手なことを言う彼らに、俺はこめかみの血管がピキリと音を立てるのを感じた。

 俺は懐から、分厚い書類の束を取り出した。

 徹夜で作った(正確には、ループの合間にルナに高速出力させた)、「改訂版台本」だ。

 ドサッ。

 重厚な音が、教室に響く。

「これは……?」

 アイリスがおずおずと尋ねる。

「新しい台本です。……いいえ、正確には『拘束衣』と言った方が正しいでしょうか」

 俺は眼鏡を光らせ、彼ら全員を見渡した。

「単刀直入に申し上げます。これまでのリハーサルを見る限り、今のままでは成功率0%です」

「なんだと!?」

「なぜだ! 俺の演技は完璧だぞ!」

「いいえ、アレン様。貴方のそれは演技ではありません。ボディビル大会です」

 俺はホワイトボードに、マジックで大きく文字を書いた。

 【作戦目標:個性エゴの完全封印】

「いいですか。今回の演劇における最大の敵は、魔王でもなければ、予算不足でもありません。貴方たちの『余計なアドリブ』です」

 俺は指示棒(ガストンが持っていた角材を借りた)で、ホワイトボードを叩いた。

「観察者……コホン、観客が求めているのは、あらすじ通りの、平穏無事な、何の変哲もない王道ストーリーです。そこには筋肉も、黒炎龍も、媚薬スープも必要ありません!」

 俺は一人ずつ指差して、罪状を告発していく。

「まずアレン様! 貴方のセリフの語尾にある『マッスル』『バルク』『パンプアップ』、全て削除しました。今後、筋肉に関する発言を一回するごとに罰金500イェンです」

「なっ、なんだってー!? 筋肉を語らずして、どうやって愛を囁けばいいのだ!?」

「普通に『好きだ』と言ってください。『大胸筋が喜んでいる』とか言わないでください」

「次にカイドウ様! 貴方の演出プランにある『召喚魔法』『爆破エフェクト』『客席へのダイブ』、全てカットです。代わりに手持ち花火(安全基準適合品)を許可します」

「手持ち花火だと……!? 貴様、我の『終焉の黒炎ダーク・インフェルノ』を線香花火にする気か! 魂が消えるぞ!」

「消えて結構。貴方の魂より、舞台セットの安全が優先です」

「そしてコレット様! 模擬店のスープ、及び劇中の小道具としての食事。全て『水』に変更します」

「ええ〜っ? 水ですかぁ? 味気ないですぅ。せめて『惚れ薬』か『自白剤』くらい入れないと、パーティーが盛り上がらないですよぉ」

「盛り上げなくていいです。パーティーが全滅する絵面は見飽きました」

 俺は次々と「禁止事項」を突きつけた。

 マリアには凶器の没収。

 ガストンには機材接触禁止。

 ハカセには工具没収と、両手の拘束(手袋)。

「――以上です。この『改訂版台本』には、貴方たちの個性を殺し、徹底的に『無難』にした動きだけが記されています。これを一言一句、ロボットのように正確に実行してください」

 シーン、と。

 教室が静まり返った。

 アイリスだけが、ホッとしたような顔で台本を抱きしめている。

「よかった……これなら私でも間違えずにできそう……」

 だが。

 その静寂は、爆発の前触れでしかなかった。

「――断るッ!!」

 ドンッ!

 アレンが机を叩き(机が粉砕された)、立ち上がった。

「ふざけるな執事! 筋肉のない騎士など、プロテインの入っていないシェイカーと同じだ! そんなスカスカな物語で、客が感動するとでも思っているのか!」

「そうだ! 我も認めん!」

 カイドウが眼帯を外さんばかりの勢いで叫ぶ。

「演出とは、魂の叫びだ! 予定調和の中で踊る人形になれだと? 笑止! たとえ世界が滅びようとも、我は我の美学を貫く!」

「私も反対ですわ」

 マリアが冷ややかな目で俺を睨む。

「お嬢様を守るための武器を捨てるなど、メイドの矜持に関わります。もし舞台上にお嬢様を害する虫が現れたら、誰が掃除するのですか?」

「誰も現れません。貴方が呼ばない限りは」

 反発の嵐。

 予想はしていた。彼らは「物語の登場人物」である以前に、この世界において特異点となるほど濃い「自我」を持った存在だ。

 それを力技で抑え込もうとすれば、当然こうなる。

「皆さん、落ち着いて……! セバスチャンさんは、劇を成功させるために……」

 アイリスが仲裁に入ろうとするが、声がかき消される。

「黙れアイリス! お前も悔しくないのか! こんな『書き割り』みたいなセリフを言わされて!」

「えっ、あ、私は……」

「コレット、お前の料理への愛はその程度か! ガストン、破壊の衝動を忘れたのか!」

「うおおおっ! 忘れてねえ! 俺は大道具だ! 壊すために作るんだ!」

「そうですぅ! 毒のない料理なんて、スパイスのない人生ですぅ!」

 カオスだ。

 教室の熱量が上がり、ボルテージが臨界点を超えていく。

 俺の目の前で、「改訂版台本」がアレンの筋肉によって引き裂かれ、紙吹雪となって舞い散った。

「……はあ」

 俺は眼鏡を外し、目頭を押さえた。

 やはり、こうなるか。

 彼らにとって「個性」とは、生存本能そのものなのだ。それを否定することは、彼らの存在意義を否定するに等しい。

 分かってはいた。

 だが、このままでは――

 ピシッ。

 乾いた音が、俺の耳にだけ届いた。

 世界の亀裂。

 リセットの予兆ではない。もっと悪い音だ。

『あ、三城さん! マズイです!』

 ルナが悲鳴を上げる。

『キャストたちのストレス値が限界突破しました! このままだと、リセットじゃなくて『暴動ライオット』が起きます!』

「暴動?」

『はい! 彼らのエゴが物理法則をねじ曲げて、学園ごと吹き飛ぶかも……!』

 見れば、アレンの身体から黄金のオーラが、カイドウから漆黒の霧が噴き出している。

 これは、マズイ。

 観察者がリセットボタンを押す前に、彼らが世界サーバーを破壊してしまう。

「……撤回します!」

 俺は大声で叫んだ。

 執事としての冷静さをかなぐり捨て、机の上に仁王立ちになる。

「撤回! 今の台本はナシだ! 忘れろ!」

 その声に、全員の動きがピタリと止まった。

「……ナシ?」

「ああ、ナシだ。クソ台本だった。俺のミスだ」

 俺は舞い散る紙吹雪の中で、苦々しく告げた。

 敗北だ。

 管理しようとした俺の傲慢さが、彼らの熱量に負けたのだ。

「貴方たちの個性は認めます。……ですが! 劇を崩壊させるわけにはいきません」

 俺はアレンを、カイドウを、そしてアイリスを睨みつけた。

「アレン様、筋肉を使ってもいい。ただし『服を着たまま』魅せてください。それが真の紳士のマッスルです」

「む……着衣マッスルだと? 高度なテクニックを要求するな……だが、悪くない」

「カイドウ様、黒炎も許可します。ただし『演出として意味がある場所』限定です。無駄撃ちは美学に反するでしょう?」

「フン……分かっているではないか。いいだろう、最高のタイミングを見極めてやる」

 妥協案。

 いや、これは綱渡りだ。

 彼らの暴走を完全に止めるのではなく、「方向性」だけを微調整して、破綻ギリギリで成立させる。

 100点の予定調和は諦める。

 だが、30点の赤点回避すら、今のままでは難しい。

「とりあえず、今日は解散です! 各自、頭を冷やしてください!」

 俺は宣言し、教室から逃げるように退出を促した。

 わらわらと出て行く問題児たち。

 最後に残ったアイリスが、心配そうに俺を見た。

「あの……セバスチャンさん。本当に、大丈夫でしょうか?」

「……正直に言えば、崖っぷちです」

 俺は正直に答えた。

 10人の暴走キャスト。

 彼らを御するのは、今の俺の手には余る。

「ですが、分かりました。彼らを『型』にはめるのは不可能です。なら……別の方法を考えるしかありません」

 俺の脳裏に、黒い予感がよぎっていた。

 この後、起こるであろうイベント。

 「ライバル令嬢・エレオノーラの乱入」。

 完璧超人である彼女が介入してくれば、このバラバラな連中はひとたまりもない。

「お嬢様。明日はもっと忙しくなりますよ」

「えっ?」

「覚悟しておいてください。……貴方の『主役』の座を守るための、本当の戦いはこれからです」

 302回目の作戦会議は、決裂という形で幕を閉じた。

 だが、怪我の功名か。

 彼らの「エゴ」の強さを再確認できたことだけが、唯一の収穫だった。

 

 このエゴの塊を、どうやって一つの矢印に向けるか。

 執事セバスチャンの胃に穴が空くのが先か、ループを抜けるのが先か。

 戦いのゴングは、まだ鳴り止まない。

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