表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『死んだら輪廻庁ストーリー課でした ~テンプレ転生をボツにして、消されたヒロインを救います~』  作者: 慧翔秋明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/75

第13話 名前を戻すボタン

 画面の端で、警告色がじわじわ濃くなっていく。


【BAN:78%(警告:3/3)】

【閉門まで:6時間12分】

【順位:19位】

【MVP:トウマ(固定)】

【Support:— — —】


 数字は動く。ランキングも動く。

 なのに、こはるの名前だけが出ない。


 ――回復して、撤退判断を支えて、隊を生かしてるのに。

 画面の上では、最初からいなかったみたいに空欄だ。


「……三城さん、今。スタッフの出入りが止まりました。行けます」


 雨宮レンが、壁際の影を指した。

 配信用の機材やスタッフが通る裏通路。普段なら人の気配が途切れない場所だ。


「ありがと。……“行ける”って言葉、ここでは怖いな」


「怖いほど当たりです。ここ、編集側の匂いがします」


 肩の上でミニルナが小さく跳ねた。


「三城さん、裏側です! “名前が消える仕組み”に近いです!」


「テンション上げるな。切り抜きの燃料になる」


「……静かに喜びます!」


 静かに喜ぶって何だよ、と思いながら、俺はレンの示す小部屋の前まで進んだ。


     ◇


 小部屋の中は、迷宮に似合わない光だった。

 白い照明、端末の青い画面、配線、三脚、予備バッテリー。

 現場なのに“編集室”の匂いがする。


 そこにいたのは、配信ディレクターのシェリナ。

 寝不足の顔。端末は二台。指は止まっていない。けど目は折れていない。


「……来たね、伊織さん」


 この世界では、現場の人間は俺を伊織と呼ぶ。

 名前が二つあるとややこしいが、今はそれでいい。


「来たくて来たわけじゃない。でも、ここに来ないと詰む」


「分かってる。だから、手伝う」


 次に一歩出たのは神代透真。

 隊長で、画面で目立つ役で、でも今日は“守られる側”じゃない。直しに来た顔だった。


「シェリナさん。表示が変なんだ。いや、“変”じゃない。“おかしい”」


 透真が端末を指さす。

 画面の表示は、俺たちと同じ。


【MVP:トウマ(固定)】

【Support:— — —】


「回復してるのに、名前が出ない。ずっと空欄のまま」


 シェリナが唇を噛んだ。


「本当は計算をやり直せる。でも、現場審査員の権限が必要」


「審査員って誰だ」


 黒原ナツメが低く言う。


「グリフ。あの人が“再計算”ボタンを押す」


 鳴海ツバサが腕を組んだ。ライバルチームAsterionの口が悪い方。


「押させろ。押させないなら、外からでも声で詰める」


「声は燃料にされる」


 俺は釘を刺す。怒鳴った瞬間だけ切り抜かれて終わる。


「だから、怒鳴らない。証拠で詰める」


「証拠?」シェリナが聞く。


「“こはるが回復した”って映像と音声がある。

 それに、外部の証言もある。Asterionが見てた。こはるの名前を言ってた」


 レンが頷く。


「同じタイムコードで残せます。映像、音声、発話者。全部セットで」


 ミニルナのHUDが補足を出す。


【必要:本人の名乗り/複数証言/映像タイムコード】


「難しく言うな」


 俺は小声で言って、要点だけに切り替えた。


「要するに――

“こはるがやった”を、同じ場面で、複数人が言う。

それを映像と音で残す。

そうすれば、グリフも“押さない理由”がなくなる」


 シェリナが短く息を吐いた。


「……分かった。グリフを呼ぶ」


     ◇


 数分後、審査員グリフが入ってきた。

 背広。薄い笑顔。目が数字だけを見ている。


「騒がしいな。配信の進行が乱れている」


 透真が前に出た。


「乱れてるのは進行じゃない。“表示”だ。

 回復した人の名前が消えてる。再計算してくれ」


 グリフは肩をすくめた。


「再計算には条件がある。本人が名乗ることだ」


 こはるの肩がわずかに跳ねた。

 怖いのは名乗ることじゃない。名乗っても消されることだ。


 だから――今日は一人に背負わせない。


 ミナトが小型マイクをONにする。別録り用だ。


「音も残る。映像の時間も残る」


 ナツメが言う。


「俺が言う。何回助かったか、数も言える」


 ツバサも言った。


「俺も言う。ライバルだけど見てた。あれは“こはる”だ」


 こはるが一歩前に出る。

 手にはスープポット。迷宮に不釣り合いなくらい温かい道具。


「……私、春日こはるです」


 胸元カメラに向けて、短く、はっきり名乗った。


「回復スープは、体を戻すためだけじゃありません。

 みんなが“無理しないで戻る判断”をできるようにするために作ってます。

 危ない時は早めに引きます。誰かが倒れたら、そこで終わるから」


 コメント欄が一瞬止まり、次の瞬間に弾けた。


『こはる…!』

『撤退判断大事』

『Supportじゃない、名前出た』

『今の良かった』

『やり直せ!』


 ――その直後、画面が嫌な動きをした。


【字幕:Support】

【名前:—】


 こはるが名乗ったのに、表示が役割名に戻る。

 まるで「名前はいらない」と言われたみたいに。


「……やっぱり、消す気だな」


 俺は歯を噛む。

 でも今日は、ここで折れない。“消された瞬間”そのものが証拠になる。


「グリフさん」


 俺はシェリナの端末を指さした。


「今見たよな。名乗ったのに“Support”になった。

 これが正常なら、説明できるはずだ。

 説明できないなら――再計算して、表示を直してくれ。今ここで」


 透真も続ける。


「視聴者も気づいてる。コメント欄が証拠だ」


 シェリナがコメントのスクショとタイムコードを並べて見せた。

『こはる』が流れている。『やり直せ』が混ざっている。


 グリフの目が細くなる。

 押したくない。けど押さないと、逆に“隠してる側”に見える。


「……分かった。条件は満たした。表示をやり直す」


 グリフの指が端末のボタンに置かれる。


 その瞬間――ポケットの中の黒い栞が、かすかに鳴った。

 折れ筋が入る感触。世界が“畳む準備”をする時の嫌な気配。


【黒い栞:折れ筋(進行)】

【表示やり直し:開始】


 ミニルナが耳元で囁く。


「三城さん……来ました。ここ、決め所です」


「分かってる。最後まで“残す”」


 グリフが押した。


 画面が一瞬暗転し、再計算バーが走る。


【MVP再計算:0% → 12% → 25%……】


 ――そのとき、入口の空気が冷えた。


 監査官ユール=グレイが、にこやかに立っていた。

 優しい顔。冷たい目。


「素晴らしいですね。皆さま、“公平”を大切にしている」


 褒め言葉の形をした刃。


 ユールが端末をなぞる。HUDが跳ねる。


【BAN:78% → 89%】

【理由:安全手順未遵守の疑い】

【処置:配信者資格停止 準備中】


「……止めに来たな」


 再計算はまだ途中。

 ここで資格停止されたら、“途中で終わる”。それが相手の狙いだ。


 透真が、笑顔を捨てて言った。


「ユールさん。止めるなら、理由を言って。

 “今この瞬間に、何が違反なのか”を」


 ユールは微笑んだまま答える。


「もちろん。公平に。――では、宣告を」


 バーが進む。


【MVP再計算:61% → 72%……】


 黒い栞の折れ筋が、少し深くなる。


 こはるがスープポットを抱えたまま、俺を見る。

 怖い。でも折れてない。


 俺は画面を睨んで言った。


「宣告するなら、その前に結果を見ろ。

 やり直しの途中で止めるのは、一番不公平だ」


 ユールの笑顔が、ほんの一瞬だけ薄くなる。


 たぶんここからが、本当の殴り合いだ。

 剣じゃない。拳でもない。


 ――画面の上で、名前を取り返す戦い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ