表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『死んだら輪廻庁ストーリー課でした ~テンプレ転生をボツにして、消されたヒロインを救います~』  作者: 慧翔秋明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/78

第10話 Top8関門――声を奪う仕組み

 迷宮の石壁は、配信画面に映ると妙に“きれい”に見える。

 でも現実は湿って冷たく、ところどころ鉄みたいな血の匂いが混じっている。


 配信は逆だ。

 危険な匂いを消して、見栄えのいい物だけ残す。

 そして都合の悪い部分は――編集で消す。


 視界の端で、ミニルナのHUDが跳ねた。今日は警告色が多い。


【DUNGEON LIVE/Rivue】

【BAN:66%(警告:3/5)】

【閉門まで:11時間40分】

【現在順位:9位】

【Top8関門:発動まで 2時間12分】

【Support表示:不安定(名寄せ処理が戻されている)】


「……9位か」


 順位は上がった。Top8が見える位置だ。

 なのに胃が沈む。上がった瞬間に“狩られ方”が変わるのを知っているから。


「三城さん、9位です! マジで上がっちゃいました!」


「喜ぶのはいい。でも、喜び方に気をつけろ。今の画面は“切り抜ける笑顔”を探してる」


「うぇ……言い方が怖い……!」


 怖いのは迷宮じゃない。迷宮は殴ってくるから分かりやすい。

 配信は、笑った瞬間を“違反っぽく”見せられる。


 壁際で、春日こはるが鍋を抱えたまま座っていた。

 湯気は薄いのに、香草の匂いが空気を少しだけ落ち着かせる。


「……9位。すごいね、伊織さん」


 声は柔らかい。けど語尾が軽い。

 “自分の手柄が画面に残らない”ことを知ってる軽さだ。


 俺はしゃがんで鍋の蓋を少し開けた。湯気がふわっと上がる。

 コメント欄が一瞬だけ食い物の話題で埋まった。


《うまそう》

《スープ神》

《料理できる子いるの強い》

《回復の子、こはる?》

《名前、出るようになった?》


 ――「出るようになった?」

 “たまに出る”だけ。安定しない。そこが地獄だ。


 俺はこはるにだけ聞こえる声で言った。


「すごいのは、こはるだ。撤退判断、3回当てた。あれがなければ全滅してた場面が2回ある」


 こはるは小さく笑って、目を伏せた。


「……でも、画面はそう言ってくれないよ」


「言ってくれない、じゃない。残す側がやる」


 切り抜かれないよう、軽い口調で言う。


「俺らが言う。言わせる。ログに残す。――“最初から当たり前”にする」


 こはるが不安そうに眉を寄せた。


「でも言ったら……叩かれる。透真さんのファン、強いし。私が出しゃばってるって……」


 その瞬間、ミニルナのHUDが震えた。赤い警告が重なる。


【外部クリップ生成:開始(改ざん系)】

【対象:Support名寄せ/支援の功績発話】

【BAN上昇予測:+8%(炎上誘導テンプレ)】


「……来たな」


「伊織さん……?」


「大丈夫。怖い通知が来る=当たりを踏んだってことだ」


「それ現場の理屈すぎません?」


「現場の理屈だ」


 背後で透真が振り返った。汗だくで息が荒い。強いのに焦っている。

 焦りは切り抜きのエサになる。


「伊織! 次いけるぞ。休憩は短くしろ。閉門まで時間がない」


「了解。……透真、少しだけ待て」


「は?」


 俺は立ち上がって、透真の肩を軽く叩いた。


「今、配信が“誰の声を残すか”を選別しに来てる。Top8関門が近い」


 透真の眉が動く。


「……Top8関門?」


 ミニルナが淡々と説明する。


「Top8に入ると露出が跳ねます。スポンサーと運営監査の介入率も上がります。

 それと、『中心の声』が一つに固定されやすくなります」


「中心の声?」


「隊長の発言だけが“公式っぽい正義”として拡散されます。

 他の人の発言は“雑音扱い”されやすい」


 つまりTop8は、数字の壁じゃない。

 “声を奪う壁”だ。


 透真が息を呑む。


「……俺が喋るほど、こはるが消える?」


「今のままだと、そうなる」


 透真が歯を食いしばる。悪い奴じゃない。だからこそ利用される。


 俺はわざと少し笑って言った。


「じゃあ先に“声の形”を作る。隊長の独演じゃなくて、合唱にする」


「合唱?」


「全員が同じ事実を言う。名前もセットで。

 “誰がやったか”を、ログで固める」


 コメント欄が割れ始めた。


《透真しか勝たん》

《いやチームで強い》

《回復の子、こはるって名前なんだ》

《出しゃばりとか言ってるやつ草》

《Top8行ける?》


 流れが割れた。割れるほど操作しづらくなる。


 その時、後方で小さな咳払い。

 すばる――配信の運用・交渉担当。普段は映らない位置にいる男だ。


 昴の端末が震えた。迷宮の揺れじゃない。通知だ。

 昴の顔色が一気に落ちる。


 俺は画角に入らない角度で近づき、端末の画面を覗く。


《提案:Top8保証》

《条件:回復役の交代(Rivue内)》

《責任:当方が肩代わり》

《導線:安全待機所へ(手続き)》


 喉の奥が冷えた。


 Top8保証。回復役の交代。安全待機所で手続き。

 要するに――**「こはるを降ろせ」**という“丁寧な処刑”。


「……来たね」昴が小さく言う。「スポンサー経由っぽい。逃げ道は“安全”だけって書き方だ」


「逃げ道じゃない。誘導だ」


 透真が気づき、顔を強張らせた。


「なにそれ……こはるを替えろって?」


 こはるの手が鍋の取っ手を強く握った。

 怖いんじゃない。**“また始まった”**という顔だ。


「……私、やっぱり私がいない方が――」


「その言葉、禁止」


 俺は即答した。速すぎて自分でも嫌になるほど。


「え……」


「“私がいない方が”はテンプレの台詞だ。

 俺たちはテンプレ通りに消されに来てない」


 こはるの唇が震えた。ずっと一人で飲み込んできた証拠だ。


 俺は折れないように、わざと軽く言う。


「それに、こはるがいないと困る。俺が死ぬ」


「伊織さん、すぐ死ぬって言う……!」


「迷宮だぞ? 死ぬだろ普通に」


「普通に言わないで!」


 透真が、そこでようやく笑った。作り笑いじゃない。

 本物の笑いは編集しづらい。刺客が嫌う。


 俺はその一瞬を逃がさない。


「透真。今言え。配信に残せ」


「……は?」


「“春日こはるがいないと困る”って。

 俺が言うと“裏方の煽り”にされる。隊長の声で残せ」


 透真の喉が鳴る。炎上が怖い。

 でもここで黙ると、檻が完成する。


 昴が短く背中を押した。


「透真。今言わないとTop8で“選ばれた声”が固定される」


 透真は一度だけ目を閉じて、息を吸い、カメラへ向いた。


「……春日こはるがいないと、俺たちはここまで来れてない」


 コメント欄が止まり、次に爆ぜた。


《今、名前言った》

《こはるって言った》

《普通に良い》

《チームとして強い》

《回復の子、こはる!》


 ミニルナのHUDが更新される。


【相互肯定ログ:成立(暫定→固定処理へ)】

【隊長発話での名寄せログ:成立】

【BAN上昇予測:+8% → +2%に低下】


「……よし」


 ミニルナが珍しく小さくガッツポーズした。今は許す。


 ――ただ。


 画面の端に、嫌な通知が出た。準備中、という名の罠。


【Top8関門:準備中】

【選別対象:CENTER VOICE/SUPPORT VOICE】

【条件:安全手続きログ 未達】


 “安全手続きログ”。

 つまり「安全待機所に来い」だ。


 俺は昴の端末を指で伏せた。丁寧な提案を、丁寧に潰す。


「……決まってるだろ」


 透真が俺を見る。「どうする?」


 俺は笑った。いちばんムカつく返事になるから。


「Top8保証? 回復交代? 安全待機所で手続き?

 全部、ボツ」


 こはるの目に、久しぶりに“期待”が戻った。


「代わりに、こっちから条件を出す」


「条件?」と昴。


「声は選ばせない。合唱で固定する。

 Top8関門が声を選ぶなら――先に全員の声で“事実”を固めてやる」


 ミニルナが淡々と言う。


「三城さん。それ、運営が一番嫌がるやつです」


「知ってる。だからやる」


 迷宮の奥で、誰かが鍵を鳴らした気がした。

 でももう怯えない。


 画面が物語を作るなら、俺たちが先に物語を書く。

 声で。名前で。ログで。


 ――Top8関門が選ぶのは、声じゃない。

 選ぶのは、俺たちだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ