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『死んだら輪廻庁ストーリー課でした ~テンプレ転生をボツにして、消されたヒロインを救います~』  作者: 慧翔秋明


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第7話 断罪パーティへのカウントダウン

 断罪パーティまで、あと七日。


【イベントタイマー:

 王立学園卒業記念舞踏会 兼 公開断罪式まで 7/7】


 ワールドコアの端っこで、やけにポップなフォントのカウントダウンが点滅している。


「……お前、その数字、もうちょいマイルドなデザインなかったの?」


「“締切前日モード”の方が緊張感出るかな〜と思いまして!」


 俺の肩の上で、ミニルナが胸を張る。

 アイコンの横には、締切を前にした編集者みたいな顔のスタンプまで並んでいた。


「ここから一週間でやることは、だいたい三つですね〜」


「三つ?」


「はい。

 一つ、レティシアさんと王太子とヒロインさんたちの“関係ログ”を積み増すこと。

 二つ、断罪テンプレ側の“言質と証言”を、じわじわ崩しておくこと。

 三つ――」


 ミニルナは指を一本立てて、にやりと笑った。


「ヴァルトさんたち“テンプレ番犬コンビ”の邪魔を、可能な範囲で全部へし折ること、です!」


「三つ目の難易度だけ一桁違わない?」


 とはいえ、やるしかないのも分かっていた。


 断罪パーティは、この世界のクライマックスとして最初から箱書きに組み込まれている。

 そこまでに積まれたログ次第で、


 ――「悪役令嬢断罪 → 世界畳む」か

 ――「断罪テンプレ崩壊 → 物語続行」か


 分岐が決まる。


(締切の一週間前に、まだ構成変えようとしてる新人作家と同じ気分だな……)


 生前の嫌な記憶が、ちょっとだけ胸をかすめた。


     ◇


 昼休み。学園の中庭。


 石畳と噴水と、やたら映える花壇。

 その中央で、レティシアはいつものように優雅に紅茶を飲んでいた。


 ――いや、「優雅に飲もうとしていた」と言い直したほうが正確か。


「……あの、平民出身だからって、テーブルクロスの端を服で拭くのはどうかと思うのですけれど、マリア様」


「わっ、すみません!」


 慌てて手を引っ込めたマリアが、申し訳なさそうに笑う。

 その横で、侍女のリゼが大人びた笑みを浮かべた。


「お嬢様、気をつけましょうね。

 レティシア様は、こうしてマナーを教えてくださっているのですよ?」


「は、はい……」


 表面的には、テンプレ通りの「悪役令嬢 vs 平民出身ヒロイン」の構図だ。

 ただ、中身はだいぶ違う。


 レティシアの声色は、きついというより面倒見の良いお姉さん寄りだし、

 アリアも本気で怯えているわけではない。


「……で、もう一度。

 この手つきでナイフを持つと、隣の人に当たってしまいますの。

 “誰かを傷つけないための所作”だと思って、覚えてくださいませ」


「はい」


 マリアは真剣な顔で手の位置を直す。


 彼女の横顔は、少なくとも俺の知っている「悪役令嬢断罪ざまぁ系」のヒロイン像とは、かなり違って見えた。


(うん、数字じゃ測れないけど……この二人、普通に仲良くなれる素質あるよな)


 そんな俺の視線に気づいたのか、レティシアがちらりとこちらを見る。


「……何か、妙な顔をなさっていませんか、ミシロ先生?」


「いや、いい光景だなって。

 “悪役令嬢とヒロインが、ちゃんと相手を人間として見てる”っていう」


「大げさですわよ」


 レティシアは肩をすくめた。


「わたくしも、マリア様も――

 この国で生きていく以上、最低限のマナーと護身は必要ですもの。

 どちらか一方だけが“正しい側”“間違っている側”だなんて、

 そんな単純な物語、退屈じゃありません?」


「それは……完全に同意」


 会話を聞いていたマリアが、小さく笑った。


「私も……レティシア様のこと、最初から全部“悪い人”だと思っていたわけではないんです。

 ただ、この学園に来てから、周りが――」


 言いかけたところで、リゼがさっと前に出る。


「マリアお嬢様。

 そろそろ王太子殿下とのご予定のお時間です」


「あっ、はい!」


 マリアが立ち上がる。

 その動作は、さっき教えられたばかりのマナーを、ちゃんと意識したものだった。


「レティシア様、今日もありがとうございました。

 ……その、また教えていただけますか?」


「ええ、もちろんですわ。

 次は“社交界で足を踏まれたときの笑顔の作り方”でもお教えして差し上げます」


「そ、それはぜひ……!」


 そんなやり取りを横目に、俺の肩の上でミニルナが嬉しそうに跳ねる。


【マリア → レティシア 印象ログ:

 “怖い人?” → “厳しいけど教えてくれる人” に更新】


「はい出ました、“敵対一択”から“グレーゾーン”への移行ログ〜!」


「よし、その調子だ」


 こういう小さなログが、後の断罪パーティで効いてくる。


 ……はずなんだが。


     ◇


 その日の夜。

 ストーリー課のモニターに、赤い警告が走った。


【注意:イベントログ書き換え検知】


【対象:

 昼休みティータイムイベント

 “レティシアのマナー指導 & マリアの感謝”】


「ちょっと待て」


 俺は椅子から半分立ち上がる。


「今のティータイム、どこのどういうログが書き換えられる要素あった?」


「見てみましょう〜」


 ミニルナが、ログの差分表示を開く。


【書き換え前:

 マリア → レティシア印象:

 “厳しいけど教えてくれる人”】


【書き換え後:

 “高慢な言い方をする嫌な人”】


「おいコラ」


 さっきまでほんわかしていた胸の中に、冷たいものが落ちた。


「これが、ヒロイン削減テンプレ……じゃなくて、“ヒロインルート削減テンプレ”の修正処理ですかね〜……」


 ミニルナが眉をひそめる。


【上位処理ログ:

 発信元:不明(上位レイヤー)

 処理内容:“悪役令嬢断罪テンプレ”に適合しない感情ログの補正】


「つまり、“悪役令嬢に好意を持つログ”は、テンプレと噛み合わないから勝手に潰してるってわけだ」


「ですね〜。数字的には“断罪の爽快感”が薄れちゃうから、だそうです」


「どこの誰だ、“爽快感”だけで物語評価してるやつ」


 思わず、モニターに向かって悪態をつきそうになる。


 そのとき――画面の隅で、別の通知が点滅した。


【現地プロセスより連絡要請】


【送信者:ロマンス案件調整課 セラ】


     ◇


 ロマンス案件調整課のフロアは、ストーリー課よりもやや明るい色調だった。

 パステルカラーのパネルに、恋愛イベントのグラフやヒートマップが浮かんでいる。


 その中央に、彼女はいた。


「三城さん、いらっしゃいませ〜」


 ふわふわの巻き髪に、丸メガネ。

 パステルラベンダーのスーツを着たセラ・ブランシュが、にこにこと手を振ってくる。


 一見すると、ゆるふわOLそのものだが――

 彼女の机の上には、乙女ゲームと悪役令嬢モノの案件ファイルが山のように積み上がっていた。


「さっきの昼休みログ、見てましたよ〜。

 あれ、すっごく良かったのに、もったいないですね」


「見てたなら、あの書き換えについて何か知ってる?」


「はい。ちょうど、その件で連絡しようと思ってたところです」


 セラはくるりと椅子を回転させ、モニターにグラフを映した。


「ここ一年の“悪役令嬢断罪テンプレ”案件、

 断罪イベントの視聴者リアクションはこんな感じで――」


 グラフのラインは、断罪直前でぐいっと跳ね上がり、そのあと急降下していた。


「断罪シーンそのものの満足度は、まだ高いんです。

 “ざまぁ”ってコメントもたくさん付く。

 でも、そのあと続きまで読んでくれる人は、ここでガクッと減るんですよね〜」


 セラの声色は相変わらずふんわりしているのに、説明内容は容赦ない。


「で、上位レイヤーのAIくんは、こう判断したわけです。

 『それなら最初から断罪だけ綺麗にやって、

  あとはさっさと畳んじゃえば効率いいんじゃね?』って」


「おい、語尾の軽さの割に言ってることはだいぶ重いぞ」


「実際、仕様書にはこう書いてあります」


 セラが別のウィンドウを開く。


【ヒロインルート削減テンプレ:

 目的:ルート過多による冗長化を防ぎ、

    主効用(断罪カタルシス)の効率的回収を目指す】


「“効率的回収”ねえ……」


 胃のあたりが、じわりと重くなる。


「で、レティシアさんの案件は、

 “断罪カタルシス”を最大化するために――」


 セラは申し訳なさそうに眉を下げた。


「“好意ログはなるべく潰す方向で”って、補正がかかってるみたいです」


「つまり、誰かがレティシアをちゃんと好きになろうとするたび、

 上から手が伸びてきて、感情を黒塗りにされる、と」


「はい……」


 セラはそこで、ぴしっと表情を引き締めた。


「でも、数字だけで見ると――

 レティシアさんって、“伸びしろモンスター”なんですよ?」


「伸びしろモンスター?」


「はい。

 普通の悪役令嬢案件だと、ここまで印象値が伸びる前に、

 だいたいゲームシナリオどおりに悪役ムーブを重ねちゃうんですけど」


 ワールドコアから引っ張り出されたグラフの一本だけが、他と違って右肩上がりになっていた。


「この子、自分からちゃんと“生きたい理由”積もうとしてる。

 しかも、周りの人たちも、そのログに反応し始めてる。

 だから、ここで切るのは、統計的に見てももったいないです〜」


 最後だけ、語尾がちょっとだけ強くなった。


「……ロマンス案件調整課の人が言うと説得力あるな」


「えへへ。“二人の関係性が変わるポイント”を見るの、仕事なので」


 セラは照れたように笑ってから、真顔に戻る。


「だから、ここから一週間――

 断罪パーティまでの間に、“テンプレでは拾えないログ”を増やしてください。

 それも、誰か一人じゃなくて、複数のキャラの視点で」


「複数?」


「はい。

 王太子殿下、マリアさん、サブ令嬢さんたち……。

 “レティシア断罪一択”から、ほんの少しでも揺れ始めているログを、

 なるべく多方向から積み上げるんです」


 セラは指をぱちんと鳴らした。


「そうすれば――

 断罪テンプレ側が“全員の感情を一斉に塗りつぶす”コストが跳ね上がる。

 上位AIくんも、コスパの悪い処理はそうそう連発できませんから」


「……ヘタなバトルよりよっぽど知能戦してるな、君」


「恋愛は知能戦ですから」


 さらっと言ってのけるな。


 でも、やるべきことははっきりした。


「分かった。

 “断罪一択”じゃなくて、“保留したい人たち”の数を増やす」


「はい。その間、私とルナちゃんでログのタグ付け、全力でやります〜」


 セラの笑顔に押されるように、俺はストーリー課フロアへと戻った。


     ◇


 それからの数日は、怒涛だった。


 ――王太子リオネルとの、秘密の作戦会議。


「お前の言葉は、時々“台本の外側”から聞こえてくる。

 ……だが、理はある」


 彼の中で、レティシアに対する評価が少しずつ書き換わっていく。


 ――マリアとの、ぎこちないけれど確かな歩み寄り。


「私、あなたの全部を好きになれる自信は、まだないです。

 でも、“全部嫌い”って言い切ることも、できません」


 その一言が、断罪のテーブルに乗る証言ログを微妙に揺らす。


 ――サブ令嬢たちの、小さな告白。


「殿下の周りで一番空気読んでるの、レティシア様だと思いますけどね、正直」


「……それ、本人の前で言ってあげなさいよ」


 そんな会話一つひとつが、

 ワールドコアの中で細い光の線になって積み上がっていく。


【レティシア関連ポジティブログ:増加中】

【“断罪一択”構造:局所的に揺らぎ】


「いいですね〜いいですね〜! 数字がどんどん偏っていきますよ!」


 ミニルナが、グラフのバーにぴこぴこと矢印を飛ばす。


 だが、そのたびに――


【上位補正処理:一部ログのトーン修正】


 ヴァルトとリゼの影が、じわじわと入り込んでくる。


 褒め言葉の語尾が少しだけ棘を帯びたり、

 感謝の場面が「借りを作った不快感」に書き換えられたり。


「向こうも、必死ですね〜……」


「こっちも必死だ」


 削除候補リストの表示は、依然として変わらない。


【ヒロイン削減テンプレ/削除候補一覧】

 ・レティシア・フォン・アルマ ← フラグ継続


 印象値グラフは右肩上がりなのに、その名前の横だけ、いつまでも赤いマーカーが灯ったままだった。


(……まだ足りない、ってことか)


 断罪パーティまで、残り三日。


 カウントダウンの数字が「3」に変わった瞬間、

 ワールドコアのどこかで、かすかに何かがきしむ音がしたような気がした。


 それが、断罪テンプレのヒビなのか。

 それとも、この世界そのものの悲鳴なのか。


 ――どちらにせよ、あと三日。

 勝負は、そこで決まる。









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