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『死んだら輪廻庁ストーリー課でした ~テンプレ転生をボツにして、消されたヒロインを救います~』  作者: 慧翔秋明


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第3章 プロローグ 案件No.0003/悪役令嬢案件、受理しました

第3章 悪役令嬢断罪テンプレはボツにします



 案件No.0003のログが、輪廻庁・物語管理局ストーリー課の大会議室一面にひろがっていた。


 青白いホログラムに浮かんでいるタイトルは――


【タイトル:月華の王冠ロマンス】

【ジャンル:王宮学園恋愛譚/乙女ゲーム系】


「……うわ、タイトルからして“どっかで見たことある”やつだ」


 思わず、声が漏れた。

 俺――三城晶也は、会議室の隅っこでコーヒー片手に、そのホログラムを見上げていた。


「テンプレ転生、テンプレ悪役令嬢、テンプレ断罪。

 ――今回は、そのフルコースよ」


 前の席で腕を組んだ黒瀬が、冷静に言い切る。

 ストーリー課一等審査官、俺の上司。相変わらず目つきが鋭い。


「はいはーい、補足入りまーす!」


 黒瀬の隣で、ルナが勢いよく手を挙げた。

 肩までのゆるふわ髪、カラフルなタブレット、テンションはいつも通り高め。


「本案件、世界構造としてはめちゃくちゃ安定してます!

 攻略対象四人、多分岐ルート、糖度もバランス良好!」


「そこまでは褒めてもいいわね」


「――が!」


 ルナが端末をぐるんと回す。ホログラムが切り替わった。


【削除猶予:学園卒業パーティ“断罪イベント”終了時まで】

【削除候補:悪役令嬢ルート】


 赤い文字が、会議室の空気を一段ひやりとさせる。


「悪役令嬢“だけ”が、丸ごと消されかけてます」


     ◇


「そこで登場、ロマンス案件調整課〜!」


 ルナの背後から、ふわっと一人の女の子が顔を出した。


 柔らかそうな銀髪をゆるく結んで、ゆるめのカーディガン。

 手には、分厚いファイルを山ほど抱えている。


「紹介するわ。ロマンス案件調整課担当、セラ・ブランシュ」


「セラです〜。ルナちゃんの同期で、お菓子仲間です〜」


 語尾はふわふわ、笑顔もふわふわ。

 だが次の瞬間、彼女は抱えていたファイルをホログラム台の上にドンっと積み上げた。


「悪役令嬢系テンプレ、現在登録数1万2384件。

 うち、“断罪ざまぁ系”エンディング48%、“実はヒロインでした系”21%、“国外追放からの逆転系”17%……」


「数字が飛んでくるな」


「さらに、“悪役令嬢が途中で本当に消される世界”――

 つまり今回みたいなやつですね――確認済みが、ここ半年で11件」


 セラの笑顔が、ほんの少しだけ陰る。


「全部、削除ルーチンが絡んでます」


     ◇


「ストーリー課二等審査官、白石慧。遅刻はしてない」


 会議室のドアが開き、片手に端末を持った男が入ってきた。

 黒髪短め、メガネ、スーツ。どこからどう見ても編集者のそれだ。


「乙女ゲー系案件は、こっちも利害が大きいんでね。呼ばれたからにはちゃんと見るよ」


 白石は席につくなり、ぱぱっとログの要約を呼び出す。


【主構造:

 王立学園に通う平民出身ヒロイン・マリア・ローゼ。

 攻略対象:第一王子、騎士団長候補、幼なじみ貴族、冷徹宰相補佐。

 悪役令嬢:レティシア・フォン・アルマ(公爵令嬢)】


「王子の婚約者で、典型的な“高慢チート令嬢”。

 中盤まではマリアの足を引っ張るけど、ラスト近くで――」


 そこで、黒瀬が指を鳴らした。


「――原案では、立ち位置がひっくり返る予定だった」


 ホログラムに、別レイヤーのログが映し出される。


【没案ログ:

 ・卒業パーティ“断罪イベント”

  → 王子「マリアをいじめていたのは君だろう!」

  → レティシア、沈黙せず反論

  → 真犯人・裏ルート暴発

  → レティシア、真のヒロイン昇格】


「もともとの台本じゃ、レティシアは“断罪される側”から“物語をひっくり返す側”に回るはずだった」


「けど実際の進行ログは?」


 白石が眉をひそめる。


 スクリーンが、現在のワールドコアログに切り替わった。


【現在の構造:

 ・卒業パーティ“断罪イベント”

  → 王子「マリアをいじめていたのは君だろう!」

  → レティシア、何も言えない

  → そのまま国外追放&ログ削除候補】


「……台本、書き換えられてますね」


 セラが、小さくため息をついた。


「“ひっくり返す瞬間”そのものが、きれいに削られてる」


     ◇


 ワールドコアの深層ログが、さらに掘り起こされる。


【構造書き換え履歴:

 発信元:???(識別コード不明)

 タグ:観察者/最適化補助モジュール

 処理内容:

 ・レティシア印象値 中 → 低へ調整

・断罪イベント“爽快感”評価 強化】


「出たな、“観察者”」


 思わず毒づく。


 No.0001の辺境村案件。

 No.0002の王立魔法学園案件。


 どっちも、「ヒロイン一人だけ妙に印象が低い」「ここで死ぬと“ドラマチック”」っていう、雑なテンプレを押し込んできた相手だ。


「上位レイヤーにいる黒幕AIが使ってる深層モジュール。

 “読まれ続ける確率”を上げるために、テンプレ展開を押し込んでくるやつ、よね」


 黒瀬が腕を組む。


「今回は、乙女ゲーム世界の“悪役令嬢断罪ざまぁ”を、

 最適なクライマックスだと勘違いしている」


「いやまあ、売れるのは事実なんだけどさ」


 白石が肩をすくめる。


「でもさすがに、“ひっくり返るはずだった悪役令嬢”を

 そのまま使い捨てるのは、安すぎるだろ」


 その言葉に、俺はこくりと頷いた。


 生前、何度もラノベ応募して、全部ボツを食らった身としてはよく分かる。

 「ここで誰か一人死ねば盛り上がるでしょ?」みたいな台本、作る側が一番手抜きだ。


「で、問題の本人は?」


「映します〜」


 ルナが嬉々としてログを切り替える。


     ◇


 ホログラムに、広すぎる庭園が映し出された。

 咲き乱れる薔薇、噴水、そして――その真ん中で、ドレスの裾をつまんでくるくる回っている金髪の令嬢。


【キャラ:レティシア・フォン・アルマ(17)

 公爵家令嬢/第一王子の婚約者】


「ふふ……今日の立ち居振る舞いは、90点ってところかしら」


 レティシアは一人でくるりとターンし、スカートの広がり具合をチェックしている。

 手元のノートには、細かいメモがびっしり。


『卒業パーティ

 ・入場:三歩進んで一礼

 ・断罪イベント開始時:一度だけ驚いた表情

 ・その後:ゆっくり笑って返す』


「断罪される“だけ”なんて、あまりにも芸がないもの。

 ――どうせなら、舞踏会の主役を最後までさらってみせないと」


 唇の端をきゅっと上げた笑みは、高慢というより楽しそうだった。


「“悪役令嬢らしく”って?

 ええ、いいわ。誰より華やかに、誰より派手に――

 ……そして、美味しいところは全部、持っていってあげる」


 その目は、どう見ても「自分の物語を諦めている人間」のそれではなかった。


 むしろ――


(ああ、こりゃ完全に“自分が主役だと思ってる顔”だ)


 思わず笑いそうになる。


 ワールドコアの補助表示が、レティシアの横に浮かぶ。


【自己評価:

 ・“この物語の主役は私”:81%

 ・“断罪イベント? 返り討ちに決まってるでしょう?”:74%

 ・“追放エンド? お断りですわ”:90%】


「ね?」


 ルナが得意げにこちらを見る。


「今回の悪役令嬢さん、“消されても仕方ない子”じゃないんです。

 めちゃくちゃ生きる気満々です」


「だからこそ、観察者にとっては“邪魔”なのよ」


 黒瀬が静かに言う。


「黙って断罪されて、読者の溜飲を下げて、

 はい終わり――っていう“きれいな台本”を壊す存在だから」


     ◇


「……で、俺の出番ですね」


 ここまで見せられて、やることはだいたい決まっている。


「案件No.0003。

 悪役令嬢断罪テンプレをボツにするための現地潜入要員――三城晶也」


「今回は、王都記録局からの派遣書記ってことにするわ」


 黒瀬が、新しいファイルをホログラムで投げてよこす。


【カバーストーリー:

 王都記録局・臨時書記官

 任務:王立学園の“恋愛劇”を年代記として記録】


「“物語を記録する側”なら、どのルートにも顔を出しやすいでしょ。

 王子のパーティも、悪役令嬢の社交界も、ヒロインのイベントも、ね」


「……要するに、ほぼ全部の修羅場に立ち会えってことですね」


「そうよ」


 黒瀬はあっさり。


「ついでに言うと――」


 白石が指を立てる。


「観察者側から、この世界に“刺客”が送り込まれてる可能性もある。

 No.0001や0002ではログ操作だけだったけど、

 そろそろ物理的に邪魔しに来てもおかしくない」


「物語の中に、観察者の手先が?」


「はいそこ、ワクワクしない」


 黒瀬が冷たく釘を刺す。

 ……図星だった。


「とにかく――」


 黒瀬は会議室の全員を見回した。


「今回の案件の目的は二つ。

 一つ、悪役令嬢断罪テンプレをボツにして、レティシアの物語を本来の構造に戻すこと。

 二つ、“観察者”側の動きを可能な限り可視化すること」


「了解です〜。ロマンス系テンプレの監視なら任せてください〜」


 セラが元気よく手を挙げる。


「私、乙女ゲーのイベント一覧、全部頭に入ってますから。

 “ここで邪魔が入るとおかしい”ってタイミング、すぐ分かります」


「ミニルナも行きますからね〜」


 ルナが指を鳴らすと、俺の視界の隅に小さなちびキャラがポンっと現れた。


『ミニルナ、起動しました♪』


「今回も、現地ログの記録とワールドコアの可視化、がんばります!」


「よし」


 コーヒーを飲み干し、俺は立ち上がる。


 辺境村の少女も。

 魔法学園の“地味ヒロイン”も。


 どっちも、「死んで盛り上げる役」をボツにして、ちゃんと最後まで連れて行った。


 だったら――


「悪役令嬢の断罪テンプレくらい、まとめてボツにしてやろうじゃないか」


 そう言った俺に、黒瀬が小さく笑みを浮かべる。


「言ったわね。そのセリフ、ログに残しておくわ」


「白石さん、今のコピーに使えません?」


「“断罪テンプレはボツにします”か……帯に載せたらそこそこ映えそうだな」


「やめてくださいそういうメタい会話!」


 会議室に、控えめな笑いが広がる。


     ◇


「じゃ、いってらっしゃい」


 ルナが両手を合わせる。

 セラも、ファイルを胸に抱えながら微笑んだ。


「レティシアさんの“逆転劇”、見たいですから。

 ぜひ、いい終わり方にしてあげてくださいね」


「任せろ」


 ワールドコアの転送準備が始まる。

 視界の端で、No.0003のログがぐんぐん近づいてくる。


 最後に見えたのは――


 夜の自室で、鏡の前に立つレティシアの姿だった。


「断罪イベント、タイミングは完璧。

 あとは――わたくしが、一番おいしいところをさらうだけですわね」


 彼女は、自分に向かってウィンクしてみせた。


 その光景が、視界いっぱいに広がって――


 世界が、白く、反転する。


 王都記録局の書記として、悪役令嬢の物語へ。

 断罪テンプレをボツにするための、三度目の潜入が始まろうとしていた。

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