表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『死んだら輪廻庁ストーリー課でした ~テンプレ転生をボツにして、消されたヒロインを救います~』  作者: 慧翔秋明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/76

第7話 フィールド実習と、エイル中心パーティ

 ホームルーム開始五分前の教室は、いつもよりざわついていた。


「なあなあ、マジで外出られるのか?」

「ダンジョンだってよ、ダンジョン!」

「装備ってどこまで持ってっていいんだ?」


 机の上には、魔法具のカタログ、小型ポーションの瓶、予備ローブ。

 遠足前の小学生と大差ない空気だが、行き先は学園近郊の“訓練用ダンジョン”である。


「先生、見てくださいよこれ!」


 リオが、自分の腰のポーチをぽんぽん叩いてきた。


「非常食とポーションと、あと“なんか役に立ちそうなロープ”!」


「最後だけ雑だな」


「ロープ万能説ってあるじゃないっすか!」


 そこへ、ジンが椅子の背にもたれたまま、ひらひらと手を振る。


「はいはい先生。ロープより先に頭の使い方覚えたほうがいいですよ、こいつ」


「うるせー。お前こそ“口数減らす魔法”覚えてこいよ」


 いつものやりとりに、教室のあちこちから笑いが漏れる。


 そんな中で――エイルは、自分の机の中を何度も確認していた。


「魔力測定メモ……ポーション……予備のペン……」


 緊張しているのか、指先がわずかに震えている。


 肩の上で、ミニルナがちょこんと首をかしげた。


「エイルさん、持ち物チェック七回目ですね〜」


「そっとしといてやれ」


 俺は小声でツッコミつつ、教壇の横に備え付けられた端末をタップした。


【ワールドコア案件No.0002:小規模フィールド実習イベント】

【難度:低〜中/死亡フラグ:本来は無し】


(本来は、な)


 そこへ、ガラリと扉が開いた。


「全員席につけー!」


 グレンが、いつもより一段大きな声で入ってくる。


「今日の連絡は一個だ。《第2訓練フィールド》でのフィールド実習。訓練用ダンジョンの初級層を踏破してもらう」


 教室の熱気が、一段階あがる。


「おおー!」「ついにダンジョン!」「モンスター!?」


「落ち着け。出てくるのは訓練用の魔物だ。とはいえ――」


 グレンは教壇を軽く叩いた。


「訓練用とはいえ、舐めてかかると怪我するぞ」


 さっきまで浮かれていた生徒たちも、その言い方には少しだけ背筋を伸ばす。


「骨折ったら、そのまま実習中止だ。覚悟しとけ」


 そこに、ほどよい笑いと緊張が混ざった。


「パーティ編成を発表する。今回は二組だ」


 教室の空気が、ぴたりと止まる。


(さて、来たな)


 俺は、そっとミニルナに視線を送る。


「はいはい、編成ログ出しますね〜」


【推奨編成:

 パーティ1:ユウト/エイル/リオ/ジン/ヒロインB+三城

 パーティ2:カイ/ヒナ/セラ/他男子+グレン】


 ――ワールドコア側の“原作案”も、ほぼ同じ構成だ。


「まずパーティ1」


 グレンが名簿を見ながら読み上げる。


「ユウト・アステル、エイル・ヴァレンシュタイン、リオ・ハート、ジン・クレイ、それから――メルティア・ブランシュ」


 メルティア。回復系お姉さん枠、ヒロインBだ。

 癒し系微笑み担当である。


「この五人に、臨時講師のミシロ先生が同行する」


「え、先生も?」


 リオが嬉しそうに振り向く。

 ユウトとエイルも、ちょっとホッとした顔をしていた。


「パーティ2は、カイ・シグルド、ヒナ・アークライト、セラ・フロイ、あと……」


 もう一人の男子の名前が読み上げられていく。

 こちらはグレンがつく、火力過多パーティだ。


「質問は?」


「先生、この組み分けの意図は?」


 ジンがすかさず手を上げる。


「戦力バランスか、それとも先生の好みか」


「後者じゃないほうにしとけ」


 グレンが机を軽く叩いた。


「シンプルに言うと――

 パーティ1は“連携と支援の確認メンバー”、

 パーティ2は“火力チェックメンバー”だ」


「おおう、分かりやすい」


「ユウト、エイル、リオ、ジン、メルティア。お前らは“それぞれどこを支えるか”考えながら動け」


 グレンの視線が、ちらりと俺のほうに向く。


「ミシロ先生も、頼みますよ。“安全管理官”」


「……名前のとおり、みんな無事で返しますよ」


 俺が肩をすくめると、教室にほんの少し笑いが走った。


     ◇


 準備時間になり、教室はちょっとした市場と化した。


「ポーション余ってるやつー?」

「誰か予備のマナストーン持ってない?」

「おやつは持ち込み可?」


「最後の質問だけ却下だ」


 そんな喧噪の中、俺はパーティ1の五人を教室の隅に集めた。


「じゃ、とりあえず顔合わせ――というか、方針確認な」


 ユウト、リオ、ジン、エイル、メルティアが半円になる。


 メルティアは柔らかい薄紫の髪を後ろで束ね、胸元には回復の紋章が輝いていた。

 誰かと目が合うたびに、ふんわり笑うタイプだ。


「メルティアです。みんなの治癒、がんばりますね〜」


「頼りにしてる!」


 リオが即座に親指を立てる。


「いやー、これで多少の無茶も怖くないっすね先生!」


「だからってわざと怪我しに行くなよ?」


 ジンがニヤニヤしながら、エイルを横目で見る。


「で、“無属性さん”はどう動く感じ?」


「え、えっと……わたし、あんまり戦えないから……」


 エイルが小さくなりかけたところで、ユウトが割って入った。


「さっきの模擬戦のコンボ、覚えてるだろ?」


「……はい」


「先生が言ってたじゃん。“みんなの魔力の道筋をそろえる”って」


 ユウトは、拳を軽く握ってみせる。


「俺の火花、エイルが合わせてくれたから、あそこまで伸びたんだし」


「そ、それは……ユウトくんががんばったからで……」


 エイルは視線を泳がせた。


 メルティアが、くすっと笑う。


「エイルちゃん、“できること”ちゃんとあると思うけどな〜。

 模擬戦の時、ユウトくんの魔法、最後ちょっとだけ色変わってたでしょ?」


「え?」


「見てた人、けっこういたよ?」


 リオが「あー、なんか光り方違ったな!」と手を打つ。


「おれ、ああいう“地味だけど変なとこ”好きだわ」


「地味言うな」


 ジンが笑いながらも、頷いた。


「正直、最初は“無属性とか詰んでんじゃね”って思ってたけどさ」


「おいジン」


「いやいや、今は違うって。あれだ、“器用貧乏だと思ってたらハブ役だったタイプ”?」


「フォローになってませんよジンくん」


 俺がツッコむと、パーティの輪にもう一度笑いが生まれた。


 ――この空気のまま、フィールドに出したい。


 ミニルナが、俺の視界の端で小さくウィンドウを開く。


【現時点でのログ傾向:

 ・エイルへの嘲笑ログ:減少中

 ・“ちょっと面白いかも”評価ログ:増加】


(よし)


 俺は、改めてエイルに向き直った。


「エイル」


「は、はい」


「さっきも言ったけど――君はみんなの魔力の“道筋”になれる」


「……みんなの、道筋」


「特別派手な魔法じゃなくていい。

 ユウトの火花が伸びやすいタイミングで空気を整えるとか、

 リオが動きやすいように足元だけ軽くしてやるとか。

 メルティアの回復が届きやすい位置に、全員を誘導するとか」


 俺は、指で空中に簡易マップを描いた。


「矢印を引くのは君だ。そうすれば――

 “誰かが一人で無茶して倒れる”パターンから、自然と外れていく」


「……」


 エイルは、ホログラムの矢印をじっと見つめていた。


 しばらくして、小さく息を吸う。


「できるかどうか、分からないですけど……」


 それでも、と続けた。


「やってみます。――“みんなで”帰ってくるの」


 ユウトが満足そうに笑い、リオとジンも頷く。

 メルティアは「うんうん」と、お姉さんモードで見守っていた。


     ◇


 準備が整い、出発の時間が近づく。


 校門前の広場には、二つのパーティが集合していた。

 グレンがパーティ2をまとめ、俺はパーティ1の出欠を確認する。


「全員いるな?」


「はい!」


 ユウトが一番大きな声で返事をする。

 その後ろで、エイルも小さく、でもはっきりと「はい」と言った。


 そこへ、カイがひょいと近づいてきた。


「先生、うちのパーティのほうもちゃんと見ててくださいね〜」


「それはグレン先生の仕事だろ」


「いやいや、“原作プレイヤー的見どころ”としては、先生にもぜひ」


 カイがニヤリと笑う。


「このフィールド実習、本来は“防衛実習”の前座みたいなもんですけど……

 地味に、フラグの仕込み所なんで」


「どっち方向のフラグかは、後でレポート出してもらおうか」


 俺がそう返すと、カイは肩をすくめて自分のパーティに戻っていった。


 ミニルナが、俺の耳元でそっと囁く。


「三城さん、観察ログ、またちょっと動いてます」


「エイル中心か?」


「はい。でも、さっきの模擬戦より“視線の揺れ”が大きいです」


 ウィンドウには、エイルを起点にパーティ1全体へと伸びる矢印が表示されていた。


 誰か一人を切り取って眺めるんじゃなくて、

 四人+一人の“まとまり”として見られ始めている。


(……それなら、まだ救いがある)


 俺は、パーティ1の顔ぶれをぐるりと見渡した。


「よし。目標はシンプルだ」


 全員の視線が集まる。


「初級層踏破。全員生還。――それから」


 少しだけ、言葉を選ぶ。


「“このメンバーでまた組みたい”って、誰か一人でも思えたら合格だ」


 リオが「おーっ」と声を上げ、ジンが「なんか青春だな」と笑う。


 ユウトは真剣な顔で頷き、メルティアは「いいですね、それ」と微笑んだ。

 エイルは――ほんの少しだけ、頬を赤くしながら。


「……思えるように、がんばります」


 そう、静かに言った。


 ワールドコアの深層で、薄く光っていた「代償テンプレ」のフラグが――

 ほんのわずかだが、色を変えた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ