表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『死んだら輪廻庁ストーリー課でした ~テンプレ転生をボツにして、消されたヒロインを救います~』  作者: 慧翔秋明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/75

第6話 初コンボ勝利、“いてもいい子”の第一歩

 第2訓練場の空気が、ぱきんと音を立てて張り詰めた気がした。


 炎の槍がエイルに迫る。

 ユウトの掌で、ちいさな火花が弾ける。


 視界の端で、赤い輪がぎらぎらと輝いて――そして、その縁に、かすかなひびが入る。


(今だ)


 俺は息を詰めた。


「ユウトくん――!」


 エイルの叫びに、ユウトが振り向く。


「右前、二歩! わたしに――合わせて!」


 普段なら飲み込んでいたはずの言葉が、喉から飛び出した。


 ユウトは迷わなかった。

 言われたとおり、炎の槍に向かって二歩踏み込む。その掌に、火花がもう一度弾ける。


「――《スパーク・ライン》!」


 初めて聞く詠唱だった。


 ちいさな火花が、一本の線になって走る。

 それ自体は、炎の槍を正面から打ち消せるほど強くはない。けれど――。


「エイル!」


「はいっ!」


 エイルの足元から、淡い光の筋が立ち上がった。


 彼女の指先から、ユウトの掌へ。

 ユウトから、レオナルドの炎へ。


 ぎこちないながらも、その光は「道筋」を描くように繋がっていく。


「なっ――」


 レオナルドの表情が歪んだ。


 炎の槍が、ほんのわずか、軌道をずらす。

 ユウトの火花と、エイルの光の道筋が、炎の中に“ねじれ”を作った。


「レオナルド!?」


 オズワルドが慌てて風の刃で軌道修正を試みるが、すでに遅い。


 炎の槍は、ふらつくように揺れ――。


「うおおおおおおおっ!」


 ユウトが、火花をまとった拳で横から叩きつけた。


 火花と炎がぶつかり合い、爆ぜる。

 訓練場の中央で、眩しい光と煙が舞い上がった。


     ◇


「な、何が起きた……?」


 観客席のざわめきが、一気に高まる。


 煙の向こう側で、二つの影がよろめきながら立っていた。

 ユウトとエイルだ。


 レオナルドとオズワルドは、尻もちをついている。

 二人の足元には、焦げた土と、ひび割れた魔法陣の跡。


「お、おのれ……! 今のは偶然――」


「偶然じゃ、ないです!」


 レオナルドが言いかけたところで、エイルが遮った。


 息を切らしながら、それでもまっすぐ彼を見返す。


「ユウトくんの火花の、届くところまで。

 わたしが、“道”を伸ばしました」


 その言葉に、ユウトも照れくさそうに笑う。


「俺一人じゃ、ただのパチパチだけどさ。

 エイルが繋いでくれたから、あそこまで届いたんだ」


「そんな……無属性ごときに、そんな芸当が……」


「無属性なんかじゃ、ないです」


 エイルが、小さく首を振った。


「みんなの魔力を、ちょっとだけ“通しやすくする”くらいなら……

 わたしでも、できます」


 ミニルナが、俺の肩の上でぴょこんと跳ねた。


「出ましたね、七色サポート予備動作!」


「まだ“七色”には程遠いけどな」


 俺は苦笑しながらも、視界の別レイヤーに目をやる。


【新規ログ生成:

 イベント名:《初期コンボ:スパーク・ライン》

 評価:盛り上がり値 中〜高

 代償:なし】


【構造候補更新:

 代償テンプレ依存クライマックス案:優先度↓

 “連携勝利”クライマックス案:優先度↑】


 赤い輪の色が、じわじわと薄まっていく。


(……よし)


 予定されていた「身代わり退場」の上に、別の“解決手段”が載った。


     ◇


「そこまで!」


 グレンの声が、訓練場全体に響く。


「第2試合――ユウト・アステル、エイル・ヴァレンシュタイン組の勝ち!」


 一拍の静寂のあと、観客席から大きな歓声が巻き起こった。


「マジかよ!」「今の見たか!?」「火花が槍を弾いたぞ!」


 リオが、観客席の端っこで立ち上がりそうになっている。


「やっべえ、あいつら勝ちやがった!」

「ほら見ろよジン、“最弱ペア”とか言ってたのお前だろ!」


「お、おい、言ってねーとは言わないけどさ! 今のは反省するわ!?」


 ジンが頭を抱えながら叫び、周りの生徒たちがどっと笑った。


 グレンが、フィールド中央に歩み寄る。


「レオナルド・バイン、オズワルド・ケイン。

 お前たちの連携も悪くはなかったが――」


 淡々とした口調で続ける。


「“いちばん倒しやすい相手”に照準を合わせ続けた時点で、浅い。

 結果的に、お前たちは自分で自分の勝ち筋を狭めていた」


「……くっ」


 レオナルドが悔しそうに唇を噛む。


「ユウト・アステル、エイル・ヴァレンシュタイン」


「は、はい!」


 二人がびしっと背筋を伸ばす。


「及第点だ。

 特に――」


 グレンの視線が、エイルに向いた。


「逃げずに前を見たのは、評価する」


「……っ」


 エイルの肩が、わずかに震えた。


 緊張と、安堵と、嬉しさと。

 いろいろ混ざった感情が、その小さな体に入りきらずに揺れているのが分かる。


     ◇


 模擬戦が一区切りつき、次の組の準備が始まる頃。


「エイル!」


 観客席の手すりに掴まって、リオが大声で呼んだ。


「ナイスだったぞ! あれなかったら、マジであいつらに持ってかれてた!」


「ユウトも、やっぱやるときゃやるな〜!」


 ジンも手を振りながら叫ぶ。


「エイルの合図、わかりやすかったわ。

 今度、俺にもああいうの頼むわ!」


「え、えっと……」


 エイルは戸惑いながらも、ぎこちなく微笑み返した。


「わ、わたしなんかでよければ……」


「“なんか”は禁止!」


 すかさずユウトがツッコむ。


「今のは、エイルじゃないと無理だっただろ。

 俺一人じゃ、絶対タイミング合わせられなかったし」


「……うん」


 エイルの頬が、ほんのりと赤くなる。


 その横顔に、観客席の何人かが小さく「あれ、意外とかわ――」と口ごもったのを、俺は見逃さなかった。


(ログ、更新っと)


 ミニルナが、小さな端末をぽちぽち操作するジェスチャーをする。


【印象ログ更新:

 クラス内評価:エイル

 “影が薄い無属性”→“案外やる”“一緒に組むと楽”】


【世界構造メモ:

 エイル=“いてもいなくても同じ”ではなく、

 “いないと困る”側へ少しシフト】


「ふふっ。これで、“いなくてもいい子”タグ、ちょっと剥がれましたね〜」


「まだ端っこに糊残ってるけどな」


 俺は苦笑しつつ、フィールドのほうを見やった。


 レオナルドとオズワルドは、まだ悔しそうな顔をしている。

 だが、少なくとも「エイルを公開処刑するつもりだった」という企みは、見事に失敗した。


(観察者のほうは……)


 視界の別レイヤーに、小さなウィンドウが開く。


【観察者ログ:

 再生回数:模擬戦 第2試合 クライマックス】

【視点選択:エイル/ユウト/全体俯瞰】


 さっきまで「エイルが倒れる瞬間」を待っていた気配が、

 今は「二人で立っている結末」を何度もなぞっている。


 そこに滲んでいるのが、応援に近いものなのか、悪趣味な期待なのか、単なる暇つぶしかは分からない。

 あるいは、もっと別の、まだ名前をつけたくない種類の“興味”かもしれない。


(ラベル貼るのは、もう少し後でいいか)


 でも、どんな名前をつけられようが――。


(“死に役の見せ場”として眺められるのは、ごめんだ)


 少なくとも今日、この模擬戦のログに、

「誰か一人が倒れて盛り上がる」って筋書きは残させなかった。


     ◇


「――以上で、本日の模擬戦は終了だ!」


 グレンの締めの声に、訓練場が拍手で包まれる。


「明日からは、フィールド実習に入る。

 今日の連携を忘れずに、各自準備をしておけ!」


 ざわめきの中、生徒たちがぞろぞろと観客席から立ち上がる。


 その流れの中で、エイルはそっと立ち止まり、フィールドを振り返った。


 さっきまで、自分が倒れるはずだった場所。

 予定されていた「終わり方」が、少しだけ書き換えられた場所。


 彼女の表情は、まだ不安定だ。

 けれど、その目には――ほんの少しだけ、自分に向けた光が宿り始めていた。


「エイル」


 俺は階段の途中で声をかけた。


「ナイスコンボだったな」


「え……」


「“二人で届く勝ち方”、ちゃんと選んだだろ」


 彼女はきょとんと目を瞬かせ、それから、照れくさそうに笑った。


「……わたし、そんなたいしたこと、してないです」


「そう思うなら、次はもっとたいしたことしてみようか」


「えっ」


「どうせ俺たちの仕事、そういうのを増やすことだから」


 俺が肩をすくめると、ミニルナが「そうですよ〜」と元気に相槌を打った。


「エイルさんが“いてくれたほうがいい”って場面、いっぱいログにして残しましょう!」


「い、いっぱい……」


 エイルは、胸の前でそっと拳を握った。


「……がんばってみます」


 その小さな決意のひとかけらが、

 またひとつ、ワールドコアのどこかで光の粒になっていく。


 代償テンプレの赤い輪は、さっきよりもさらに薄くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ