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『死んだら輪廻庁ストーリー課でした ~テンプレ転生をボツにして、消されたヒロインを救います~』  作者: 慧翔秋明


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第4話 模擬戦チーム分け、最弱ペア始動

 問題児クラスの午前授業がひと区切りついたころ、

 実技担当のグレンが教室の前にどかっと立った。


「――よし。お前らの“今”を測るには、数字だけじゃ足りねえ」


 ぶっきらぼうな声が、教室の空気をきゅっと締める。


「というわけで、午後は二対二の模擬戦だ。

 場所は第2訓練場。観客は同学年の他クラスもぞろぞろ来る。

 恥をかきたくなきゃ、今のうちに覚悟を決めとけ」


「マジかよ」「いきなりだな」「観客ありは聞いてない!」


 教室中から、ざわめきと半分悲鳴みたいな声が上がる。


 肩の上のミニルナが、ちょこんと顔を出した。


「三城さん、“模擬戦イベント”来ましたよ。

 ログ上では【クラス内力関係の可視化イベント】だそうです」


(名前がそのまんまなんだよな、ワールドコア)


 まあ、分かりやすくて助かるけど。


「今回の模擬戦は、二人一組。

 人数の関係で、一組だけ三人チームになる」


 グレンが、壁の出席番号パネルを指で弾いた。

 ホログラムに、ずらっとクラス名簿が並ぶ。


「チーム分けは――教師側で決めた。

 “相性”と“今後の伸びしろ”を考慮してな」


 生徒たちの顔が、ざわっと険しくなる。


「はい出た、教師の気まぐれ」「どうせ俺と誰かの足引っ張り合いだろ」と、好き勝手言う声も飛んでいる。


 グレンはそれを軽く一瞥してから、ホログラムを指で区切った。


「まず――カイ・シグルド、ヒナ・アークライト」


「お?」


 黒髪をかき上げたカイが、すっと立ち上がる。

 前列のほうでは、例の火属性お嬢様ヒロイン――ヒナが、鼻で笑った。


「ふん。ゲーム脳のくせに、足は引っ張らないでよね」


「いやいや、お嬢。俺、ゲームだとサポート寄りですよ?」


「それはそれで不安なんだけど」


 テンポのいいやりとりに、クラスからくすくす笑いが漏れる。


(火力お嬢+原作チート。派手さは文句なしだな)


 たぶん観客の目線も、まずここに集まるだろう。


「次。リオ・ハート、ジン・クレイ」


「よっしゃ来た!」


 リオが椅子を蹴る勢いで立ち上がり、ジンの肩に腕を回す。


「おいジン、今日こそ俺のかっこいいところをだな」


「自分で言うなよ。まあ、オレの華麗なフォローに感謝しろよな」


 この二人は完全に“盛り上げ要員”だ。

 陽キャ前衛とチャラ男、観客受けもよさそうだ。


「ヒロインB――リナ・グレイスは、今日は補助枠だ。

 治癒担当として、勝敗と無関係に全試合待機」


「了解しました」


 ふわっと微笑んで返事するリナ。

 保健室の先生・イリアと並んで、サポートに回るらしい。


「天才寝坊助C――ミナト・クロイワ。お前は、カイたちの次の試合に混ぜる。相手チームの調整用だ」


「……はーい。ほどほどに頑張りまーす」


 机に突っ伏したまま、片手だけひらひら振るミナト。

 やる気のなさと能力値がまるで釣り合っていないタイプだ。


「で――」


 グレンの視線が、教室の真ん中あたりで止まった。


「ユウト・アステル、エイル・ヴァレンシュタイン。

 お前らはペアだ」


「え」


 ユウトの声と、エイルの小さな息が、ぴったり重なった。


 教室の隅で、誰かがこっそり肩をすくめる。


「“花火君”と“無属性嬢ちゃん”のペアか……」


「実質、クラス内最弱コンビかなー」


「おいこら聞こえてるぞ!」


 ユウトが振り返るも、茶化した男子はとぼけて視線を逸らした。


 ミニルナが、俺の耳元で小さく囁く。


「ログ上のラベル、今のところ“クラス内最弱ペア扱い”ですね……」


(だろうなあ。でも“最弱ペアで逆転”って、王道としては美味しい立ち位置だ)


 問題は、“逆転のさせ方”だ。


「教師の采配に文句があるか?」


 グレンがユウトを見た。


「い、いえ! 全力を尽くします!」


「……ヴァレンシュタインは?」


 今度はエイルの番だ。


「わ、わたしも……足を引っ張らないように、が、がんばります」


 小さな声ではあったが、ちゃんとグレンの耳には届いたらしい。


「足を引っ張らない、じゃねえ」


 グレンは鼻を鳴らした。


「“勝つ気で組め”。最弱ペアでもだ。

 ――以上だ。昼食を済ませたら、各自訓練場に集合。

 作戦会議は好きにしろ。ただし――」


 そこで、ちらりと俺のほうを見る。


「理論屋の先生がいるんだ。

 どうせなら、一回くらいはまともに頭使ってこい」


 軽くニヤリと笑って、グレンは教室を出て行った。


(……今の、俺に振ったよな)


「ですね〜。

 “ちゃんとフォローしろよ”ってログ出てます」


 ミニルナが、ホログラムの片隅に浮かぶ小さなメッセージを指差した。


【担当臨時講師への期待値:中 → 高】


「勝手に上げないでほしいな、そういうの」



 昼休み。


 俺はユウトとエイル、それから自然と集まってきたリオとジンもまとめて、教室の隅のテーブルに座らせた。


「じゃ、軽く作戦会議しようか」


「さ、作戦会議……!」


 ユウトが、なぜかちょっと嬉しそうに身を乗り出す。


「先生、オレたちそんな大したことできないっすよ?

 コンボ技とか無茶振りしないでくださいね」


 ジンが両手を振る。


「最初から高度なことは求めないよ。

 ただ、“やっちゃダメな負け方”だけは避けたい」


「やっちゃダメな負け方……?」


 エイルが、不安そうに首をかしげる。


「一人で突っ込んで、勝手に倒れて、残された仲間が困るやつだ」


 それは、プロローグで何度も見てきたパターンだ。

 そして今回、代償テンプレが大好物にしている構図でもある。


「“一緒に負ける”ほうが、まだマシですか?」


 ユウトが、おそるおそる聞いてくる。


「うん。全員でやって全員で負けたなら、“どう変えればいいか”を次に考えられる。

 誰か一人だけが派手に倒れて、残りが盛り上がるための燃料にされるのが、一番嫌だ」


「……燃料」


 エイルの肩が、びくりと小さく揺れた。


 彼女の視線が、机の上の自分の手に落ちる。


「わ、わたし……よく、そういう役回りでした」


 ぽつり、と漏れた言葉。


「小さいころから、魔法、あんまり上手じゃなくて。

 周りの人のほうが得意で、わたしはよく失敗して……

 だから、“わたしが失敗するくらいなら、最初から誰かの身代わりになったほうがいい”って」


(やっぱり、そこから来てるか)


 ワールドコアのログ解析で見た「身代わり」「庇う」の偏りと、ぴったり一致する。


「エイル」


 ユウトが、真剣な顔で口を開いた。


「この前のダンジョン実習さ――

 エイルが“ここでリオくんに魔力多め”“今は先生のほう優先”って言ってくれて、俺たち、めちゃくちゃ戦いやすかったんだ」


「そ、そうかな……?」


「うん。あれ、“身代わり”じゃなくて、“調整役”だった」


 リオも、口を挟む。


「お前、みんなの動きよく見てるだろ。

 “こいつ、そろそろ疲れてるな”とか、“今はあいつの番だな”とか。

 ああいうの、オレたち自分では気づかねーんだよ」


「……」


 エイルは、少しだけ目を丸くした。


 ミニルナが、俺の肩の上でこそっと囁く。


「今の、“いてもいなくてもいい子”から“いたほうが戦いやすい子”へのログ、立ちました」


(よし。じゃあ、もう一歩踏み込もう)


「ユウト。エイル」


 俺は、二人の顔を順番に見た。


「今回の模擬戦で目指してほしいのは、“誰か一人が決める勝ち方”じゃない。

 “二人でしか届かない勝ち方”だ」


「二人でしか、届かない……」


「ユウトは、火花程度の魔力でも、リズムをつかむのがうまい。

 エイルは、みんなの流れを読むのがうまい」


 さっきまでの基礎測定ログと、実習の戦闘ログを頭の中で組み合わせる。


「火花でもいい。エイルが見て、“今だ”って思ったタイミングで撃つ。

 それが二人のコンボになれば――派手な魔法一発分くらいの価値にはなる」


「こ、コンボ……!」


 ユウトの目がきらっと光った。


「ねえ先生、それって――」


 ジンが、いたずらっぽく笑う。


「“モブ二人でも、噛み合えば意外とやれる”って話っすか?」


「そう。

 ――まあ、“モブ”とは言ってないけどな?」


「言ったじゃないですか、今!」


 テーブルの空気が、少しだけ軽くなる。


「ちょっと、やってみようか」


 俺は机の上に、小さなホログラムフィールドを出した。


 簡易魔法陣と、二つの光点。

 一つはユウト用、もう一つはエイル用だ。


「ユウトは、この光点を“自分の火花”だと思って。

 エイルは、“どのタイミングで重ねると一番効くか”を、指でなぞってみて」


「な、なぞる……?」


「うん。ゲームの“スキル回し”みたいなもんだ。

 ――カイなら、説明いらないと思うけど」


「呼ばれました?」


 いつの間にか背後に来ていたカイが、顔を出した。


「攻略勢としての意見を言うとですね先生、

 “最弱ペアがコンボで勝つ”展開、普通に熱いですよ」


「……なんか嫌な予感しかしないな、その前振り」


「で、原作だとどうだったんです?」


 俺が問うと、カイは少しだけ真面目な顔になった。


「原作のこの模擬戦、ユウト+エイルペアは――

 エイルが庇って倒れて、ユウトが一人で覚醒する、って形で締めてましたね」


 ユウトとエイルの手が、ぴたりと止まる。


「……倒れる?」


 エイルが、小さく問い返す。


「ゲームだから、死なないですよ? あくまで“退場”って扱いで。

 でも、そこが初の“ヒロイン退場イベント”で――」


「その話は、今はいらない」


 俺は、はっきりと言葉を切った。


「えー」


「“原作では誰かが倒れて盛り上がった”って情報は、

 “今ここで二人で勝ちたい”って子たちには邪魔にしかならない」


「……なるほど。

 そういう観点もあるか」


 カイは、肩をすくめて一歩引いた。


「じゃ、俺は俺で、お嬢と派手にやってきますよ。

 先生、“原作との違い”見逃さないでくださいね?」


「そのつもりだよ」


 カイが離れていくのを見送り、俺は再びホログラムに意識を戻した。


「エイル。

 さっきの話、聞かなかったことにしていい」


「……でも」


「“庇って倒れるほうが盛り上がる”って話は、

 ここでは、一回全部ボツにする」


 ボツ、という単語に、エイルの肩がまた小さく震えた。


「ボツって、そんなに悪いことですか?」


「ん?」


「わたし、よく“ダメ”って言われてきたから……

 “ボツ”って、すごく、こわい言葉で」


 その表情に、少しだけ昔の自分の顔が重なった気がした。


「ボツには、二種類ある」


 俺は指を一本立てる。


「“つまらないから捨てられるボツ”と――

 “もっとよくするために一度壊すボツ”」


「……?」


「さっきの“庇って倒れるほうが盛り上がる”って話は、

 この世界の君にとっては、“つまらないほうのボツ”だと思う」


 エイルの目が、ほんの少しだけ見開かれる。


「だから一回、きれいサッパリ捨ててみよう。

 そのうえで、“一緒に立って、一緒に勝って、ちゃんと笑って終わる”ってほうを、ここで試してみないか」


「一緒に……勝つ」


「うん。

 今日の模擬戦は、君の“いてもいい”を、“いないと困る”に変えるチャンスだ」


 ユウトが、ぎゅっと拳を握る。


「エイル。俺さ――」


 彼は一度、言葉を飲み込んでから、続けた。


「“誰か一人がすごいから勝ちました”って物語より、

 “みんなで頑張ったら勝てました”って話のほうが、好きだ」


「ユウトくん……」


「だから、一緒に勝とう。

 俺一人じゃ火花しか出せないし。エイルが見てくれないと、多分当たらないし」


「え、えっと、それ、あんまり自信ありげじゃないけど……」


 エイルが、困ったように笑った。


 それでも――さっきまでよりは、ずっといい顔だった。


 ミニルナが、俺の肩の上で小さくガッツポーズをする。


「“一緒に勝ちたい”って宣言ログ入りました。

 代償テンプレ、ちょっとだけ押し返されてますよ」


(よし。この調子で、まずは模擬戦を“二人で勝つ練習試合”にしてやるか)


「じゃ、続き。

 ユウトは、この光点をリズムよく動かしてみて。

 エイルは、“ここぞ”ってタイミングで重ねるイメージを――」


 俺たちは昼休みぎりぎりまで、簡易ホログラムの上で、コンボのタイミングを何度もシミュレーションした。


 その様子を、教室の一番後ろから、

 カイがじっと観察していることにも――

 このとき、まだ誰も気づいていなかった。

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