幕間② 裏 女帝が後ろから
※まえがき
前回の月河視点です。
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私は何にも依存しないし執着もしない。
だが何かを気にいることはある。
そう、つまり私にとってハナミくんはお気に入りの従者でしかなく、ときおり可愛がってやる程度の関係でしかないのだ。
この前は危うく言い負かされるところだったが、問題ない。
この私が恋愛感情を持つなどありえない。
誰かに精神を揺さぶられ、屈服するなど、ありえないのだ。
私は何にも依存しない。
私に宿るのは加虐心だけ。
女帝として生まれ落ちた選ばれ者だから。
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「逆に私の仕込みだったら、どうする?」
「ちょっと怒る」
「ちょっとなんだ」
程度の低い男たちから逃げるため、私はハナミくんがこぐ自転車の後ろに跨っていた。
腕を腹に回し、ガッチリホールドする。
仕事終わりのハナミくんの匂いが、私の鼻を刺激する。
すぅーーっ。
「はぁぁ♡♡」
汗の匂い。
ハナミくんの汗の匂い♡♡
血中に染み込む……。
単に仕事をしただけの汗じゃない。
密着しているからわかる。ハナミくんは今、発情している。
緊張の汗も含まれているのだ。
愛らしい。このまま腹を撫で回してやりたい。
撫で回してしまおう。
腹から胸へと手を伸ばす。
爪先で、ハナミくんの胸をくすぐる。
「ちょっ、月河……」
ふふ♡♡ 感じているね。
興奮しているね。
「嬉しいだろうハナミくん。これからも私の足と手でいっぱいイジメてあげよう」
「ばーか」
私のことを嫌いになろうと努力しているようだが、不可能だよ。
君は永遠に私の虜。脳髄まで私に侵食されているのさ。
可愛い、可愛いよハナミくん。
私でしか発情できない体にしてあげたい。
「ふふ」
なぜハナミくんがお気に入りなのか、言語化することに意味を見出せない。
最初は猫が嫌いでも、長く時間を共有していると何よりも大切になってしまうようなもの。
代わりはいない。この子でなくてはダメになる。
「さっきの話だが、安心したまえ、仕込みじゃないよ。いくら私でも、君が怖がるようなことはしない」
ぴとっと、ハナミくんの背中に耳をくっつける。
大きな背中。ここからでも、激しい心臓の鼓動が聞こえてくる。
癒やされる……。
ハナミくんを抱きしめていると日々のストレスが溶けていく。
依存ではない。大丈夫。ただ愛でているだけ。
私は私のままだ。
「あのさ、月河」
「なんだい?」
「やっぱ少しだけ、遠回りしてもいい?」
「何故?」
「……なんとなく」
ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!
なんとなく? そんな曖昧な理由ではないだろうハナミくん。
実に、実に捻くれ者だね君は。
きっと君は私のこと、「こいつ家だと俺にデレるよな」とか思っているんだろうがね、逆さ。
逆逆逆ううぅぅ!!
ハナミくんの方なんだよ、普段つんけんしている捻くれ者のくせに、プライベートだとデレデレになるのは!!
くぅぅぅぅ!! なんだこの生き物は!! この私をキュンキュンさせるために生まれてきたのか!!
「いいよ、行こう、遠くまで」
「言っとくけど、別にお前ともっと一緒にいたいわけじゃねえからな。なんとなく帰りたくないだけだからな」
「ふふ、そうかいそうかい」
食べたい♡♡
ハナミくんを食べたいよ♡♡
めちゃくちゃにしたうえでハナミくんの人生を終わらせたい♡♡
私は何にも依存しない。
執着も屈服もしない。
恋愛感情など、抱かない。
だからハナミくんはしょせんお気に入りの従者。
ペット枠。
そう、だから私は、彼の恋人になるつもりはない。
けど、身がボロボロになるまで猛烈に可愛がってやるつもりだ。
明日も明後日も、100年後もね。
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※あとがき
てなわけで、逆でした。
まぁどっちも捻くれているんですけど。
どっちも早く素直になってほしいものです。