幕間① 女帝の頭のなか
※まえがき
月河視点です。
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彼が私のお気に入りになったのは去年の暮れ。
クリスマスに告白された後だ。
年末年始であろうと帰省をしない私は、島風家で年を越すことにした。
彼は明らかに私を意識していた。
フラれた相手とまた食卓を囲んでいる事実に、落ち着かない様子でソワソワしていた。
私としては、好意向けられることには慣れているので(というか常に大多数から好意を寄せられている)気にしていなかったが。
事が起きたのは、年越しの瞬間。
なんとなく、本当になんとなくだった。
島風家のお母様に煽られ、新妻のように彼にみかんを『あーん』してあげたのだ。
まさかフったやつからそんなことをされると想っていなかったのだろう。
混乱と羞恥で真っ赤になった彼を見て、ただの男子45号くらいの価値しかなかったハナミくんが、私の加虐心を刺激したのだ。
「ふ、ふざけんなよな、その気もないくせに……」
「その気?」
「あ、いや、だから……うぅぅ」
自分でも驚くほどの興奮が押し寄せた。
キュートアグレッションというやつさ。
その日から私は、ハナミくんをめちゃくちゃにしたくてたまらなくなったのだ。
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「なんだよ、思ったよりこぼしてないじゃん」
今、私の家のキッチンにハナミくんがいる。
両膝をつき、せっせと床に散らばった小麦粉を掃除している。
私は冷蔵庫に寄りかかりながら、懸命に働く彼を見下ろしていた。
「まったく、お前でもドジすることあるんだな」
「たまにはね」
「月河に乗せられたのは癪だが、お前の失敗の尻拭いをするなんて貴重な体験、そうそうできそうにないから許してやるよ。いつか誰かに自慢してやる」
「ふふ、そうだね。私が自分の失敗を晒せる相手なんて、君だけだろうね」
「ほーん」
ハナミくんめ、笑顔を噛み殺しているな。
嬉しいのを隠しているのだ。私に『君だけ』と言われて、ニヤニヤしちゃっているのだ。
あぁ〜、満たされる。
ハナミくんに幸福を与えつつも心と体を弄ぶの、やめられない。
「そんなこと言われても、今さら嬉しくないけどな」
「ふふ、嘘はよくないよ」
「お前のこと好きだったのは過去の話で、もうお前のことなんかぜんぜん好きじゃないんだからな!!」
「ふひっ」
かわいい。
可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いッッ!!!!
んふふふふ♡♡♡♡
ハナミくんの腰を見る。
いやらしい体つきをしているじゃないか。本物の犬のように撫で回してやりたい。彼も喜ぶだろう。
淫らに尻まで振って、そんなに私に食べられたいのか? うん?
どうしようもなくスケベな男の子だよ君は。
「ふぅ、だいたいこんなもんか」
「ありがとう。せっかくだ、私のベッドで寝てみるかい?」
「そんなことするわけないだろ。俺のことフッたくせに」
「ふふふ」
照れているな。
頬をつねってやりたい。
「まったく性格の悪いやつだぜ月河は。あとからやっぱり付き合ってとか言っても、もう遅いんだからな」
「ふふ、わかったよ」
嬉しいくせに。
一緒に寝たいくせに。
私への気持ちを必死に押し殺そうとしているけれど、無駄さ。
とんだ捻くれ者だよハナミくんは。
あぁ〜、頭を撫でてやりたい。
ハナミくんの人生と体をぐちゃぐちゃにしたい!!
私は恋などしない。
あんなものは弱者がするものだ。
他人への依存であるし、精神の屈服でもある。
女帝たる私には不釣り合いな概念だと断言する。
もちろんハナミくんに恋愛感情はないし恋人になるつもりもない。
が、『好き』なのは間違いないだろう。
好きにしてやりたい、の好きだがね。
「んじゃ、俺はもう寝るからな」
「あぁ、おやすみ。……ハナミくん」
「なんだよ」
「未だに私のことが大好きなの、バレバレだよ」
「は、はぁ!? そりゃ多少は意識しているけどな、俺だって日本男児だ。いつもまでも俺に気のない女に振り回されるような情けない男でいるもんか。ふんっ、この捻くれナルシストめ、さっさと寝ろ!!」
「ふふ、はいはい♡♡」
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※あとがき
定期的に幕間を挟みます。
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