第14話 女帝とデート
これ以上なく緊張している。
ユキハに告ったときよりも心臓がバクバクしている。
デートに誘った翌週の金曜。
ついに明日、俺はユキハとデートをする。
この一週間、ユキハは落ち着いていた。
意識しているのは俺だけ。ユキハと目も合わせられなかった。
そして、当日。
玄関前で待ち合わせる。
「おはーーえっ」
制服姿だった。
あれ? 今日は休日だよね? まさかユキハが補習を受けるわけもないし。
「やぁ、おはようハナミくん」
「なんで制服?」
「服を選ぶのが面倒でね。どのみち、私は何を着ても美しいのだから問題はないだろう?」
「……そっすね」
一応、デートプランは立ててある。
駅前で遊んで喫茶店寄って終了。
すまん、さすがに完璧すぎる。
今日で決着をつけてやりたい。
俺とユキハの今後。捻くれちまっている俺の恋心に。
「駅前にぃ、ビリヤードとかダーツができるとこあんのよ。そこ行こうぜ」
「ダーツか。苦手な遊びだね」
「お前にも苦手なものとかあるんだ」
「どんなに手を抜いても真ん中に刺さってしまうんだ。まるで引き寄せられるようにね。だからどうも楽しめない」
「なんだそのしょうもないアメコミヒーローみたいな能力」
「ちなみにビリヤードをやるとどうショットしても球が私の方へ集まってくる」
「無機物にまで好かれてるんだね」
そのうち隕石とか引き寄せそう。
てなわけで徒歩で駅前に向かう。
道中、老若男女問わず、通りすぎる人々のすべてがユキハに目を奪われていた。
女性を比較したくはないが、モモちゃん先生よりも人の注意を引いている。
みんな立ち止まって、狭間ついて、拝んで、泣いてる。
「神……」
「主よ、ついに我が御前に……」
「ジーザス」
「そうかこれが……宇宙の真理」
「南無阿弥陀……」
「救いの時が来たのですね……」
なんか仏教混じってなかった?
仕舞いには車の運転手も車から降りて祈り始める始末。
歩くだけで交通網を麻痺させる女、月河ユキハ。
「もはや生きるテロだな」
「ふふ、テロ? 違うよ、これが本来の世界のあるべき姿なのさ。誰であろうと、この私を無視することは許されない。この世に存在するありとあらゆる生命体は、私を崇めるために生まれてきたのさ」
「こりゃ本格的に宗教化して金儲けするか……」
世界長者番付RTAのはじまりだ。
とりあえずビル・ゲイツの総資産の100倍くらい稼ごう。
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その後、俺は予定通りビリヤードにダーツと、ちょっと大人な遊びを楽しんだ。
ちなみにユキハの戯言は嘘でした。
というか逆でした。
投げた矢は跳弾しまくってユキハの手元に帰ってくるし、ショットした球はあらゆる角度からでもすべて穴に入ってました。
物理法則すら捻じ曲げられるらしい。
もしかしてこいつ、マジで人外?
そして昼過ぎ、駅前のオシャレな喫茶店に移動。
俺もユキハもオレンジジュースを注文し、席についた。
さて、こっからが本番。
軽快なトークでユキハを笑わせてやりたい。
のだが、どうもユキハさん、心ここに在らず。
ぼーっと明後日の方を眺めてます。
「今週のワンピ読んだ?」
「ハナミくん、確かにワンピースは面白い。しかし悪いけど今はナルトにハマっているんだ。するならナルトの話がしたい」
あのユキハが自発的に他の漫画を……。
しかもナルトって。
あんまり知らないんだよなー。ワンピの同期だけど、もう随分前に完結してるし。
「えっと……誰が好きなの?」
「うちはイタチだね。私に似ている」
こいつ自認うちはイタチなのかよ。
「話は変わるけどハナミくん。君はアルジャーノンは知っているかい?」
「アルジャーノンに花束をってやつ? あーっと、賢いネズミが死ぬやつだっけ?」
「ふふ、普通そこを抜粋しないよ。……あれはね、かなり深い人生観を描いているわけだが、まぁ私が言いたいのはね、世の中には知らない方が良かったこともあるということさ」
「…………」
「気づいてしまったんだよハナミくん。依存とは指針の崩壊。自我の歪曲。つまり私は、自分を失いたくない。私が私じゃなくなったら、私が好きな私はどうなる? 私のことが好きなみんなは……」
「ユキハはユキハだ」
「価値観なんてものは簡単に変わるものさ。ハナミくん、申し訳ない。もはや引き返せないほどに君を狂わせてしまって」
謝るなよ、女帝が。
ていうか、なにこの空気。
話を遮りたい。話題を無理やり変えたい。
なのに、女帝様の言葉の圧が、それを許さない。
「私たちは、仲良くすべきじゃなかった」
「そんな寂しいこと言うなよ」
「私はこれ以上、君を好きになりたくないんだよ」




