第12話 女帝の知らない休日
なんだかんだユキハとの距離が縮まった木曜日。
なーんか忘れている気がするが、思い出せないので就寝し、そして朝を迎えた。
ユキハは今日も休むらしい。
ワンピースを読みたいからではない。無理して数日徹夜をした反動が来たからだ。
丸一日寝ていたいとのこと。
して、学校で普通に授業を受ける。
してして、放課後。
「島風」
モモちゃん先生に呼び止められた。
なんだろう。補習はないはずだけど。
照れくさそうに、こそこそと要件を伝えてくる。
「明日、頼むぞ」
「明日?」
「一回試しにデートをするって話しだよ〜」
あー、したかも、そんな会話。
マジっすか? 俺が先生と、休日に?
「頼む頼む頼むよー。好きになってくれとまでは言わないが、試しに、ホントにお試しだから」
そんなに年下男子と関係を持ちたいか。
俺も26歳独身になったら、女子高生と付き合いたくてしょうがなくなるのかな。
「そこまでいうなら……暇ですし」
「やたーっ!! さすが島風、優しい男だナー」
まぁいいか、大人の人がどんな場所に連れて行ってくれるのか、気になるし。
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驚いた。
翌土曜日、スカイツリーの前に現れたのは、白のゴスロリ衣装を身にまとった、モモちゃん先生だっだ。
「ど、どうだ島風。早すぎるウェディングドレス……なんちゃって」
「あ、その、似合ってます。マジで」
先生が小さいから、こういう服が本当に似合う。
高価なドールのようだ。
「でへへ♡♡」
通り過ぎる人たちも先生をチラ見している。
「さー!! デートするぞ島風!!」
先生に連れられて、水族館に入る。
大人のデートは水族館らしい。
綺麗な魚にペンギン、対して好きじゃないけれど、久しぶりに本物を目にするとテンションが上がる。
「おほ〜、ペンギン可愛いナ〜。島風」
「なんすか」
「ペンギンとワタシ、どっちが可愛い?」
「すぅ〜〜。ペンギンですねぇ」
「おいおい、照れてるのが丸わかりだゾ〜」
「あ、あはは。……ところでモモちゃん先生、水族館好きなんですか?」
「好きというか、定番だろ? デートの」
「まぁ」
先生の視線が再度ペンギンに向けられた。
こうしていると、まるで珍妙な動物に心惹かれるお姫様だ。
「ワタシな、実ははじめてなんだ」
「なにがっすか?」
「男の人と遊ぶの」
ペンギンたちから離れ、適当な椅子に座る。
俺もつられて隣に座った。
「ワタシな、昔から恋愛や男を見下してきたんだ。恋愛なんてただ発情し合ってるだけ。男はワタシみたいなやつ相手にしないし、するとしてもロリコンだけだ。みたいな」
「捻くれてますね」
「でも20代も後半になって、理性じゃなくて、本能が焦り始めたんだ。ワタシ、ロクに恋愛経験がないって。このまま孤独に一生を過ごすこと、昔はへっちゃらだったけど、今は……ちょっと怖い」
先生の肩が、普段より小さく見える。
俺にはモモちゃん先生の気持ちはわからない。
まだ高校生だから。理解したとしても、きっとそれは「わかった気になっている」だけなのだろう。
「そんなとき、お前と気が合うことを知ってな、浮かれちゃったわけだ」
「…………」
「はは、なんか気持ち悪いよな。26の女に言い寄られるなんて。知ってるんだぞ島風、お前は、月河が好きだってこと」
強がるように先生が笑う。
なんだか、構ってあげたくなるな。
抱きしめて、優しい言葉を投げかけてやりたくなる。
父性ってやつなのだろうか。
「島風、自分の本心に背を向けて、捻くれたままだと、ワタシみたいになるぞ」
「俺は割と素直ですよ」
「いままで、こんなワタシでも二回くらいは告白されたことあるんだがナ〜。どうしてあのとき……」
俯く。
悔いて、過去に浸る。
俺と先生の間にある10年という時間の差。
俺がこれから歩む未来を、この人はいま、振り返っている。
「モモちゃん先生」
「なんだ?」
「ここから先は手を繋いで名前で呼び合いましょうよ」
「えぇ!? で、でもそれはさすがに月河に怒られるんじゃないか?」
「先生の後悔をはらす、今日はそういう日ですから」




