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第11話 女帝と海賊

 また夜に抜け出して、ユキハの家に入る。

 案の定、鍵は開いていた。


 家の中は明かりが灯されていて、ユキハは女帝様々といった具合にソファで足を組んでふんぞり返っていた。


「よう、大丈夫なのか? 何日も休んでいたけどさ」


「別に病気していたわけじゃない。ただ単にサボっていただけさ。それより、久しぶりだね。なにか映画でもみるかい?」


「え、この時間から? 別にいいけど……」


 そのために呼んだのか?

 現在22時。一本見終わっても0時前くらいだろう。


「何を見ようか。Netflixに登録しているからね、なんでも観れるよ」


 テレビのリモコンを操作し、ネトフリを開く。

 あれ、いつの間にネトフリに登録していたんだ? YouTubeすら興味ないこいつが。


「アニメ映画にしようか。……ハナミくん、ワンピースは好きかい?」


「え、めっちゃ好き!! でもユキハが知らんでしょ、ワンピース。鬼滅や呪術すら読んでないのに」


「…………いや? 私は前々からワンピースのファンだよ? 知らなかったのかい?」


「でも漫画は興味ないって」


「ワンピースは別さ。なんだったら生まれたときから週刊連載を追っていた。あれはそう、初めて読んだのはアラバスタ編だった」


 いやアラバスタ編が連載していたとき俺ら生まれてないから。


「んじゃあ全部知ってるの?」


「原作もアニメも映画も、なんだったらトリコやドラゴンボールとコラボしたやつも知っているよ」


「あ、あのトリココラボ回!? エースが死んだ直後くらいに放送したやつ!?」


「エースか。私のお気に入りのキャラクターだね。彼が死ぬシーンはアニメでもリアタイ視聴していたよ」


 そんとき俺ら赤ちゃんだったはずなんだが。

 なーんか怪しいな、こいつ。


「ユキハさ、ワンピースクイズしていい?」


「ほう、君如きが私を試すのか。いいだろう」


「ロビンのバロックワークス内での呼び名は?」


「ミス・オールサンデー」


「マトマトの実の能力者は?」


「バンダー・デッケン」


「マワマワの実を食べたのは?」


「ふふ、ひっかけ問題だね。そんなもの存在しないよ」


 すごい、全問正解だ。

 にわかじゃわからないはずの問いにも、ちゃんと答えてる。

 きちんと読んでる証拠だ。


「ふふふ、さあワンピースの映画をみよう」


 しかしどうも不自然だなぁ。

 知識はあるのに絶妙ににわか臭がするのはなぜだろう。


 まさか。


「もしかしてユキハ、休みの間にワンピース一気読みした?」


「……………は?」


 仮にそうだとして、なんで前々から知ってましたけど? みたいな態度を取るんだ?

 普通に『ワンピース読んでみたらハマった』でいいのに。


「何を言っているのか理解に苦しむね。そんなわけないだろう」


「ふーん。単行本持ってたっけ?」


「もちろんさ」


 ユキハが寝室まで案内してくれる。

 ベッドの横にある本棚には、ワンピースが全巻おさまっていた。


 うーん、前入った時はなかった気がするけど。


「実家から送ってもらったのさ」


 とりあえず一巻を手に取る。


「あれ?」


「どうしたのかな?」


「この一巻、今年に重版されてるじゃん」


「…………」


「え、つまり最近買ったやつじゃん」


「…………」


 あれ。あれれ。

 ユキハさん、耳が赤いですけど。


「最近買ってたからなんだというのかな? あぁ、そうさ、休みの間に全部読んで全部みたのさ」


「漫画とアニメを!? 千話以上あるのに!?」


「君を試したんだよ、私が古参ファンかどうか見抜けるかどうかをね」


「いやなんでそのためにわざわざ、興味ない漫画を……」


「もういい、不愉快だ帰ってくれ」


 どういう心境の変化なんだ?

 過去、俺は何度かワンピースを勧めている。

 なのにどうして今さら……。


 そういえば、俺とモモちゃん先生がワンピースの話で盛り上がっていた時、こいつ教室に入ってきてたよな……。


 いや、まさか、まさかな。


「もしかしてユキハ、俺と同じ話で盛り上がりたかった、とか?」


「そっ……そんなわけないだろう。調子に乗らないでもらえるかなハナミくん。君程度の男と共通の話題で盛り上がりたいがために、この私が、労力を払うとでも? ふざけないでほしいね。私は誰にも合わせない。君が私に合わせるのさ」


 ムキになってる。

 こういうとき、図星を突かれて焦っている証拠だ。

 マジか。あの女帝様が、俺のために?

 信じられん……。


「なにニヤニヤしているんだ。実に不愉快だよ」


「ご、ごめん。いや、まぁ、なんつーか、嬉しいよ。お前とワンピースの話できるの」


 ユキハが寝室のベッドに座る。

 視線を合わせず、喋り出す。


「この際だから一つ忠告しといてあげよう」


「おう」


「私は別に君を好きになったわけじゃない。ただ……」


「うん」


「君が私を差し置いて他の女なんぞに鼻の下を伸ばすなんて、許されないのさ。どうでもいい男ならまだしも、私に最も近い君が私じゃない女に発情するなど、私への侮辱だからね」


「……うん」


 なんだ、今日のユキハ。

 すっげーかわいい。

 刺激的に弄んでくるのとは違う、いじらしさがある。


 モモちゃん先生に嫉妬して、俺に気に入られようとして……。

 待て待て、なにもそこまで乙女であるとも限らない。


 単にプライドが刺激されて、なんとなくワンピースを接種しただけなのかもしれない。


「ちなみに私が最も好きなワンピースの章は、デービーバックファイト編だよ」


「さすがにそれは捻くれすぎだろ……」


 やべ、尾田先生に失礼か。

 フォクシー海賊団最高っす!!


「はぁ……」


 ユキハがベッドに寝転んだ。


 もし、俺もベッドで横になったら、ユキハは拒むだろうか。

 受け入れてくれるのだろうか。


「あぁ、すまない、ハナミくん。やっぱり映画はナシだ」


「へ?」


「少し……眠い」


「まさかお前、何日も寝ないでアニメや漫画を見たのか?」


「うるさい」


 なるほど、だから印刷日のことや連載時期の間違いに気づけなかったのか。

 普段のユキハなら、あんな失敗はしない。ユキハはバカじゃない。

 近くにいる俺が一番よく理解しているんだ。


「ちょっと、寝る」


 こんな状態のユキハに、変な気は起こせないな。


 ベッドに座り、ユキハの手を握る。

 握り返してくれた。


「嬉しいよ、マジで。今度語り合おうぜ」


「そうしよう」


「眠っちまう前に、お前の努力に免じて、俺も少し、素直になる」


「?」


「俺はお前を嫌いになるつもりだけど…………今はまだ、やっぱりユキハが好きだ」


「…………」


 それから数分して、ユキハが完全に眠ったのを確認すると、俺は部屋の明かりを消して自宅に戻った。


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