第10話 女帝と新たな捻くれ者
珍しく月河が学校を休んだ。
みんなガクガク震えている。
会えなくて寂しいらしい。禁断症状かよ。
次の日も学校を休んだ。
さすがに心配だな。連絡しても無視するし、家にも来ない。
母さんはあいつと話したらしいけど、理由は教えてくれなかったとのこと。
「なんか……つまんねぇな」
てそれどころではない。
もうじき中間テストなのだ。一学期の中間から本気出す。
俺は日本史が苦手だから、歴史の先生であるモモちゃん先生に放課後、補習をしてもらうことになっている。
念のため説明するが、俺が勉強に力を入れるのは月河に似合う男になりたいからじゃないぞ。母さんに怒られたくないからだ。
----------------------------------------
モモちゃん先生は生徒思いの教師だ。
補習をするにあたって、重要なワードと時間の流れをまとめたプリントを作ってきてくれた。
これを暗記しとけば間違いない、みたいなやつ。
「あ、鎌倉時代の北条と戦国時代の北条は別なんすね」
「そういうことだ、島風」
隣で先生が解説してくれている。
謎に距離が近いけど。肩当たってますけど。
「さて、このくらいにしておこう」
「あざした!!」
「せっかくだ、なんか喋ろう島風」
「え、忙しくないんすか? 昨日SNSでポストしてましたよね、テストが近くて大変だ〜って」
「見ててくれたのか!! うぅ〜、やはりお前、ワタシのこと好きすぎるナー!!」
「いえそんな……」
「でへ、でへへへ♡♡」
先生、俺と話すとき目がギラギラしてるんだよな。
ちょっと怖いかも。
「島風、そういえば先生、コスプレもやるんだ」
「へー、多彩っすね」
先生がスマホで写真を見せてくれた。
オレンジ色のウィッグをつけた……これは……。
「ワンピのナミ……じゃない!! ワンピースファンレターに登場するナミが好きな女の子!!」
「さすが島風。島風なら理解してくれると信じていたぞ!! で、どうだ? 衣装は知り合いに用意してもらったんだが」
「めっちゃ似合ってますよ。モモちゃん先生身長低いから、なおさら」
「うひーー♡♡ 島風、お前、どんだけワタシにメロメロなんだよ♡♡」
「メロメロってほどでも……ん?」
先生が謝って親指で画面をタップすると、撮影日が表示された。
これ、一昨日?
「最近撮ったんすか?」
「へへ、島風のためにな」
「え……」
ちょっと離れる。
お、俺のため?
あーいやー、嬉しい気もするけど、なんだろう、この悪寒。
モモちゃん先生はモジモジしながら、俺を見つめてくる。
「なぁ島風、10個上の女はな、いろいろ教えてあげられるんだぞ♡♡」
「あの、えっと、どういう意味ですか。なんでそんなに俺の気を引こうとするんですか」
「なんで? なんでってな……へへへ、ワタシは年下の男にチヤホヤされるのが大好きだからだーっ!!」
「えぇ……」
「同い年や年上はダメだ。どっか根本的に女を見下してるから。でも年下なら、年下の男は年上女性を心から愛してくれる。男ってのは甘えさせてくれる女に弱いからな!! あとワタシより健康で元気な期間が長いから末長くワタシのために働いてくれる!!」
生徒を前に何を堂々と語ってるんだこの人は。
まさかモモちゃん先生、俺を狙ってる?
あわよくば永遠に養ってもらおうとしてる?
「しか〜し、メリットもあるぞ島風。年上女性って、存在がえっちだろ?」
幼児体型のくせに。
「え、まさか結婚相手を探すために教師やってんですか?」
「生徒がダメでも、大学出てすぐ教師になるような世間知らずの男性教諭を捕まえるチャンスもあるって寸法よ!!」
「うわ」
「で、どうだ島風。ためしに、ためしに一回デートしてみないか?」
「えぇ……。いやあ……」
「頼む!! 今年でもう26なんだ!! 割と焦り始めているんだ!!」
「普通に同世代と合コンすればいいじゃないですか。女の人を下に見ないような人だっていますよ」
「ワタシの経験上そんなやつはいなかった!!」
「神絵師なんですから、男性オタクからモテモテでしょうに。実際、先生のアカウント、たくさんリプライついているじゃないですか」
「ネットの女性絵師を狙うようなオタクにロクなのはいないんだよ!! ていうか無駄に歳だけ重ねて恋愛経験のない男ばっかりに決まってる!! 独りよがりな恋愛しかできないパターンだ!!」
あぁ〜、なるほど。
なるほどなるほど。
この人もあれだ。
月河とは違うタイプの捻くれ者だ。
本人がめっちゃポジティブかネガティブか。
みたいな。
「あー、そろそろバイト行かないと」
「待ってるぞ、今度の土曜駅前で待ってるぞー!!」
聞こえなかったことにしよう。
----------------------------------------
さらに翌日も月河は学校を休んだ。
いよいよマジで心配だなあ。
ヤバい病気にでもなったんじゃないのか?
とかなんとか不安を覚えていると、夜、月河からメッセージが届いた。
【また私の家に来てほしい】




