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幕間③ 女帝の知らない心境

 私は生まれながらの女帝であり、他者に怯えたことも精神的動揺に陥ったこともない。子供の時からそうだ。

 常に冷静で、物事を俯瞰的に見て、優雅に立ちふるまってきた。


 なのに。


「はぁ……」


 家の玄関で座り込む。

 足に力が入らない。心臓がバクバクと暴れている。


 つい先程、私はハナミくんに押し倒された。


 熱を出していた彼をからかったせいだ。

 しかしあのとき、本当は返り討ちにできたのだ。

 ちょっとした好奇心から甘んじて受け入れたのが間違いだった。


 彼に力で押さえつけられ、下の名前を呼ばれて、頭がどうにかなってしまいそうになった。  

 恐怖からじゃない。

 新しい扉を開きそうな期待と、私が私でなくなるような不安が、脳細胞をめちゃくちゃにしたのだ。


 はじめての体験だった。




 もし、あのまま続けていたら、きっと私たちはお互いの肌を重ねていただろう。

 女帝とは正反対の、ケモノになっていたかもしれない。



「落ち着け、正気に戻れ」


 そうだ、この程度のトラブルで狼狽えてどうする。

 私は月河ユキハ。この世を統べる太陽にして、闇の女帝。


 私は孤独を感じない。

 誰も愛さないし、依存しない。


 頂点に立つものは一人でいい。隣には誰もいらないのだ。

 俗人どもはすぐ寂寥感やら承認欲求やらに負けて、他人との関わりに執着する。

 弱いから。


 でも私は強い。

 一人でいい。一人がいい。


 そのために一人暮らしをはじめたんじゃないか。

 人間、本当に一人ぼっちで生きることはできないのか、検証してやりたくて。


「今日のハナミくんは、可愛くなかったな」


 けど、男らしくて。

 もし機会があれば、またーー。


「っ……」


 なにを考えているんだ私は。

 女帝としてのプライドはどうした。


 これではまるで、私は、ハナミくんに、依存しているみたいじゃないか。



 あれくらい、私にとっては遊びの一環に過ぎない。

 そうさ、もっと過激なことをしたって冷静でいられるに決まっている。






 ユキハ。






 私の名を呼ぶハナミくんの声が、頭の中で何度もリピートされる。

 何度も。何度も。

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