平和主義者たちの目指す先は
その男は平和に憧れていた。
醜く言い争う裁判を聴きに行ってはこの世のくだらなさに嘆き、紛争地域のニュースを見ては憤慨する。
時は2100年。男の生まれた時代からは科学などは遥かに発達していたが、人々の在り方は何も変わっていなかった。
どうして皆、平和に過ごせないのだろうか。
そんな毎日に疲れ果てた頃、男は同志――一人の少年と出会う。
少年は、幼いながらに世界を変えたいと心から望んでいた。希望に満ち溢れた瞳で、子供らしい無邪気な声で、男を誘う。
「ねぇ、おじさん。世界を平和にする方法を、ぼく、知ってるんだ」
「教えてくれ」
「全ての悪人を取り除けばいいんだよ。簡単でしょう?」
少年は、未来を憂う大勢の仲間を引き連れていた。
「良かったらおじさんも手伝ってくれないかな」
少年の一団に加わった男は、あらゆる悪を裁いた。
何が原因か知らないが揉めているカップルやら親子やらの口を二度と開けないようにして回った。一度でも罪を犯したことのある人間を調べ上げ、昼夜問わず電話をかけて自死させた。国税で民を苦しめている国の上層部の人々を大量の爆薬を仕掛けて木っ端微塵にした。
日々、争いの声が消えていく。日々、平和が近づいてくる。
逆賊だと叫ばれ、軍隊で襲いかかってきた。リーダーの少年は自ら犠牲となって首を差し出し、幼い少年を無慈悲に殺めた軍の非道さを全世界に訴えることで、逆に同志が増えた。
結果的に軍隊は他国によって潰され、その他国もまた別の国の反感を呼んで、国が一つ、また一つと滅んだ。
犠牲となった少年の理想を絶対に叶えてやる。そう誓った男は、仲間たちと共に、ただひたすらに突き進む。
平和主義者だけの楽園は、もうすぐそこだ。
――彼らは気づかない。自分たちの行動が、多くの悲劇を産んだことに。
――彼らは気づかない。行き着く先が、荒廃でしかないことに。