05話 雑木林の真相
「熱いぃ!!」
熱いのか、子供は火を消そうと地面を転がり始めた。
「な、なにが…」
見えない悠希にとっては、いきなり子供が燃え始めたように見えたのだろう、何が起こったか分からないまま呆然としていた。
「あれ、大丈夫なのか?」
「熱いだろうけど、我慢しないといけないんだよね…」
こむぎに大丈夫なのかと聞いて見ると、本当に大丈夫なのかと思いたくなることを言った。
「あの炎は穢れを浄化することができる奴なのよ。でも、浄化能力が高い代わりに熱さを感じるんだけどね」
「あぁーーーー!!!!」
熱さを感じるだけじゃない気がするのは気のせいだろう。
本当に上手くいっているのか子供の泣き叫ぶ声で不安になってくる。
そうしていると、子供に操られていた人が糸が切れた人形ようにその場に倒れ、木に吊らされていた人が落ちて来た。
どうやら子供の力が弱まっているようだ。
「あれ?なんか徐々に薄れて行ってる…」
目を擦りながら、悠希はそのようなことを呟いた。
これで子供の力が弱まっているのが確定した。
力が弱まっているから、見えない体質の者から見えなくなり始めているようだ。
暫くすれば炎の勢いが徐々に無くなったため、浄化が完了したのだろう。
子供は力尽いたのかその場でスヤスヤと寝ていた。
「見えなくなったか?」
「嗚呼…何かしたのか?」
「こむぎが浄化してくれたんだよ、詳しいことは俺が聞いておくから、お前は救急車を呼んでくれ」
「分かった、後で詳しく聞かせてくれよ!」
救急車を呼びに行くために、悠希は走って雑木林を抜けて行った。
一方、俺は寝ている子供を抱えている男達の元に、こむぎと近寄る。
「姉貴、改めて助けてくれたことに礼を言うぜ!」
「姉御が居なかったら、俺らはそこら辺の悪霊…いや、それよりもっと質の悪い者になっていた!改めて礼を言うで!」
ヤクザ男は口頭で礼を言い、力士は胡坐をかきながら土下座のように頭を下げて礼を言った。
「で?何があったんだ?」
「えっ…お前俺らが見えてるのか?」
「ふふ~ん、私の兄ちゃんだからね!」
「姉御の兄か…これからは俺は兄御と言わせてもらうで」
「俺は兄貴と言わせてもうぜ」
質問をしたら、勝手に兄御と兄貴と慕われることになったのに、困惑しながらも改めて話を聞いて見た。
「改めて聞くけど、何があったんだ?」
「…」
「…」
力士とヤクザ男は互いに目を合わせた後、話すことにしたようだ。
「そこは俺が説明する…俺とおっさんは元々彷徨うだけの幽霊だったんだが、この雑木林に来た時、そこの小僧が一人寂しく居てな…折角だし遊び相手になっていたんだが……数日前、変な奴が現れたんだ…」
「変な奴?」
「ああ、そいつがここの雑木林に来てな…そいつは小僧を見た途端、変な術をかけようとして来たんだよ…勿論俺らはそれを食い止めようとしたが…その時には既に小僧は術にかかって居てな…あっという間に俺らは拘束され、そいつについでで術をかけられてな…そして俺らは人を襲うようになったんだ」
ヤクザ男の理由が正しければ、今回の事件は黒幕が居るというわけか…
「そいつの顔は見たのか?」
「それがな…面を付けていたせいで見れなかったんや」
顔を見ていないかと聞くと、力士の男が腕を組みながら残念そうに答えた。
と、なると相手が尻尾を出すまでどうにもならないな…
ふと、視線の先に小さな祠があることに気が付き、俺は近づいてみた。
祠は古そうに感じるが、綺麗に掃除がされていた。
「ああ、それは小僧の祠だ」
俺が祠を気になっていることに気が付いたヤクザ男は、祠について軽く説明してくれた。
「俺らも聞いたことしかないが、なんでも昔は近所の子がぎょさんそこの前に集まって遊んでいたらしいわ…中覗いてみ、この子の本体とも言える狐像があるやろ?」
ヤクザ男に続き、力士が祠について詳しく教えてくれた。
「俺らが来た時にはもう廃れていたがな…だから、俺らが人目を盗んで綺麗にしてたんだよ…今の時代カメラがあっちこっちについているから、幽霊も下手に動けねぇんだよ」
どうやら防犯カメラは犯罪だけではなく怪奇現象も防げるらしい。
そういうのを気にしない霊は普通に怪奇現象を起こしそうだけど…
「……で、これからどうするんだ?」
「そこなんだけどな…」
「いくら操られていたとはいえ、俺らが人を襲ったのは事実だからなぁ…このままここに居たら陰陽師辺りに退治されてまうかもな」
男達は重々しい雰囲気で口を開いた。
恐らくコイツらは根はいい奴らなのだろう
少し考えた後、俺はとあるを決断した。
「ならさ、俺と一緒に来ない?」
「「「「!!?」」」」
俺の言葉に男達やこむぎ、俺の守護霊が驚いた。
「いいのか!?」
「勿論、犠牲者は出ていないようだし…それにもし何かあっても神であるこむぎが居たら何とかなるだろ?…こむぎもそれでいいか?」
「全然いいよ!多い方が楽しいこと沢山起きるし!」
男達は目を輝かせ、こむぎは俺の案に賛成してくれたのだが、俺の守護霊は首がもげる勢いで横に振っており、全力で拒否していた。
「心配性だな~…根はいい奴そうだし大丈夫だって」
俺はそう言い守護霊を説得してみた。
守護霊は頭抱えたり、腕を組んだりして悩んだ後、渋々ジェスチャーでOKを出してくれた。
「そういえば名前が自己紹介がまだだったな…俺は神西 蛍人で、こっちがこむぎ」
「番長をやっていた六口 涼って言うんだ」
「俺は力士の岡田 山左衛門…お世話になるで、兄御!」
元番長と力士か…一気に俺の守護霊がいかつくなったな。
「そういえばこの子の名は?」
スヤスヤと寝ている子供を見ながら、涼達に何という名前なのかと聞いた。
「それは本人から聞いてやってくれ」
「せやな、起きてから改めて聞く方がええわ」
何故か二人は名前は本人から聞くように言われた。
いつ起きるか分からないけど、仕方ないか…
「おーーい!連絡できたぞー!!」
雑木林の外から悠希の声が聞こえてきた。
どうやら救急車を呼ぶことができたそうだ。
「それじゃあ帰ろうか」
「はーい!」
「ああ!」
「おう!」
「…」
山左衛門が子供を背負い、俺らは雑木林の外へと出た。
なんか見られている気がするけど…気のせいか…な?
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一人の黒いローブで身を覆い顔を不気味な般若の面を付けた者が、雑木林から去っていく蛍人達を木の上から見ていた。
「…新鮮な魂を集められると思っていたが、まさか邪魔が入るとは……新しい作戦を考えないとだな………いずれ神が介入して来るとは思っていたが、思ったより早く…生まれて間もない情報が少ない犬神…いや少し違うか…まぁいい、当分は様子見と行こう」
ローブの者は計画に介入してきたこむぎを見ては、軽い舌打ちをして苛立っていた。
「犬は好きだが、邪魔をしてくるようならば容赦はしないぞ…犬神」
そう呟くとフードの者は黒い靄に覆われ、靄が晴れる時にはローブの者の姿は消えていた。
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「…はい?」
私は目に見える光景を見て固まった。
目の前には今回の退治目的の悪霊達が、犬神と守護霊を付けた一般人に憑いて行っていった。
えっ?取り憑かれているのか?いやいや、それならあの犬神らしき者や守護霊が黙ってないだろ?何がどうなってんだぁ???
目の前の光景に困惑しつつ、仕方なく私は本部に連絡することにした。
「……えぇ…はい、対象を見つけたのですが…少しばかり異常事態が起きていて……あっ、いえ、危険というわけじゃないんですけど…写真を送りますので、その確認をお願いします」
一度電話を切り、本部に目の前の異常な光景を撮るために、写真を撮ろうとしたその時…
「へ?」
白い球が勢いよく飛んできて、私のスマホが道に吹き飛ばされてしまった。
絶対あれ割れてるよね~?
弾かれたスマホを回収しようとしたその時、右の方から勢いよく車が走ってきて、その車はヒビが入っていただろう私のスマホに止めを刺した。
「私のスマホーーーーー!!!!!!」
見るも無残になったスマホの前で、私はその場に跪いた。