02話 神となった愛犬
「疲れているのかな俺……」
現実を認めたくない俺は目を擦り、疲れていると思い込んで目を擦った。
「…もしかして、兄ちゃん見えてる…?」
美少女の発言で、俺は余計現実逃避をしたくなってきた。
(見えてるって聞くってことは、幽霊系のやつかよ)
何もなかったように、俺は靴を脱ぎ自部屋に向かうために階段を上がろうとした。
「兄ちゃん見えてるんでしょ!頭撫でてよ!」
見覚えのない美少女にお兄ちゃんと呼ばれ、頭をなでるように強要される俺。
一応言っておくが、俺に居る妹は美雪だけである。
こんなに可愛い妹が居た覚えはない。
「頭を撫でるか、それか納豆食べさせて!!」
頭を撫でるか納豆を食べさせるかと迫られ、頭に疑問が浮かんだ。
何故、納豆なんだ?人でも好き嫌いが分かれる納豆だぞ?
何故納豆を要求して来るか考えた時、もしやと思い俺はあることを少女に聞いた。
「……もしかして…こむぎ…?」
「えっ!やっと気づいたの!?」
今まで俺が正体に気付いていると思っていた少女は、少し耳を下げて落ち込んだ。
待て、まだ確定はしてないぞ…!
危うく混乱しそうになり、慌てて自分を落ち着かせて、こむぎを名乗る少女に質問をすることにした。
「……こむぎの好物は?」
「納豆とお婆ちゃんがくれるおいも!」
手始めにこむぎの好物を聞くと、ポタっと涎が床に落としながら少女は迷うことなく質問に答えた。
「…父さんの趣味」
「変な物を操る!」
抽象的ではあるが、ラジコンが趣味のため大体合ってると言えるだろう。
「俺が家で一人で居る時にやっているのは?」
「変な物の前で、顔に何かを付けながら音楽を熱唱」
「うん、こむぎだ…」
最後に家族でも知らないことを聞くと、常日頃家に居たこむぎしか言えない迷うことなく言い、こむぎだと確信した。
「本当にこむぎなんだよな?」
「そうだって言ってるよ…そんなに信じられないのなら、ほら!」
まだ疑い続けていると、少女はポンっと言う音と共に煙を出した。
煙が晴れると、そこには亡くなったこむぎの姿があった。
「ね?言ったでしょ?」
「あ…ああ…」
呆然としている俺に、こむぎは喋りながらも床に座り込んだ。
喋っているためか、違和感を感じるものの、俺の目の前に背筋を伸ばして座っているのは、紛れもなく亡くなった愛犬のこむぎだった。
「と、取り敢えず俺の部屋に行ってくれ…納豆持っていくから」
「ほんと!?」
納豆という単語を聞くや否や、こむぎは尻尾をこれでもかってぐらい振り始め、二階の俺の部屋に直行して行った。
何故今まで姿を現さなかったんだ?なんで人になれてるの?っと聞きたいことは山ほどあるが、当の本人は二階へ行ったため、後でゆっくりと聞くことにしよう。
下に置いてある着替えと冷蔵庫に入っている納豆を一パックだけにしようかと思ったが、折角なら三個全部でいいかと思い、ワンパックの納豆を取って二階へと向かった。
「兄ちゃん早く!」
部屋の扉を開けると、人の姿になったこむぎが座って待っていた。
「はいはい」
持って来た納豆をこむぎに渡すと、こむぎはパックを開け、付属の醤油やからしを付けず、なんなら混ぜることなく納豆を食べ始めた。
生前の時のように口を突っ込むのかな~っと思ったが、いつの間にかマイ箸を持っていたようで、ペロッと一パックを食べ終わり、次に手を出した。
「…なんで今まで俺の目の前に出てこなかったんだ?」
納豆を無我夢中で食べているこむぎに、俺は知りたいこと質問をした。
「はひひなあっほんあほ」
「食べてから喋れ」
納豆を口にほほ張りながら喋るこむぎに、食べてから喋るように言うと、こむぎはしばらく納豆を噛んで味わった後飲み込み、口を開いた。
「神になったんだよ」
「…………は?」
余りにもぶっ飛んだ話に、俺は一瞬思考を止めてしまった。
神って、髪とかじゃなくてマジの神なのか?
「マジで?」
「うん、ほら!これが証明書!」
こむぎはパチンと指を鳴らし、目の前に証明書みたいな物を出現させて俺に見せた。
『神様検定 合格証明書 神西 こむぎ殿こと、犬神殿 貴女は神様検定にて全ての試験を合格し、神様になったことをここに証す。 日本最高神 天照大御神』
証明書を見た俺は余計混乱してしまった。
情報量の暴力とはこのことだろう。
「なぁ、天照大御神ってあの天照大御神?」
「うん、伊勢神宮とかで祀られている天照大御神様だよ…私に色々と教えてくれたりもしたし!」
え?なに、こむぎ日本の最高神に色々と教えてもらったの?なんで!?
つい最近死んだ犬が、最高神に色々と教えてもらうのはおかしいと思い、詳しく聞いてみた。
「なんで、最高神の天照大御神がこむぎの世話を見たんだ?」
「ん~…なんか繋がりを感じたみたい…あっ、あれかも」
こむぎが指差した方を見ると、そこには伊勢神宮に行くたびに俺が買っていた内宮の御守りの束だった。
もしかして、俺が要因?
「え?本当にあれ?」
「うん、あそこから天照大御神様の加護が見えるし、それがお兄ちゃんを覆っているから、多分常に一緒に居た私に、その加護の一部が移ったんだと思う。天照大御神様曰く、『犬が色々な私の加護を纏っているの珍しいね~』って言っていたから」
「マジか…」
まさか運が欲しいとかの下心満載で買っていた御守りが、日本の最高神と愛犬の縁を作っていたとは…人生何が起きるか分からないな、ほんと。
というか、やっぱり神は居たのか…元々神を信じていたけど、これで居ることは確定でいいのかな?
そんなことを思いながら、尻尾を振りながら嬉しそうに納豆を食べているこむぎを見て暫く癒されることにした。
「あっ、そうそう…私これからお兄ちゃんの守護神になるから!」
「……は?」
こむぎは俺の守護神になると一言だけかけ、驚きのあまり固まっている俺を置いて納豆を食べ進めた。