表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星屑たちのハッピーエンド  作者: ねこにゃん@灰猫陽路(ハイネコ ヒロ)
第1章 どこぞの天の原、出でし月は違うもの
8/11

8話

 ※※※※※※※※※※※※※※


 ―――ゆらゆらと、頭の中が揺れる。

 指の先に、何かが触れた。滑らかで冷たくて、覚えがあるような、ないようなそんな―――


「……転移で寝るなんて、随分とまぬ…警戒心がないんだな」


 ……目覚めが、最悪。

 ぼんやりする頭にだって染み込んでくる呆れた声。

 目を開ければ陰鬱な暗さ漂う紫色の葉が生い茂る森。

 寝ころんだ背からじわりと感じる土の湿った感触。……おのれ、ほったらかしとはやるな。


 一先ず館の人たちも助けられたことだし、ふうと一息つく。

 吐いた息のままむくりと体を起こすと、もう見憶えてしまった、この森にぴったりな目をした奴がいた。

 ………そういえば、こやつのせいで私の趣味であるハッピーエンドを前世で台無しにされたんだった。


 落ち着いたことによって、じわりじわりとムカついてきた。

 彼をハッピーエンドの相手役に選んだのは私の勝手だけど、それにしたって絶対に死ぬ運命とかそんなの悲劇じゃん、バッドエンドじゃん。

 こんなのハッピーエンドにしようがないじゃん。……そもそも、彼が今の彼だったら、ハッピーエンドの相手に選ばなかったのに。


 全身を襲う筋肉痛に負けて、座り込んだまま彼を睨みつける。


「ほんと、キャラ崩壊にもほどがあるでしょ、あんた」


 理不尽な私の言いがかりに、何のことだとしばらく首を捻っていた奴は、あぁと頷いた。


「そうだね、まぁ、前世は休眠回だったから」

「はぁ???」


 彼曰く、時折意識を眠らせたまま過ごす一生があるとのこと。

 その時は、周囲の反応から最も労力の少ない行動を自動でするのだとか。……なるほど、アレは省エネ人生だったってわけか、いやいやどうやってやってるんだそんなの。


「結構簡単だよ?考えなければいいんだから」

「……ふーん」


 納得はできないが、しつこく問い質すほどは興味をそそられなかったので、気のない返事をひとつしておく。

 と、それが止めだったかのように、ぷるぷる震えた腹筋が限界を超えてしまった。

 筋肉の言われるがままに、大地に身を投げ出す。

 それと同時に、急速に転生仲間の彼への興味がなくなっていく。


「……よく考えてみたら会ってどうするんだ?って気持ちになってきたんだけど私。どうする?あ、移動するんだったら、負ぶってね。今筋肉が反抗期だから」

「―――はぁぁぁ、随分と他力本願な……。それに僕も似たような体格なんだよ?キミを抱えるのなんて、無理だよ」


 断られてしまった。

 えぇーじゃあどうするのさ。このままだと、この森で野垂れ死になんだけど。

 ぐるりと見まわしても、人の手が入ってなさそうな自然そのものといった木、草、蔦……うん、本当に野垂れ死だね、コレ!


「……キミを捕らえたってことで、魔界に僕の城がもらえるからそこに移動する予定だけど」

「ふーーーーーーん」


 あれだよね、一度興味を失っちゃうと、全てにすぅっとやる気が引いてっちゃうんだよね。わかる?この気持ち。


「そこで、互いに知っていることの情報交換をしようかと思ってるんだけど」

「へーーーーーーーーん」


 だめだ、指を一ミリだって動かす気になれない。

 返事をしてるだけでも偉くないか?私。


「………僕たち以外の、転生者についても「え!!私たちだけじゃないの?!?!」…うん」


 がばり、と勢いよく起き上がる。ついでに立ち上がる。

 反抗期の筋肉から悲鳴をあげたけど、急速に高まった興味がソレを上回ったので無問題。


「そういうことは、早く言ってよー!へぇ!誰だれ、どんな人?すぐ会える?」


 わくわくしながらハイネへ詰め寄る。

 かなり引き気味な彼が、身体全体で後ずさりつつ答えた。


「……すぐには会えないよ、まだ今世で会ってない「えぇぇぇ……探すのぉ……だる……」……はぁ」


 またしても興味が下落した。すっごく下落した。

 そのせいで、さっきまで仲良くしていた地面へ再び熱烈なハグをする。……このジメジメも一周回っていいかもしれぬ。


「……人の話は、最後まで聞いたら?」

「んんん?」


 いやいやいや、聞いたところでよ?

 これから同じ世界に転生してますように!って願いながら、この広い世界のたった一粒の人間を探す訳でしょ?………無理無理無理。


「すぐには会えないだろうし、今世では会ってないけど」

「んんんん」


 ……あっ、てんとう虫だ!私の知っているやつより、ちょっと棘があって微妙に大きいけど。

 目の前の地面でのんびり歩くのを、目で追う。

 特大の溜息が、上から降ってきた。


「アイツは目立つからすぐわかるんだ。だから、居場所ももうわかって「そーれーを先に言ってよーーー!!」……はぁほんと……」


 何かを堪えるかのように上を向くハイネ。我慢は体にわるいぞ?

 可哀想な子を見る目で見ていたら、同種の目で見返された。……なんで?


「とりあえず、迎えが来るからそれまで待ってて。今の拠点に移動するから」

「はーーーい、そこに居るの?そのアイツ」


「いや、居ない。それにそう簡単には会えないかな」

「えええええーーー、そのアイツ、誰様よ」


 一応会うと決めたので、腰重くだけれども立ち上がりながら、これから会うであろう彼だか彼女だかについて尋ねる。

 そんな私へ、ハイネは表情の読めない顔で答えた。


「―――何せ、アイツは英雄だから」


 ※※※※※※※※※※※※※※

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ