6話
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「いやぁ、全然気づかなかった。キミって地味だね」
「オイオイオイ、どこが地味だ、私可愛いだろうが!!」
断固として抗議すると、ジロジロ遠慮なく見られた後に首を捻られた。お?喧嘩か??
「やっぱりキミも、同じ姿なんだね」
「……殺そうとしてるターゲットの名前くらい、チェックしてないんですかねぇ????」
「全くないね」
「殴るぞ、コラァ」
真顔だった、この野郎。
握りこぶしを震えながら構えると、まあまあと心のこもらない宥めをもらった。
「僕の方は知っての通り、魔族として生まれたよ。まぁ魔力なしのごく潰し王子だけど」
「いや、知らんけど」
辺境伯の娘殺ってきたら認めるって言われたから来たんだよね、と軽く言うハイネ。
さらっと重たい話を投げ込まれたが、こちらとしても屋敷半壊皆殺しにされてるわけで、同情なんぞできんわ。
「じゃあ、とりあえず行こうか」
何がじゃあで、何がとりあえずなんだ。
私に差し伸べられた、血がべっとりついた手をじぃっと見つめる。―――はぁ、と溜息をひとつ。
「…………時間逆行」
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ゆっくりと、目を開ける。
薄暗い部屋の天井が、視界に入った。―――今世もこの能力は健在だ。
はぁぁぁぁぁぁぁ、と魂が抜けるほど深い溜息を吐く。あの野郎、無茶苦茶だ。
微かな音共に、誰かが入ってきた。
「あら?リンお嬢様、お目覚めですか?」
驚くソーニャの顔を見つめる。
私だって鬼じゃないし、いくら前世を思い出してからの感覚しかないとはいえ、記憶の中にある人の死をそのまま受け入れたりはしない。
「ソーニャ、直ちに全員屋敷から出ていきなさい」
「お、お嬢様?何を……」
ま、正しい反応だ。十歳の子供が何言ってんだ、と私でも思うだろう。
だが構わん!今回は直球勝負といこうか!
ベッドからぴょんと飛び降りる。
ペタペタと裸足の音を鳴らしながら、ソーニャの前まで行く。
「聞こえなかった?全員、出ていきなさい、と言ったのよ」
「どうかされたのですか……?悪い夢でも……」
ソーニャは戸惑うだけで、私を恐れたり慌てたりしない。……私は今まで、権力を振りかざしたりしなかったようだ。
だがここで子供のように癇癪を起せば、ただの戯言として扱われてしまう。
ゆっくりと、冷酷に見えるよう、表情を消す。
「今、私に口答えをしたの?辺境伯令嬢たる私に、平民のあなたが?」
「おじょうさま……」
この差別的発言に、ようやくソーニャの顔色が青くなった。
よしよし、この勢いだ!
「首を刎ねられたくなければ、言うとおりになさい。それとも、死にたいの?」
精一杯の睨めつけをかます。ここだ!決まった!!
ソーニャは言葉も出ないようだ。
「お嬢様?どうかされましたか?」
部屋の中の騒ぎに、廊下で警護していた騎士が顔をのぞかせる。
ふふん!お前も私のこのブリザードのような冷たい言葉を浴びるがいい!!
「そこのお前、辺境伯の令嬢たる私が命じます。今すぐこの屋敷から出ていきなさい」
「え?なに、え???」
ぽかんと呆けている場合じゃないぞ!事態は一刻を争うんだぞ!!
そうこうしているうちに、わらわらと人が集まってきた。
よしよし、みんな聞くがいい。お貴族様の命令だぞ!!
「何度言わせるの、屋敷から全員今すぐに出ていきなさい」
「お、お嬢様?一体どのような理由でそのような……」
ロマンスグレーの渋い執事が、弱り切ったと言わんばかりに眉を下げている。
理由、理由はやっぱいるか?えっと何にしよう……。うーんこれは定番のアレでいくか。
「お前たちが気に食わないからよ!だから言う通りにしなさい!」
「――――」
絶句する人々。よぉし、これぞ貴族よ。これならみんな言うことを―――
「やはり、お嬢様にあんなものを観せるべきではなかったのです!!」
「……ソーニャ?」
わっと泣き出しながら叫ぶソーニャ。……私何か見たっけ?
記憶を探り探りしていると、回答が出された。
「今流行りだからと言って、悪徳令嬢が活躍する劇など!お嬢様が影響されてこんなに……!」
「な、なんてことだっ!!」
………え、いや違う、違うんですけどソーニャさん。
死角からの攻撃に、思わず動揺してしまう。
「ち、違うわっ!ほんとうに、気に食わないからっ!」
「しかし、お嬢様、劇は劇です。娯楽としてならよいですが、現実ではないのです」
きっぱりというソーニャ。いや、そうなんだけれども……。
頭で理解している正論に、ぐっと反論を飲み込んでしまった。その私の態度で、ソーニャが合点がいったように頷いて、指示を出してしまう。
「お騒がせ致しました。皆様、各自お戻りください」
「ちょ、ちょっと!!私の指示はっ?!」
戸惑いながらもドアから出ていこうとする彼らを、引き留めようとしていると―――
―――ドォォォン!!!!
「―――ここかな?辺境伯の「時間逆行」
…………おっけい、失敗ね、なるほどね??
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