表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星屑たちのハッピーエンド  作者: ねこにゃん@灰猫陽路(ハイネコ ヒロ)
第1章 どこぞの天の原、出でし月は違うもの
2/11

2話

 ※※※※※※※※※※※※※※


 ―――なんで、なんでなんでなんで?????


 絶対に完璧だったはずだ。

 あらゆるところに潜んでいた敵対勢力も、壊滅か弱体化させたはず。なのに。


 悲痛な叫び声が、聞こえる。

 ……どうやら、王子は絶命してしまったようだ。

 駆け寄った誰もが、突然の悲劇に混乱をしつつも、絶望していた。


 おっとおっと??私があまりにも冷静に観察してるからって、人の心のない悪魔なのかと勘違いしないでね?

 私には実は―――


「一先ず、王子をお運びせねばなるまい」

「ぃやぁ、そんな……目を、目を覚まして……」


 傍に控えていた騎士が、王子の体を丁寧に抱え上げ……あっちょ、ちょっとまって!運ばれたら非常に困る!!


 いつも通りの呼吸で、いつも通りの集中で、いつも通りの呪文を唱える。


『―――時間逆行(ムーンウォーク)


 ※※※※※※※※※※※※※※


 白い花びらが舞い上がる。

 幸福の象徴のような少女が王子様へと駆け寄っていく。……ふう、間に合った。


 そう、その他大勢に見える私だけれど、その他大勢にはない特殊能力がある。


 時間を巻き戻せるのだ。視覚の範囲内だけだけど。

 つまり、時間の長さじゃなくて、巻き戻す前の私が見える位置までが、私の出来る最大。


 それってムーンウォークみたいじゃんって言われたからダサいけど使っ―――えーっと、いつの誰に言われたんだっけ?忘れちゃったよ。


 何せ、数えきれないほど、生まれ変わっているからだ。それも記憶付きで。


 おっとおっと、もしや設定盛りすぎでおなか一杯になってやしないか?

 気に病むことはない、私もそうだ。

 平民貴族奴隷と多種多様に生まれ変わりすぎて、最早人生まるごと趣味に走ってるくらいだ。


 目の端に、侯爵令嬢がこちらへ伺っているのをとらえる。

 ……一旦彼女とのおしゃべりはスルーして、とりあえず王子様を助けますか。


 サクサクと芝生を踏みしめながら、思案する。


 あの軽い音から推測するに、魔弾、それも暗殺に特化した魔法銃を使ったはず。

 が、消音を重視するあまり銃身が長くなったそれは、威力と隠密性との兼ね合いで中距離でしか意味をなさない。


 周囲をぐるりと見渡す。

 開けた庭園、人は多すぎず少なすぎず、身を隠せるのはガゼボか頼りない低木か。


 常人であれば、気づかれないように慎重に、彼だか彼女だかの暗殺者の居場所を見つけるのがセオリーだけど。


 足元に転がっていた、小石を拾う。


「どっせーい!」


 魔力と殺意と怒りを込めて、人がひそめそうな茂みに石を投げた。

 根拠はない、ただの当てずっぽうだ。


 なにせ私は時間を戻せるから、何回でもトライアンドエラーができちゃうわけよ。

 十回目で当てようが、百回目で当てようが、必ず一回目になれるわけよ、暗殺者さんかわいそ。


 低いうめき声と共に、確かな手ごたえを感じる。わお、私ってば運がいい!

 慌てた空気で陰ながらの護衛たちが、暗殺者の元へ集まっていくのを感知する。はい解決、はい天才。


 満足気に頷きつつ、再度周囲をぐるりと見渡す。


 まさか一回で当てると思わなかったからあげた奇声のせいで、多少こちらに衆目が集まっている。

 が、少女と王子様二人は互いの世界にどっぷりだから、幸せそうな図は崩れていない。よしよしよし。


 腕を組みながら、先ほどの奇声をどうごまかすか、それとももう一度巻き戻すか?と悩む。


「ぞ、像が……!!!」


 ―――違う騒ぎが起きていた。

 おいおいおいおい、とため息をつきながら見ると、庭園の象徴である女神像が不吉な音を立てている。

 ………えぇぇ……??暗殺者の次はこれぇ……???

 のんびり幸せの構図に浸ることもできやしないじゃないか!


 幸い、像のひびの入り方から、人のいるこちら側に、しかも今すぐに倒れてくることはなさそうだ。

 それが伝わっているようで、貴族である彼彼女らは、殊更ゆっくりと避難誘導に従っている。

 ……けっ、これだからお貴族様は。


 雑然とした空気の中、不安そうな彼女を王子が抱きしめつつ慰めている。

 どうやら、王子であれど主催者として、出席者の避難を優先する方を選んだようだ。

 それどころか、後ろでヤキモキしていた護衛達ですら、避難誘導に当たらせている。

 まあ、あの王子らしいと言えば、そうなんだけども。


 私にも誘導しようとする使用人を断り、一応彼女らが避難するまで待って―――


 ―――ビキッ


 急激に、像の亀裂が大きくなってく。

 女神の足元が欠けいき、今にも倒れそうだ。そうなってようやく、人々が叫び声をあげ慌てて走り出す。

 その人波に押されて、統制すべき騎士も護衛も二の足を踏んでいるようだ。

 まったく、普段から主に逆らう反骨精神を鍛えておかないからこうなるのよ。


 が、運悪く、避難している人の方へ、像がゆっくりと倒れていって。

 大きな悲鳴と共に、誰かが魔法でそれを弾き飛ばした。―――恐れからか、それは必要以上に強い力で。


 ―――ぐちゃり

「…………………は??」


 飛ばされた像の瓦礫は、容赦なく、あっけなく、彼女と王子を潰した。


 は??なん、は??え、いやいやいやいや、それはないって。

 どんな障害も乗り越えてきた二人が、そんなギャグみたいな最期なんて、ありえないって!!


 彼らのこの惨状に、またしても悲鳴があがる周囲などお構いなしに、派手に地団駄を踏む。

 行儀の悪さなど関係ない、苛立ちのまま爪をかみ砕いてそれで。


『………時間逆行(ムーンウォーク)


 ※※※※※※※※※※※※※※

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ