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番外編.夢にまで見た

 宰相室の壁に向かいあうようにして、アーサーは立っていた。

 ぴしりとのばされた背すじや、気配りの行き届いた従者のおかげで皺ひとつないジャケット、なによりアイスブルーの瞳から放たれる鋭い眼光が、〝氷の宰相〟という彼の二つ名を体現していた。

 

 真剣なまなざしが見つめる先には、国王直々の筆になる『ノー! 残業! イエス! ワークライフバランス!』の標語が掲げられている。

 だが、アーサーが見つめているのはそれだけではなかった。

 

 標語の下には、小さな飾りリボンとともに、アーサーの名が書かれた紙と、さらに何枚もの紙が貼られている。

 いわく、

 

『祝☆完全週休二日制』

『祝☆三か月連続ノー休日出勤』

『祝☆残業三十時間未満』

『祝☆有給取得五日』

『祝☆有給取得十日』……

 

 これらもまた、国王の筆になるものである。

 

 ちなみにアーサーの一覧の隣にはオリヴィアのための場所もあって、同じように祝いの言葉を書いた紙が貼ってある。

 

 超ホワイト君主な国王陛下主導のもと、宮殿の働き方改革を実施すること二年。

 

 宰相室も様々な施策を実施。人員も増え、育成もすんだ。

 

 そうして、宮殿一のワーカホリックであった宰相アーサーとその補佐官オリヴィアは、ようやく年間有給取得日数十五日という偉業を成し遂げたのだった。

 

(これで――)

 

 アーサーの脳裏にオリヴィアの笑顔が浮かぶ。

 思わず握った手に力が入った。

 

(これで、新婚旅行に行ける……!!)

 

 ファーガスやセシリーも手伝いを買って出てくれた。

 いまの宰相室ならば、アーサーとオリヴィアが同時に一週間、いや半月休んだとしても耐えられる。

 

(国内周遊……いや手続きは複雑になるが国外でも……いっそ一週間ずつという手も? いやしかし……)

 

 表情には一切出ないまま、アーサーは楽しい想像をめぐらせた――。

 

 

「……という夢を見たんだ」

 

 真顔で告げるアーサー様に、「そうなんですね……」とお返事をしつつ、わたしは内心で首をかしげた。

 

 アーサー様とわたしの前には大量の書類が置かれている。

 季節はめぐり、貴族たちは領地から王都へのぼり、閉会となった議会はふたたび開会し、大量の書類が宰相室に流れ込んできた。

 

 いまのわたしたちの状況は、夢の正反対。繁忙期を迎え、残業時間は日々増えつつある。

 でも、アーサー様はどこか嬉しそうだ。

 

 感情が読めないと言われるアーサー様だけれど、婚約者としてすごすうちに、わたしにもアーサー様の気持ちがわかるようになってきた。

 いまだって真顔だけれども、周囲の空気がどこかやわらかい。

 

 とはいえ、わからないこともある。なぜアーサー様が現実とは正反対の夢を見ながら嬉しそうなのか。

 そんなわたしの内心に答えるように、アーサー様は腕組みをして頷いた。

 

「夢にまで見るということは、俺の中で明確な未来ビジョンえがけている。非常にいいことだと思う」

「……そうですね!」

 

 なるほど、とわたしも頷く。

 アーサー様の夢には、二年間という具体的な期間があった。さらに、人員追加とその教育という施策に加え、完全週休二日制、三か月連続ノー休日出勤、残業三十時間未満、有給取得五日、有給取得十日と段階的な達成目標まで示してくれているのだ。

 国王陛下直々のお祝いの言葉はやや畏れ多いけれども……本当に書いていただけそうだ。

 

 手元に書類を引きよせ、恐ろしい速さで確認しながら、アーサー様は言った。

 

「正夢にできるようにがんばろう」

「はい!」

 

 わたしは元気よく返事をした。

 アーサー様も、にこりとほほえみ返してくれた。

この二人、あいかわらずなのか、前進しているのか…!?


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