【書籍②巻発売】婚約指輪ができました その後
ファーガス殿下から、「浮かれまくっている」と指摘を受け、あらためて自分を振り返ると……たしかにわたしは浮かれまくっていた。
それでも自分では抑えていたつもりだったから、他者の目というのは大切なものだとしみじみ思う。
そして、わたしが浮かれまくっていたのと同様、たしかにアーサー様も……よく見れば、浮かれまくっていた。
*
ファーガス殿下が宰相室を訪れてから数日後、今度はアーサー様とわたしが王宮の奥の間、ファーガス殿下の執務室にいた。
国内貴族からも認められ、ロメイド公爵家のご令嬢セシリー様を婚約者とするファーガス殿下は、このたび正式に王太子として立つことになったのだ。
立太子の儀は国を挙げての式典で、他国の王族や貴族も招待される。外交部や総務部といった部署も忙しく、もちろん宰相室にも役割がある。
立太子の儀は現在の国王陛下が王太子となったとき以来およそ二十五年ぶり。過去の式典の記録も確認しながら、ということで、図書館も慌ただしい様子だった。
宰相であるアーサー様は、将来的にはファーガス殿下の第一の側近になる。だから式典にも、ファーガス殿下のそばで参加する。
ファーガス殿下とともに式典の手順を確認するアーサー様の表情も真剣そのもの……なのだけれども。
わたしは、わたしの隣で書類を持つアーサー様を見た。
……なんだか近いような?
執務机の席についたファーガス殿下は、アーサー様と同じ書類を眺めている。
アーサー様とわたしは、ファーガス殿下に相対して並んで立っている。ふたりともただ立っているだけ。でも、肩が触れあってしまいそうだ。
そっと一歩、隣にずれる。
が、なぜかアーサー様も、わたしと同じ方向へ一歩動いた。
距離は広がらない。
あれ?と思い、もう一度。
わたしが一歩ずれる。アーサー様も一歩動く。
「……オリヴィア嬢、アーサーが悲しそうな顔をしてるぞ」
「えっ!?」
わたしは驚いてアーサー様を見上げた。
たしかに、表情はあまり変わっていないように見えるけれども……微妙に視線を逸らし、口角がわずかにさがっている。
王家と宰相家として、ファーガス殿下とアーサー様も幼いころから交流があった。
ファーガス殿下はアーサー様の感情を読みとれる数少ないスキルの持ち主である。
アーサー様と想いを通じあわせたわたしにも、アーサー様の表情がわかるようになってきた。
「ア、アーサー様。お仕事中ですよ!」
これは、お休みの日に二人でいるときの距離感だ。いくら昔馴染みで親しくとも、勤務時間中に第一王子の前で披露する距離感ではない。
そう諫めれば、アーサー様のお顔が微妙に引きしまった。「スン……」という感じに。
「すまない。……ファーガス殿下も、申し訳ありませんでした」
普段の、落ち着いた声色でアーサー様が言う。
「まあ別に、俺の前でそこまでかしこまらなくていいんだけどさ」
ファーガス殿下が面白そうに肩をすくめた。
今のはどうやら、ファーガス殿下の前でつい気がゆるみ、わたしに接近してしまっていたらしい。
おそらくアーサー様がわたしとの距離を詰めていたことも、表情の変化も、ファーガス殿下以外の人には伝わらないだろう。
「でも、一応言っておくな」
こほん、と咳払いをしたファーガス殿下がびしりとアーサー様に人さし指を突きつける。
「お前、浮かれすぎだろ」
アーサー様にツッコめる機会を逃さないファーガス殿下により、アーサー様はしばらく肩を落として反省していらっしゃるようだった。
めずらしくゆるんじゃってるアーサーですが、ファーガスの前だけなのでセーフということで……!
『仕事人間な伯爵令嬢は氷の宰相様の愛を見誤っている 2 ~どうやら溺愛されているみたいです~ 』
7月25日(金)発売です☆
イラストは引き続きすずむし先生にご担当いただきました。
ほとんど書き下ろしの2巻になります。お仕事しつつもイチャイチャ多めにしました!
表紙や挿絵でもアーサーが浮かれた表情をしています笑。
早いところではもう本屋さんに並んでいるみたいなので、ぜひチェックお願いします♡