デート編(5)
アーサー様がカタログをめくり始めたので、わたしも見てみることにした。
カタログには様々な宝飾品が掲載されていた。たとえば、婚約指輪とデザインを揃えたネックレスや、ティアラなどを作ることができるらしい。これなら結婚後も晩餐会などで使える。
さらには、宝飾品だけでなく、ウェディングドレスも〝ル=カメリア〟でオーダーメイド、という最上級プランまであった。
こっ、これは、王都じゅうの令嬢が憧れるプランなのでは……!?
カタログを持ちながら震えるわたしの肩ごしに、アーサー様がひょいと覗き込む。
「ではこのプランにしよう」
「そんなにあっさり!」
「いや、あっさりではないぞ」
アーサー様は小首をかしげた。流し目で視線を向けられて、胸がきゅんっとなる。
頬を染めたわたしにアーサー様が笑いかけた。でもそれはいつもの笑顔ではなく、どこかいたずらっぽい、挑むような鋭さがあり……。
「どんな指輪やドレスになるか……ワクワクしている」
たぶんこれ、アーサー様の「にんまり」だ! アーサー様、そんなお顔もできるんですね!?
そこまで言われてしまったら、わたしに断る選択肢はなかった。アーサー様と同じくらいか、それ以上に、わたしだって楽しみだ。
だって、カタログには、ウェディングドレスといっしょに、新郎の衣装もオーダーメイドできるって書いてあるんだもん……!
「では、フルオーダープランでございますね。どうぞ、こちらにサインを」
わたしがなにも言えないでいるうちに、アーサー様はなんの躊躇もなく契約書にサインをしてしまった。ヒエ……ッ。
「契約成立の記念に、わたくしどもからリボンを贈らせていただきます」
口をパクパクさせているわたしの前で、マダムが小箱を開く。
小箱には、淡いブルーのリボンが収められていた。
サテンのリボンには花を象ったレースがあしらわれ、中央には銀細工に小粒のブルーダイヤ。
「選んでいただいたものと同じ産地のブルーダイヤに、ドレスにも使うレースを組みあわせたものでございます」
小箱にリボンを入れ、わたしに持たせてくれながら、マダムはにっこりと笑った。
「指輪ができるまでは、こちらを侯爵様だとお思いになってくださいませ」
「!!」
わたしがアーサー様のことを考えながらブルーダイヤを選んだことは、マダムにはばっちり察されていたようだ。
ちらりとアーサー様をうかがえば、アーサー様もめずらしく頬を染めていた。
*
こうしてわたしたちは、ほくほく顔のマダム・ベイトラーと〝ル=カメリア〟従業員一同に見送られながら帰りの馬車に乗り込むことになった。
アーサー様は腕組みをして、窓の外を眺めている。アーサー様にしてはまだお顔の赤みがとれていないので、照れているのだと思う。わたしも心を落ち着けたくて、反対の窓から王都を眺めた。
ゆっくりと流れていく王都の景色は、平穏そのもの。店は人の賑わいであふれ、様々な品物が並ぶ。
思いがけず結婚式のことまで話が及んでしまい、なんだか頭がふわふわする。
アーサー様と結婚、結婚かあ……。
「考え始めると、明日にでも結婚してしまいたくなるな……」
「そっ、それは早すぎでは……」
ぼそりと告げられた言葉に、わたしは顔を赤くする。わたしの心の準備がまったくできておりません。
わたしの心以外にも、準備が必要なことはたくさんある。指輪やドレスのデザインも、今日すぐに決まったわけではない。何度か打ち合わせをしてイメージを固めていくのだそうだ。
お金がかかるぶん、時間もかかる。焦らず質を高めていく必要があるのは、仕事といっしょだ。
アーサー様がわたしを振り向いた。
「式の準備に忙殺されてオリヴィアとふたりの時間を減らしたくはない。休みを増やさなければ。なるほど、働き方改革は重要だな」
「はい……!」
わたしは両手のこぶしを握り、力強く頷いた。
わたしも理解できつつあった。なぜわたしたち以外の皆さんは休みをとりたがるのか。
彼らは、仕事以外にもやりたいことがあるのだ! だから休むのだ!
三年間仕事しかしてこなかったアーサー様とわたしにも、そんな真人間の感覚が芽生えつつあった。
デート編、ここで一区切りです。読んでくださってありがとうございます♡
本作のコミカライズが、本日2月14日からコミックガルド様でも連載開始です!
https://comic-gardo.com/episode/2550912965250296591
mako先生の描かれるアーサーとオリヴィアがま~~~~~じでかわいいので読んでください!
最初のカラーページのドレスのオリヴィアがもうかわいいです。
よろしくお願いします!