【コミカライズ先行配信記念】番外編.その後の二人
オリヴィアとともに山積みの資料に向かいながら、アーサーの心は弾んでいた。
今日のオリヴィアは、淡いブルーの生地に白糸で刺繍を施したドレスを着ている。
公爵令嬢セシリーから紹介された店で作った一着だ。派手な飾りはなく機能的なデザインながら、着る者を惹き立てる。清楚な印象を与えるところもオリヴィアにぴったりだ。
しかもこれは、アーサーの瞳の色と髪の色ではないか。
(いかん、胸がはちきれそうだ……)
ドキドキきゅんきゅんと音を立てる心臓を根性で静め、なんでもないような顔をしてアーサーは書類の確認を続けた。〝氷の宰相〟として、内心が表情に出ないことには定評がある。
アーサーと婚約し、オリヴィアは仕事一辺倒だった自分を見直したそうだ。こうして新しいドレス姿が見られるのはアーサーも嬉しい。それに髪型も、ひとつに結んだポニーテールにリボンといういつものスタイルもかわいいが、髪飾りをつけたり、編み込みをしたり毛先を巻いてみたりと、「工夫のしようがたくさんあるのです」とオリヴィアは言っていた。
髪型を変えると雰囲気が変わるのだということをアーサーは初めて知った。
『これまでの俺は、相手を見ているようで見ていなかったのかもしれない……』
祖父の代からダリエル侯爵家に勤め、アーサーの乳兄弟でもある従者ミハイルにそうこぼしたら、『気づけてよかったですね』と力強く励まされてしまった。
(オリヴィアは俺に様々なことを教えてくれる)
出会った瞬間からオリヴィアの笑顔はアーサーの心をとらえていた。婚約者となり、想いを通じあわせてからは、もっと。
ぎっしりと壁に据えつけられた棚にこれまたぎっしりと詰まった報告書や資料の数々に、ずっしりと重厚な執務机。そんな宰相室の風景でも、オリヴィアがいればきらきらと輝くようだ。
「アーサー様、この報告書なのですが……」
毎分十ページの手さばきで資料確認をしていたオリヴィアが、ふと顔をあげた。
と思えば目があった瞬間にぽっとその頬が染まる。
「どうした?」
「あっ、いえっ、アーサー様がほほえんでいらっしゃったので……」
アーサーは頬に手をあて、オリヴィアの指摘が事実であることをたしかめた。勤務中にはふさわしくなかったかもしれない、と表情を引きしめる。
「すまない。オリヴィアがかわいくて、どうしても顔がゆるむ」
「ふぐっ!!」
「大丈夫か?」
手元の書類に突っ伏してしまったオリヴィアに、アーサーは立ちあがった。机をまわり込んでオリヴィアの席へ行くと、オリヴィアはますます顔を赤くする。
「熱が――」
「ないです! こっ、これは、急に褒められたので……ありがとうございます」
両手で頬を押さえ、オリヴィアは赤くなった頬を隠した。立っているアーサーを見上げるオリヴィアは自然と上目遣いになる。
目元まで赤くなったオリヴィアの、緑の瞳がアーサーを見つめる。その瞬間ぎゅうっと心臓をつかまれたような衝撃に見舞われて、アーサーはよろめいた。
「アーサー様!?」
「問題ない。……いや、問題があるかもしれない」
姿勢を戻して手をあげたアーサーは、その手を顎に当てて考え込む顔つきになった。
「えっ、ど、どんな問題が?」
「オリヴィアがあまりかわいくなりすぎると、横恋慕する男が出てくるだろう。そうなったときに、俺のような朴念仁がオリヴィアの心をつなぎとめておけるかどうか……」
婚約して以降、アーサーとオリヴィアは食堂で昼食をとっている。その際、オリヴィアとの仲睦まじさを周囲に見せつけるように努力はしている。
オリヴィアを三秒以上見つめる男にはアーサーが割って入り、氷の視線を送れば皆が青ざめて目を逸らす。
もちろん、他人を蹴落としてオリヴィアを無理にこの腕の中に囲っても意味はない。
「オリヴィアに好きでいてもらえるよう、俺も努力する」
「――~~ッッ!!」
そう言ってにこりとほほえめば、オリヴィアは奇妙な叫びをあげた。
読んでくださる皆様、いつも感想ありがとうございます。
ティアラが愛されててニコニコしちゃいました私も大好きです!
さて、本日からコミックシーモア様にてコミカライズが先行配信されております!
1話は無料で読めますのでぜひ!読んでください!
https://www.cmoa.jp/title/310767/
mako先生のアーサーとオリヴィアがマジでかわいすぎてキュン死するので…
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