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25.家族顔合わせ

 その日の朝、わたしはそわそわしていた。

 お父様もそわそわしていた。お母様も、お兄様もお姉様もそわそわしていた。

 

「じゃあ、行ってくるわね」

 

 両親とわたしは馬車に乗り込んだ。

 門の前に並び見送るお兄様とお姉様の顔はこわばっている。わたしの正面ではお父様が、隣の席ではお母様が顔をこわばらせていた。

 

 今日は、ダリエル侯爵家との家族顔合わせの日だ。

 国王陛下が宮殿の一室を貸してくださることになったため、そこで両家の親同士を引き合わせようということになった。

 とはいえ、お父様とアーサー様のお父様はすでに顔見知り。というか、昔は上司と部下の関係だったらしい。

 

 沈黙の馬車の中、お父様がぼそりと呟いた。

 

「前ダリエル侯爵――ロベルト・ダリエル様は、笑ったところを誰も見たことがないというお方でな……」

 

 おや? どこかで聞き覚えが……。

 

「アーサー殿はロベルト様の若いころにそっくりなんだ……」

「お父様、アーサー様に惚れるなとか、最初に婚約反対とか言ってたのって、もしかしてロベルト様が怖かったからじゃ……」

「しいっ! いいか、それは絶対に言うな、ロベルト様にもアーサー殿にも言うなよ!!」

 

 わたしの、義両親になるのだけれど……?

 唇に人差し指を当て「しーっ! しーっ!」と言っているお父様に、わたしはそこはかとない不安を覚えたのだった。

 

 

 結論から言えば、不安は杞憂だった。

 

「やあ、ご無沙汰していた、フォルスター伯爵。フォルスター夫人、オリヴィア嬢、はじめまして。私がアーサーの父、ロベルト・ダリエルです。ロベルトとお呼びください」

「母のラヴェンナ・ダリエルですわ」

 

 ダリエル夫妻はわたしたちを笑顔で出迎えてくれた。

 ほっとするお母様やわたしの横で、お父様だけが信じられないものを見る顔でぽかんとしているので、笑った顔を見たことがなかったというのは本当らしい。

 

 挨拶をしあう両家の親たちのわきを抜け、アーサー様がそっとわたしの隣にやってくる。

 

「先週から、父に言って笑顔の練習をさせたんだ」

「そ、それはお手数をおかけしました」

「良好な人間関係における笑顔の重要性を伝えたら納得してくれた」

 

 ロベルト様はにこにこと笑っていらっしゃる。

 これ、一週間の練習の成果なんだ……でもアーサー様も一度笑顔を体得したあとはわたしの心を撃ち抜き続けてきたから、ロベルト様が素敵な笑顔を体得されたのもおかしくはない。

 

 そう思いながら隣を見たら、ロベルト様以上の笑顔でアーサー様がわたしを見ていらっしゃったので、わたしは慌てて視線をダリエル侯爵夫妻に戻した。

 

 ご両親のどちらにもアーサー様の面影がある。というかご両親ともかなりの美形である。

 ん? わたし、このご家族の中に嫁ぐの……?

 

 思わず表情を曇らせるわたしに、なにかを察知したのかアーサー様が寄り添う。

 両親たちからは見えないようにスカートのふくらみに隠しながら、そっと手を握られた。

 

「好きすぎて仕方がなくて婚約してもらったんだ。もう離さないよ?」

「あ、あれ……」

 

 嘘や冗談じゃなかったんですね、と言おうとして口をつぐむ。

 わたしが偽装婚約でも嬉しいと思ったように、アーサー様も始めから本気だったのか。

 ……アーサー様の本気モード、ちょっと怖いな?

 

 でもわたしもティアラ様に同じことを言ってしまったし。

 仕事のつながりだけでいいと思っていたのに、今は好きすぎて仕方がない。

 

「そ、それは、わたしもですから……」

 

 うつむきながら、わたしは顔を赤らめた。

 お化粧やドレス選びは、なんとなく身についてきたと思う。まだまだ苦手な社交もがんばって、アーサー様に愛想を尽かされないようにしなくちゃ。

 

「ずっと、いっしょにいてくださいね……」

 

 アーサー様だけに聞こえるように小さく呟くと、つないだままだったアーサー様の手がぴくりと跳ねた。

 

 なんだろう? と思う間に、アーサー様のお顔が真っ赤になっていく。

 

「うひゃっ!?」

 

 がばりと抱きしめられて、わたしは素っ頓狂な声をあげてしまった。

 挨拶をする両家の親たちに気づかれないように、という配慮は、アーサー様の頭から吹っ飛んでしまったらしい。

 

「ああ、もう、かわいい」

 

 ぐさぐさと視線の突き刺さる中で、耳元でアーサー様の声が聞こえた。

 銀の髪がやわらかく頬を撫でる。

 

「一生離さないから、覚悟してね」

 

 もしかして、アーサー様の愛はわたしの想像以上なのかもしれない、と、わたしはそのとき初めて気づいたのだった。

お読みいただきありがとうございました…!!

これにて完結となります。

連載中、応援してくださった皆様、ありがとうございます!


アーサーは恋愛経験値がゼロだっただけで基礎能力も応用力も高いのでこの先もオリヴィアが慌てるくらい愛してくれると思います。


いったん完結ではありますが、来週あたりに番外編も書きたいなと思っているので、もうしばらくお付き合いいただければ嬉しいです。

アーサーとオリヴィアの出会いや、オリヴィアとミハイルのお話など、考えています。


最後にお願いです!

もし「面白かったな」と思っていただけたら、↓の☆☆☆☆☆を押して応援していただけると嬉しいです!

次回作へのモチベーションになります~!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 優秀なのに恋愛はダメダメな人ってほんとうに大好物なんですが、今回はヒーロー・ヒロインともにそうだったのでニマニマが止まりませんでした。 やっぱりマスクはまだ必需品です。 とっても面白くて…
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