9.氷の宰相は落ち込んでいる
※ミハイル(アーサーの従者)視点です
どんよりと曇ったオーラを放っている主人に、ミハイルは面倒くさそうな顔を隠さなかった。
ただ、無視をするわけにもいかないので、面倒くさそうな顔のままその日あった出来事を切々と語るアーサーに向きあった。
「つまり、初めて人前で笑ってみたと」
「もしかしたら、オリヴィアに意識してもらえたかもしれん……」
「もちろんそうでしょう。すばらしい行動力です」
かああ、とアーサーの頬が赤らむ。
周囲に花でも飛んでいそうな浮かれ具合だ。
(むしろこの顔を見せたほうがよくないですか?)
そう思いつつ、笑顔を見せたこともふたりの関係を進めるためには大きな一歩だっただろうとミハイルは頷いた。
オリヴィアの言うとおり、アーサーの笑顔は文句なしに特別なものだ。
その価値の重さを理解しているからこそ、オリヴィアは真っ赤になって照れたのだ。
だが、浮かれていたアーサーの顔つきはみるみる曇り、
「そのあとすぐ、オリヴィアは熱を出してしまったようでな……すぐに家に送り届けたが、馬車の中でも大丈夫だとうわごとのように繰り返すだけで……やはり彼女に負担をかけすぎていたのだ。恋愛に浮かれている場合ではなかった」
「いや恋愛下手クソですか?」
「ああ……切れ者だなんだともてはやされていても仕事以外には能のない男だ。不調さえ気づけないなんて」
「そういう意味じゃないです」
きょとんとした顔を向けるアーサーに、ミハイルはため息をついた。