後編
かなり後編が遅くなってしまいました。すみません……。
私は観念して、女であることを明かした。
最悪首切り、良くて解雇からの辞職。
そう思っていたのに、その結果はあまりにも意外過ぎるもので。
「そうか。それほどまでに剣が好きなんだな。……気に入った。お前のことはこの先もこの屋敷に留め置いてやるとする」
「はへ? ほ、本当にそれでよろしいのですか。私は規則違反をして騎士団に入隊したような痴れ者なのですよ?」
「そう情けない声を出すな。強い女性は嫌いではない。そもそも、女が騎士になれないという規則自体がどうかしていると前から思っていたのでな」
「あ、ありがとうございます……」
声を震わせながら、私はセオドア様に深く深く頭を垂れた。
てっきりこの時の私は無条件で許してくださるのだと思っていたのだ。しかしその考えはあまりにも浅はかだった。
「その代わり、お前は女であることを隠すな。ありのままの己でいろ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――もしも仮に女でも騎士になれるとして、女として生きたいか今のまま男として生きたいか。
そう問われれば、私は答えに詰まってしまうだろう。
女になれるのならば、嬉しいには嬉しい。
肉体的には間違いなく女なのだし、恋愛対象だって男なのだ。実際、同僚のチャドに恋していた時もあったくらいだからだ。
しかし今まで私は二十年以上の時を男として生きている。今更女の生き方を学ぶとなれば、それは至難の業だろうと思えた。
剣を振ることとどうやって男を演じ続けるかばかり考えていたのだ。
こんな人間が、女らしい女になれるはずがない。
それに、女になることで友人たちとの関係を壊したくないとも思う。
セオドア様がどうして私に女でいることを求めるのかはわからなかったが、正直この首を捧げるか否かと天秤にかけてしまうくらいには悩ましい話だった。
しかし。
「俺はお前が気に入った。決して悪いようにはしない」
そんな風に言われてしまえば、私は首を縦に振らざるを得ない。
「……はい、わかりました」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――だがまさか、こんな大ごとになるだなんて。
私は正直困惑していた。こんな状況に陥ったら誰でもこうなると思う。
多くの貴族が集まる場で、騎士団の改革を叫んだセオドア様。『本来騎士は強き者がなるもの。それを家柄や性別によって決めるなど、古き悪習だ』と言ってのけたのだ。
もちろん彼の発言への反発は大きく、大勢の貴族がセオドア様を糾弾した。
すると彼は後ろに控えていた私を前面に押し出し、「なら彼女の力を見てみろ。私の意見に否を唱える者は己の騎士を戦わせてみるがいい」などと言い出すのである。
事前に何も聞かされていない私は何が何やらわけがわからなかった。
だが、私が困り切っている間にも話は進む。セオドア様が私を『女騎士』として紹介したことに会場はどよめき、セオドア様を糾弾していた貴族直属の騎士たちが次々と私に剣を向けて来た。
「……セオドア様、なんということを」
「この先も俺に仕えるつもりがあるのなら、ここで力を見せろ。期待している」
私はセオドア様の騎士。
ここで負ければ主の期待を裏切ることになるし、第一セオドア様の名誉が穢される。
私のせいでそんなことになるのだけは絶対に嫌だ。
ふと視線を上げると、騎士仲間がこっそりと私の様子を窺っているのが見える。
彼らは主や大勢に見られている手前、大っぴらには何も言えないに違いない。しかしこっそり応援してくれているのがわかった気がした。
だから、
「負けてやるもんか」
私は剣を振るった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結論から言えば、私は勝った。
だがそれでは終わらなかった。何せ古くからこの国で守られて来た規則を変えてやろうというのだ、そう簡単に話が進むはずがない。
しかし私のとんでもない奮闘ぶり――何せ三十人以上を相手に一人きりで立ち向かったのだ。火事場の馬鹿力というか、あの時にしかできなかっただろうと自分でも思う――を見て私を認めた者は多く、騎士団本部との対立は色々あったものの、一年以上かけてようやく女騎士として認めてもらえるまでに至ったのだった。
その詳細はあまりに長くなり過ぎるので割愛するとしよう。
大事なのは、初の女騎士、オーブリー・エンメディが誕生したということ。
そしてその祝いの席で、セオドア様からこんな驚きの告白をされたことだった。
「我が騎士オーブリー・エンメディ。俺はお前の強さに惚れた。
俺の傍にあるためここまで協力してくれたこと、ありがたく思う。これからは俺の騎士としてだけではなく、一人の女として俺を支えてほしい」
「……今、なんと?」
「端的に言ってやる。お前が好きだ。結婚してくれ」
「――――」
私はもちろん、その場にいたアーサーやバロン、チャドまでもが唖然となったのは言うまでもない。
あまりにも端的過ぎるだろう。それに、私たちはあくまで主従関係だというのに。
「いけませんセオドア様。あなたにはもっとふさわしい人が……」
「俺だってお前のために社会的にも肉体的にも死ぬかも知れない道を選んだんだぞ? お前を娶る権利くらいあると思いたいんだが」
「わ、私、女としての魅力はありませんよ? 体型がこう、男っぽいというか」
最近の私は男装をやめたが、それでも体つきは一向に女性らしくならなかった。
「喋り方も全然可愛げがなくて、女らしさなんてかけらもない。そんな私が公爵閣下と釣り合うはずがありませんよ」
下手くそな拒絶をしてみるが、セオドア様がそんなことを聞いてくれるわけもなくて。
彼はニヤリと言って、私に言った。
「強いお前が好きなんだ。釣り合うとか釣り合わないとかはどうでもいい。女らしさがどうだのこうだの、そんなのは古臭い悪習だ。そうだろう?
今度こそちゃんとお前の股間を見せてもらうから、その気でいろよ? ……もちろん、前とは別の意味で、だけどな」
この時の私はまだ知らない。
ここからセオドア様に砂糖菓子よりも甘い愛の言葉を囁かれ、簡単に絆されてしまうことになるだなんて――。
これにて完結です。
お読みいただきありがとうございました。




