ただ平和を望んでいる。
プロローグ
平和はいい。
この晴れ渡る青空の下、何も考えずに本を片手にふらふらと散歩ができる。
少し木陰になっている場所を見つけて、腰を下ろして本に目を落として時間が流れる。
眠気がきたら目を瞑り、ゆらゆらとその眠気に身を任せてみる。
1日はゆっくりと時を刻み、小鳥のさえずりが昼時を知らせてくれる。
持ってきたサンドイッチを頬張りながら、何も考えずに街を見下ろす。
なんて素晴らしい時間だ。
こんな怠惰な時間が私を幸せにする。
この時間を壊すものを私は許さない。
だから、壊すものは全て壊す。私の幸せを邪魔するものは敵でしかない。
そして、その敵は突如としてやってくる。
ほら、やってきた。
私の幸せな時間がゆっくりと終わりを告げる。
絶対に許すことはできない。
では、私の幸せを壊しにきた者を壊しにいこうか。私の幸せを守るために必要なことだ。
私は魔族である。
私の名前は、ラインリッヒ アースガル。
年齢は18歳で、魔族は長命なため魔族の中ではよちよち歩きを始めた赤ちゃんと変わらない程度である。
見た目は、自分で言うのもなんだが中々イケている。銀髪に赤い眼、筋の通った鼻と薄めの唇、肌は少し白いくらい、身長は190cm程度で細マッチョ。自慢していいくらいには容姿が整っている。
しかし、性格は魔族に似合わず争いごとをきらい、至って温厚。他の魔族からは優しすぎるなんて言われてしまうが、他のやつが過激なだけで余計な厄介事が面倒なためそれを避けるようにしているだけだ。
基本的にダラダラすることが大好きで、働きたくないダメニート魔族だ。
怠惰を愛し、平和を願う魔族の1人なのだ。
それなのに、この平和をぶち壊しにきた者がきた。
『アース様。お休み中失礼いたします。』
話かけてきたのは、私専属のメイドであるメアリーである。見た目麗しい黒髪の超絶メガネ美人で、スタイル抜群の出来る秘書風な最強属性の人物である。
普段は、絶対に私のこの時間に水を差すことなどしない完璧なメイドが話しかけてきたのだ。
『キルスター様がお呼びになっています。誠に申し訳ありませんがお屋敷にお戻りいただけませんでしょうか。』
えーやだ。
とは言えないため、『わかったよメア。このコーヒーを飲んだらすぐに戻るから下に馬車を用意しておいてくれるかい。』
『承知いたしました。』
踵を返して、スタスタと歩く姿を眺めながらコーヒーを一気に流し込む。
めちゃくちゃいい尻してる。。。
さて、一息ついたし向かうとしますか。キルスターさんが来たと言うことは厄介事以外の何事でもないのだから。
馬車に乗り込み、この街で一番大きく目立つ屋敷に向かう。私の家は大きすぎるんだよ。別に生活するのにこんな大きさいらない。だって、寝室と風呂と食事する部屋と書庫とリビング以外はほとんど使ってない。てゆーか入ったことない部屋の方が多い。距離が長いから不便この上ない。掃除だって大変だし、何人もの使用人がいないと管理なんかできない。たぶん私1人だったら廃墟となっているに違いない。
そんなことを考えながら、ぼーっと外の街並を眺めていたら、いつの間にか到着したようだ。
馬車の入り口が開き、メアが頭を下げて外に待機している。馬車から降りると天気が良いため太陽の光で目が眩んだ。目が慣れてゆっくりと馬車の階段を降りて屋敷の前に立つと他の使用人が右と左に分かれて並んでいる。その真ん中をメアと2人でゆっくりと進んでいく。
『『おかえりなさいませ、ご主人様』』
一斉にみんなが私に向けて挨拶する。
『ただいま、皆さんいつもありがとう』
そんな返事をしながら歩く。
ほんとにウチの使用人は美男、美女揃いで目の保養に事欠かない。ちょっとお辞儀したメイドの胸元を覗き見ていると、
メアが、『キルスター様がお待ちですので、お急ぎ下さい。』と催促してくる。
メアの顔をみて、『ああ』と生返事する。
めっちゃ恐い目してた。バレバレです。
メアさんは、ツン属性もお持ちで最強生物であることを再確認しながら屋敷に入る。
客室に向かって歩くと扉の前に到着した。メアが開いてくれる。そして中に入ると部屋にある何の皮かわからない上質なソファーに座っていたイカついおっさんが立ち上がり、こちらに向かって膝をついた。
『ラインリッヒ王、お待ちしておりました。』
そーなんだよ。
私はこの魔族の国の王なんだよ。ちょー面倒くさいやつなんだよ。
世界中の人は、私のことを魔王と呼ぶ。